鉄壁の脳 | 学習ノート

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脳の間質液は、──
//それ自体が特別なはたらきを持ち、生きている脳の中で重要なプレーヤーとしての役割を果たしている。//
//頭蓋骨の下を流れている無色透明な液体、脳脊髄液が脳組織に染み込んでできています。たとえば間質液が海であるとすると、脳脊髄液は海に注ぐ川の上流に当たります。//p136

  • 頭蓋骨
    • //頭蓋骨という硬い容れ物によって守られていて、文字通り”箱入り”//p37
    • 脳の特殊性」//脳というのは、他の臓器と比べても非常にユニークな性質を持っているのです。
       脳という臓器ほど堅牢に守られているものはないでしょう。過剰とも言えるほどの好待遇で、二重三重に外部から守られています。健康な状態では、外部環境とほぼ隔絶していると考えても良いでしょう。//p34
  • 脳の「すきま」=細胞外スペース脳の間質……//細胞間隙(さいぼうかんげき)と呼ばれ、単なる空間だと思われていたものが、じつは重要なはたらきをになっていた//p100 //シナプス間隙も細胞外スペース//p108
    • 間質液(細胞間質液、細胞外液とも)
      • 脳脊髄液(髄液とも)
  • 血管周囲腔
  • 血液脳関門……//運ばれてくる血液に対するバリア//p35 脳を守る //もっとも重要な// しくみ。

p137
//生物の体の環境を一定に保つしくみのことを恒常性といいますが、ヒトも含めて生物にとって体内環境は、「変わらないこと」が重要です。//

p141
//脳細胞をはじめとして、体細胞が活動すると代謝老廃物が発生します。//

  • p141
  • 体組織……//毛細血管から染み出してきた血漿成分が間質液となり、不要なタンパク質や老廃物を運び、リンバ管へと排泄します。//p141
  • 間質液……//消化吸収された脂質を運搬するはたらきや、体内に入ってきた病原体からの防御を担う免疫細胞を産出し全身に送り出すなどの重要な役割を担っています。//p141

p141 既知のリンパ系に対して
//ところが、これまで脳にはいわゆるリンバ管が見つかっておらず、脳にはリンパ排泄のしくみはないと考えられていました。しかし、脳細胞が活動すれば、代謝老廃物は必ず発生します。それをどのように排泄しているのかについては、長年わかっていなかったのです。//

p142 2015年アメリカで、髄膜にリンパ管の実在が実証された。//厳密な意味では、脳は、軟膜より下の脳実質と呼ばれる組織//p41 なので、髄膜は脳実質に含まれない。
//依然として、脳内ではどのように老廃物の排泄をおこなっているかの全貌は明らかになっていません。//
//脳脊髄液と間質液が入れ替わることで、脳に溜まった老廃物を排泄しているのではないか──すなわち、脳脊髄液が脳のリンバ排泄とも言うべきメカニズムに関与しているのではないか、という考え方が注目を集めているのです。//

血管周囲腔

毛内拡『脳を司る「脳」』p144

p145 アストロサイト……グリア細胞の一つ
//アストロサイトは、ニューロンとは異なり電気的な活動はせず、シスプスも形成しません。アストロサイトが持つ足突起と呼ばれる微細な突起が、脳血管をくまなく取り囲み、バリアを形成しています。//

p145 アクアポリン4……タンパク質の一つ
//アクアポリンは、水分子だけを選択的に通過させることができる通り道で、水チャンネルとも呼ばれています。現在までにアクアポリンは13種類が発見されていて、ヒトでもたとえば腎臓における水の交換に重要な役割を果たしていることが知られています。アクアポリンを発見したアメリカのピーター・アグレは、2003年にノーベル化学賞を受賞しました。
 脳の中の主要な水チャンネルはこのアクアポリン4で、腎臓ではたらいていることが知られているのと同じ種類です。//

p145 アクアポリン4と、アストロサイトの足突起
//アクアポリン4がおもしろいのは、脳の中で、ニューロンではなくアストロサイトの、しかも足突起に集中して存在していることです。アストロサイトの足突起は、脳血管をくまなく取り巻いていますから、脳血管のまわりにはびっしりとアクアポリンが整列することになります。//

p147 グリンファティック・システム
//脳のリンパ排泄を裏付ける大発見を、イリフネーダーガードは、リンパ系的機能(リンファティック)ということで、グリンファティック・システムと名付けました。この機構は、まだ検証中であり、評価が定まっていないことに注意してください。//
※ジェフェリー・イリフとマイケン・ネーダーガード(アメリカ)……2012年、//脳脊髄液が血管周囲腔から徐々に脳の内部に浸透していく現象を初めて観測することに成功//p143

脳の中を(動脈側から静脈側へ)水が流れていることから……

p149
//こうしたことから、私たちの脳の中では、寝ている間に、脳脊髄液がアミロイドβなどの認知症に関連する老廃物を洗い流してくれているのかもしれません。これまでただ脳の中を満たしているだけと思われていた「水」が、脳の掃除をするという大きな役割を担っている可能性があるのです。//

なぜ、寝ている間なのか?

p148
//睡眠時には覚醒時に比べて細胞外スペースが広がっているということが明らかになったのです。たとえ覚醒していても、ノルアドレナリン受容体を阻害することで、細胞外スペースが広がるということがわかりました。つまり、細胞外スペースが広がることで水の通り道が拡がり、脳脊髄液の流れが良くなったと解釈することができます。したがって、細胞外スペースは、脳のノルアドレナリン濃度によって伸び縮みしている可能性があります。//

ただし、混同が…… p149

  1. //古典的な脳脊髄液の循環//://クモ膜下腔を流れてクモ膜顆粒から静脈系に吸収されるという古典的// 循環
  2. //アストロサイトによる脳脊髄液と間質液の交換のメカニズム//

