||||| ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー』:認知的錯覚 |||

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ダニエル・カーネマン
『ファスト&スロー』上/下
+ 副題:あなたの意思はどのように決まるか?
+ Thinking, Fast and Slow
+ 訳:村井章子
+ ハヤカワ文庫 2014年

上p61 知的努力
・4桁の数字を声に出して読む
・たとえば、5294
・各桁に1をたし、声に出す→ 6305
・各桁に3をたし、声に出す→ 8527 むずかしい!
・//リズムを乱してはいけません// と指示される

上p64
//スクリーンに投影された瞳孔の直径はおよそ30センチもあり、被験者が難事業と格闘すると、この大きな瞳孔が拡大したり収縮したりする。//
上p64
//暗算をしているとき、被験者の瞳孔は通常は数秒以内に拡がり、問題を解く間は拡大したままとなる。そして答を出すか、あきらめるかすると、ただちに収縮する。//
上p72
//遅い思考にとって最も努力を要するのは、このように速く考えることである。//
上p73
//「彼女は会議を忘れていたわけじゃないよ。ただ、会議のことを決めたとき、ほかのことに完全に気を取られて、そもそも君の話を聞いてなかったんだ」//
※あるある。注意を払えば聞き逃すことがなかっただろうに、集中することがほかにあれば聞こえないことがある。

p74
//私は毎年数ヵ月をバークレーで過ごす。そこでの楽しみの一つは、サンフランシスコ湾の景観を堪能しながら、丘陵地帯を毎日4マイルほど散歩することだ。毎回時間を計って消費カロリーを計算しながら、1マイル17分のペースが私にとってちょうどよい速さだということがわかった。//
※このペースはかなり速い。敢えて速く歩いているのか、それとも長身なのか。
p74
//このスピードでは緊張や負担は一切感じないし、ペースを守るのに無理することもない。このペースなら、歩きながら考えたり仕事をしたりできる。いやむしろ、散歩による穏やかな肉体的刺激の効果で、注意力が高まるのではないかと感じる。//

上p83
//バットとボールは合わせて1ドル10セントです。
バットはボールより1ドル高いです。
ではボールはいくらでしょう?//

※「10セント」と答えてしまった!

上p84
//10セントと答えた人は、「最小努力の法則」の熱心な支持者だと思われる。//

上p85
//すべてのバラは花である。
一部の花はすぐにしおれる。
したがって、一部のバラはすぐにしおれる。
//

上p86
//たいていの人は、結論が正しいと感じると、それを導くに至ったと思われる論理も正しいと思い込む。//……//システム1が絡んでいるときは、はじめに結論ありきで論理はそれに従うことになる。//

上p120
//5台の機械は5分間で5個のおもちゃを作ります。
100台の機械が100個のおもちゃを作るのに何分かかりますか?

100分 5分//

上p121
//池に睡蓮の葉が浮かんでいます。葉の面積は毎日倍になります。
睡蓮の葉が池を覆い尽くすのに48日かかりました。では、半分を覆うまでには何日かかったでしょうか?

24日 47日//

上p142
//私が心理プロセスをシステム1、2という比喩で記述することにし、全体の整合性をあまり気にしていないのは、こうした背景からである。//

上p145(図6)を改造

※上図、読んでみよう。

上p146
//意識して疑ってかかることは、システム1のレパートリーには入っていないのである。疑いを抱くためには、相容れない解釈を同時に思い浮かべておく必要があり、それには知的努力を必要とする。このような不確実性と疑念は、システム2の守備範囲である。//

上p148
//システム1はだまされやすく、信じたがるバイアスを備えている〔確証バイアス〕。疑ってかかり、信じないと判断するのはシステム2だが、しかしシステム2はときに忙しく、だいたいは怠けている。実際、疲れているときやうんざりしているときは、人間は根拠のない説得的なメッセージ(コマーシャル)に影響されやすくなる、というデータもある。//

上p148
//「仮説は反証により検証せよ」と科学哲学者が教えているにもかかわらず、多くの人は、自分の信念と一致しそうなデータばかり探す〔エコーチェンバー〕──いや、科学者だってひんぱんにそうしている。//

