友達(他者)の心を読む能力 ──「心の理論」

 〈「心」の理論〉ではなく〈「心の理論」〉だ。〈「心の理論」の理論〉でも、ない。《心とは何か?》というやっかいな難問だが、人間と同じ心をチンパンジーも持っているのだろうかと研究者は実験を続けている。「他者の心を読む類人猿」と題したレポートが2017年、岩波書店発行『科学』1月号に掲載されている。「心の理論」について要領よく次のように解説されている。

 他者の心を読む能力は、社会生活においてもっとも重要な能力のひとつである。他者が何を考えているか、どのような気持ちでいるのかを察することで、協調したり、無用の衝突を避けたり、逆に出し抜いたりできる。他者の心を読む能力を、心理学では「心の理論」と呼ぶ。他者の心についての「理論」を構築する能力、という意味である。

 ジュリア・ポール・キーナンほか著『うぬぼれる脳』(NHKブックス 2006年)では次のように解説されている。

 他人もまた自分と同じような考えをもっているということを理解できる能力

 1歳、2歳の幼い子どもは名前を呼べば振り向く。あかちゃんも名前を呼ばれると重い頭を持ち上げて這い這いしてくる。しかし、名前を”自己”として、あるいは鏡に映る向こうの”自己”や、好き好きしてくる”他者”の気持ちがわかるようになるには、かなりの時間(2~4年)かかるようだ。

 1歳では無理だが、1歳半から2歳児は、他人の心的状態にいくらか気づいている

── J・W・アスティントン『子供はどのように心を発見するか』新曜社 1995年

 7歳くらいまでに「他人にも自分と同じ心がある。しかし他人はそこに自分とは違う考え方をもっている」ということが理解できるようになる。これが「心の理論」である。

── 福岡伸一『動的平衡』木楽舎 2009年

 保育園の年長児は5~6歳だ。ということは、友達の気持ちや考えを推し量れない子がいる。クラス運営では、そういう子が少なからず含まれるということになる。

 心の状態への意識的な気づきは、健常の4歳児に自己統制力が出現する必要条件になるとの興味ある可能性に注目しています。そして自分自身の心を理解するのは、自己統制力をいかに発揮するかへの洞察を深めるという、説得力ある示唆を行っています。

── ウタ・フリス『新版 自閉症の謎を解き明かす』東京書籍 2009年

 少々むずかしい表現だ。この書に限らず、友達の心に気づくようになるのは4歳からのようで、4歳未満つまり3歳以下では「ことごとく失敗する」という表現(実験結果)もある。クラス運営では、3歳児クラスで友達の心に気づく子どもが(まれに)現れるということになる。

 「心の理論」の研究はどのように進んでいるのだろう。

 発達心理学は、人の心の発生と成長を考える学問と言える。しかし、名実ともにそう言えるようになったのは、「心の理論」研究が登場した1980年代以降のことであるかもしれない。

── 子安増生『心の理論』岩波書店 2000年

 「1980年代以降」とあるから、とても新しい研究だ。どうりで学校で習っていないわけだ。では、これ以前、心はどのように研究者はとらえていたのだろう?

 私の身体は私に、あなたの身体はあなたに、体感によって把握され、認識される

── メルロ=ポンティ・コレクション 3『幼児の対人関係』みすず書房 2001年

 私が感じるように、あなたも感じているはずだ、と考えたようだ。現代の私たちは、相手を気遣って「しんどそう」と思ったり、映画を一緒にみて、細かいことは別にしても感動したところは同じかもしれないと思ったりする。古代から哲学者は話せばわかるというように考えていたようだ。
 友達に迷惑をかけてしまった幼児に向かって諭す行為は、古代の哲学者と何ら変わらないのかもしれない。乳幼児がどのようにして心を獲得していくかはわからないままだったが、上に引用したように「発達心理学は、人の心の発生と成長を考える学問と言える」までになったのだ。

2021.1.2記す