「視覚的断崖」… 顔色をうかがうあかちゃん

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//米国のカリフォルニア大学バークレー校のジョセフ・キャンポスは、「視覚的断崖」呼ばれる実験装置を使って、赤ちゃんを研究しています。//開一夫『赤ちゃんの不思議』p123 上図も。

 強化ガラスの上とはいえ、落差次第ではおとなでもびびる。安全を確保した上での仕掛けと信じるから足を踏み出してみようと思う。
 あかちゃんの前方にママがいて這い這いする。//ハイハイし始めてまもない赤ちゃんの場合は物怖じせずに前の母親に向かって進みました// //が、同じ月齢でもハイハイし始めてしばらくたった赤ちゃんの場合は、この装置の上に乗せても前に進もうとしませんでした。//p124

//つまり、この実験は、赤ちゃんは「生得的に」奥行き方向〔※〕の情報と回避行動を結びつけているのではなく、ハイハイの「経験」によって恐怖による回避行動が生起することを示唆しています。//p124
※奥行き方向……//奥行き知覚(深さ方向の知覚)//p123

//話はこれだけでは終わりません。赤ちゃんが渡ろうかどうか迷っているときに、母親が赤ちゃんを見てにっこりと微笑んだ場合、赤ちゃん(1歳前後)は断崖を進んでいったのです。一方、母親が「こわばった」表情をした場合は、断崖を進もうとはしませんでした。このことはまさに赤ちゃんも母親の「顔色をうかがう」ことを示唆しています。//p124

──だがしかし //「笑顔のお母さんのところに行きたい」という気持ちが「怖さ」に打ち勝って断崖を渡らせたのかもしれません。//p125

──そこで別の研究を……。おもちゃが2つあって、片方を「笑顔」で、もう片方を「怖がっている顔」で取り分けると、それを見たあかちゃんは //笑顔で見ていた玩具はそうでない場合よりも選択されやすく、怖がっている顔で見ていた玩具は選択されにくいという結果になっています。//p125

──結論として……。//赤ちゃんが生まれてから経験する状況・対象は、新奇なものばかりです。事物の好き嫌いの元になる「最初の」出来事は、お母さんやお父さんの好き嫌いに基づいているのかもしれません。時には、生命にかかわるような危険な状況にも遭遇するかもしれません。赤ちゃんは、他者の表情を巧みに読み取ることで、危険を回避し自らの行動を決定しているのです。//p125

(参考)三本ストロー法 ── 動物から ”にんげん” になった!

  • 出典
    • 開一夫『赤ちゃんの不思議』
      • 岩波書店(岩波新書)2011年

アフォーダンスの研究者は……

p120
//私たちはヒトの乳児を観察する断崖を作った。私にとってはそれがヒトの乳児を実験する初めての経験だった。参加者はどうやって確保したか? 私たちは新聞の広告でハイハイしている乳児を募集し、参加料として三ドル支払うと書いた。夫は「誰も来ないよ。あかちゃんにショックを与えるとみんな思うさ」と言った。確かに私はヤギと羊にはショックを与えた。ところが実験室の電話は鳴り続け、ハイハイ中の乳児がやってきた。年齢の幅は広かった(6ヵ月半から12ヵ月)。大半の乳児が、母親が渡るように促しても、深い方を回避した。私たちは、ヒトの乳児の奥行知覚は、移動ができるようになるまでには発達していると結論した。今日の私たちが知っているように、それは疑問の余地のないことだ。しかしながら、移動の仕方がハイハイの経験によって変わることも確かである。ハイハイしたての乳児は、断崖の深い方と浅い方に同じくらい降りる傾向がある。それは奥行知覚ができないからではなく、確実な表面の選択ができるようになる前に乳児には視覚的に制御された移動の経験が必要だからである。乳児は自宅をハイハイで動き回ることで、どの表面が安全な移動をアフォードするかを学習する。その後の多くの研究(大半は他の実験者が行った)によって、この事実が明らかにされた。さて、『サイエンティフィック・アメリカン』に掲載された論文(E.J.Gibson & Walk, 1960)で断崖上のあかちゃんが一躍有名になり、私たちはある意味の名声を手にした。//
※夫……ジェームズ・ギブソン

その他……

//何をやってもだめとか、非常にむずかしい工夫をしないとだめとかいう状況は自然の中の生きものにはそう起こることではなく、それが起これば第一巻の終りとなるだろう。しかしできる範囲の「一工夫」は、少し違えてやって見てそれがうまくいく、言わば試行成功法と言うべき経過になるのが期待できるような状況で行われている、それが自然の場合ではないだろうか。//久保田正人『二歳半という年齢』p31

──と言いながらも、失敗することがある。
//適応力にも個体による差があって、お乳の飲み方が下手だった、ということが精神発達障害児の場合にままあるのも、偶然ではないのだと思う。//同p32

2022.10.9記す

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