鏡のなかのチンパンジー ── 擬育49

 チンパンジーの遊んでいる部屋に鏡をおいた。10日間、鏡の前で遊んだり食べたり、なんでも自由にさせた。そして、ごめんね、麻酔で眠らせて眉の上、額にマークをつけた。マークは匂いのしない染料で。さて、眠りから醒めてしばらくの間、鏡を取り外しておいた。チンパンジーはマークに気づくことなく、だから額のマークをさわりにいくことも、もちろん触って匂いを嗅ぐという動作もしなかった。つまり何も気づかなかったということだ。そして、ふたたび鏡をおいた。
 すると鏡に映った自分を見たチンパンジーはマークに興味をもち、さわったり、さわった手を見たり、手の匂いをかいだり、手を念入りに調べた。
 じつは、チンパンジーは1ぴきでなく、複数いた。その複数みんなが同じことをした。この実験をしたアメリカ人・ギャラップは大発見だと思い驚き興奮した。──鏡のなかに見えているのが自分の顔だと、チンパンジーが理解している、とわかったからだ。1970年頃の話。
 人間の子どものように育てられた「チャンテック」と名づけられたオランウータンは、鏡をつかって身づくろいをしたり、6歳のときはサングラスをかけて鏡にむかったという。(出典:『うぬぼれる脳』NHKブックス 2006年)

 チンパンジーは およそ500万年前に、オランウータンは1300万年から1400万年前に ヒトの系統と分岐したと算定されている。未来500万年後チンパンジーは、未来1300万年後オランウータンは、私たちのような人間になって二足歩行をしているのだろうか。作物を作ったり、化粧をしたり、娯楽を楽しんでいるのだろうか。そのとき、人間はどうなっているのだろう?
 人間の場合、”鏡の自分”に気づくのは、いつ? 前回の「他者の発見、他者との出会い」では「生後2年め終わり」(36か月未満)と記した。「18か月」という別な記録もありこれは1年半だから、けっこうな幅がある。”鏡の自分”に気づくということが、ただちに「自己の発見」ではないと諒解しておいたほうがよいだろう。

2020.12.15記す