「グリンファティック・システム」は(2)の呼称だが、(1)と(2)を混同している研究者 //多々見受けられる//としている。

  • 現象「グリンファティック・システム」と呼んでいい3つの条件
    1. //グリア細胞のアストロサイトに発現しているアクアポリン4が関与していること//
    2. //単なる拡散ではなく、動脈側から静脈側への積極的な流れであること//
    3. //ノルアドレナリンに依存していること//

p150
//グリンファティック・システムは、非常にセンセーショナルでわかりやすいので世界的に流行しており、研究業界でも、猫も杓子も二言目にはグリンファティック・システムという状況です。みなさんが情報収集する際には、ぜひ注意していただき、正しい情報を得て、正しい理解を心がけてほしいと思います。//

//「グリンファティック・システム」をめぐる論争// p151~155

 反論が出るのは以下のとおり、//注入に使用するトレーサーや注入の方法、麻酔が統一されておらず、実験結果を一意に解釈するのは容易でないためです。//p155
 ほか、//技術的な制約に由来するところが大きい//とし、//脳の水の動きを直接可視化する方法があれば//と課題をあげている。p151
p151
//残念ながらそのような技術を、今のところ人類は持ちあわせていません。今ある限られた技術の中でアイディアを実証する、あるいは、共同研究によってこれまで誰も思いつかなかった新技術を開発・検証するのが研究の醍醐味でもあります。脳の中の水の流れを直接「視る」のは、もう少し先の話になるかもしれません。//

  • //分子量の大きなトレーサーで本来の脳脊髄液の流れがわかるのか?//
    • トレーサーの //蛍光分子は、水分子と比べて非常に大きいため、溶質であるトレーサーの動きが直接、溶媒である水の動きを反映しているとは限りません。//
  • //生体膜に穴を開けて実験することで、脳脊髄液の流れが変化するのでは?//
    • //本来は完全に密封されている生体膜に直径0.4mm程度の穴を開けると、たとえば覚醒状態で自由に動き回る際にすきまや漏れが生じるのではないかという懸念があります。//
    • //毎分1~2µLのトレーサーを外部から注入することによって、自然な脳脊髄液の流れや脳の中の圧力が急激に変化する可能性があります。//
  • //実験時に使う麻酔薬が脳に影響をおよぼすのでは?//
    • //ほとんどの全身麻酔薬はどうして効くのかわかっておらず、全身麻酔の作用機序を解明したらノーベル賞間違いなしとも言われています。詳しいメカニズムは解明されていませんが、麻酔薬は当然、脳の活動に影響を与えますし、脳脊髄液の動きも麻酔によって影響を強く受けることが報告されています(作用のメカニズムはわかっていないのに、人間の手術などでも実際に使用されているのは驚きです)。//
      • ※ということは、麻酔専門医はどのように育成されているのだろう?
  • //脳脊髄液の「積極的な流れ」は本当にあるのか?//
    • //積極的な流れの存在は、アミロイドβのような重量のある物質を排泄し、脳の健康を保っているという魅力的なアイディアの根拠となっているため、さらに慎重な検証が必要となります。//
  • //アクアポリン4が脳脊髄液の浸透に本当に関わっているのか?//
    • 著者も参画した実験チームの結果 //たしかにアクアポリン4欠損マウスでは、脳脊髄液が浸透する割合が低いということを示しました。他のグループも各々、同様の結果を示しています。//

謎多い〈細胞外スペース〉

p155 グリンファティック・システム説が話題になることで
//脳のすきまである細胞外スペースやそこを満たす間質液脳脊髄液など、これまであまり注目されてこなかった脳を構成する要素にスポットが当たった//
//これまで脳神経の研究は、おもにニューロンを対象におこなわれてきましたが、それだけでは真の脳の理解、あるいは脳の病気の理解や治療法は得られないと思います。//

  • //良質な睡眠が健康維持に重要であるというのは、当たり前のことのようですが、脳にとってはじつは脳脊髄液の流れも重要な側面なのかもしれません。//(アルツハイマー病との関係において)
  • //虚血状態の脳組織では、さまざまな要因によって細胞外環境が変化するため、結果的にニューロンが異常な興奮状態を示します。あるいは細胞が破壊します。そうすると、間質液には高濃度のカリウムイオンが溶出し、周囲のニューロンに異常興奮の波が伝播します。異常興奮を脱したあとは、高濃度のカリウムイオンを含む間質液が滞留するため、ニューロンは電気的な活動ができなくなり長期間の抑制を受けます。その間もエネルギーを使用してポンプを駆動し続け、イオンのパランスを保とうとしますが、やがてエネルギーが枯渇して壊死してしまいます。//(脳卒中との関係において)

p162
//脳は頭蓋骨や髄膜などで覆われ、さらに血液脳関門によって外部環境からは完全に隔絶されています。多くの薬学研究者にとって、開発した薬が血液脳関門を通過できるかどうかというのは重大な問題ですが、残念ながらその多くは通過することができません。//〈中略〉//このように、脳脊髄液を使って血液脳関門を通過できない重要な薬物を脳に届けるということは魅力的なアイディアに思えます。脳への薬物送達の観点からも、脳脊髄液の動きというのは注目を集めているのです。//

p163
//人体の6割以上が水からできているにもかかわらず、私たちは水そのものの動きを標識なしで可視化するツールをまだ持っていません。//

p163
//脳脊髄液は、常に流れて入れ替わることで脳の健康を維持しています。変わり続けることこそが「生きている」ということの実体と言えるのかもしれません。//
福岡伸一『動的平衡』木楽舎 2009年 の主張と重なる思いがする。
(参考)動的平衡と渚と紙飛行機

2022.10.25記す

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