上p149
//もしあなたが大統領の政治手法を好ましく思っているとしたら、大統領の容姿や声も好きである可能性が高い。このように、ある人のすべてを、自分の目で確かめてもいないことまで含めて好ましく思う(または全部を嫌いになる)傾向は、ハロー効果(Hall effect)として知られる。後光効果とも言う。//
上p151
//ハロー効果は両義性を覆い隠す。//

上p166
//積み木の数が同じであることを確認するためには、それぞれの数を数えて比べなければならない。これはシステム2にしかできない仕事である。//

上p181
//三人の男がいる通路は透視図法で描かれており、平面上に奥行きが表現されている。//
※モノサシをあてれば、三人の男の身長は同じとわかる。

上p203
//少数の法則は、「疑うより信じたい」というバイアスの表れと言える。//

上p210
//偶然の事象を因果関係で説明しようとすると、必ずまちがう。//

上p226
//一般に、意図的に「反対のことを考える」戦略は、バイアスのかかった思考を排除することにつながるので、アンカリング効果に対するよい防衛策となる。//

上p228
//とはいえ、あなたにもできることはある。何らかの数字が示されたら、それがどんなものでもアンカリング効果をおよぼすのだ、と肝に銘じることである。そして懸かっているものや金額が大きい場合には、何としてもシステム2を動員して、この効果を打ち消さなければならない。//

上p246
//メディアは大衆の関心を形成するだけでなく、大衆の関心によって方向づけられる。//

上p251
//したがって、「リスクを定義することは権力を行使することにほかならない」と〔ポール・スロビックは〕結論づけている。//

上p252
//サンスティーン〔キャス・サンスティーン〕と共同研究者の法学者チムール・クランは、バイアスが政策に入り込むメカニズムに「利用可能性カスケード(availability cascade)という名前をつけた。//
上p253
//利用可能性カスケードは自己増殖的な連鎖で、多くの場合、些細な出来事をメディアが報道することから始まり、一般市民のパニックや大規模な政府介入に発展するという過程をたどる。また、リスクに関する報道が特定グループの注意を引き、このグループが不安に陥って騒ぎ立てるという経過をたどることもある。//
※いわゆる「炎上」に該当するのだろう。

上p255
//私たちはリスクを完全に無視するかむやみに重大視するかの両極端になり、中間がない。//

上p256
//テロはシステム1に直接訴えかけるからである。//

上p258
//民主主義は、どうやってもそうすっきりとは割り切れないものである。その一因は、市民の考えや行動が大筋では正しい方向を向いていても、利用可能性ヒューリスティックや感情ヒューリスティックによって不可避的にバイアスがかかってしまうことにある。心理学は、専門家の知識に一般市民の感情と直感を組み合わせてリスク政策の設計に貢献しなければならない。//

上p264
//ユージーン〔地名:オレゴン州〕にいた頃、私は研究室で徹夜をすることがよくあった。そんなときによくやっていた作業の一つは、基準率その他を頭から追い払ってしまうような代表性のひっかけ問題作りである。//……//統計学の権威でさえまちがえたのだ。//

上p265
//多くの専門家にとって、確率とは、信じ込んでいる度合いを主観的に表したものに過ぎない。たとえばあなたは、「今朝太陽が昇る」などは絶対に確実だと考え、「太平洋がいっぺんに凍る」などは絶対にあり得ないと考えるだろう。//

上p270
//ノーバート・シュワルツらの実験は、被験者に「統計学者になったつもりで考えてください」と指示すると基準率情報が活用されやすいこと、「子供になったつもりで考えてください」と指示すると逆〔※固有情報〕の結果が出ることを示した。//

上p270
//しかめ面をするとシステム2による監視が強化され、直感を過信したり頼ったりする度合いが減る。息をためた(これはニュートラルな感情表現である)学生のグループの予測精度は当初の結果と同じだった。すなわち代表性に依存して基準率は無視した。一方、私たちの見込み通り、しかめ面のグループは基準率をある程度は考慮した。これはなかなか示唆に富む結果と言えよう。//
上p271
//まちがった直感的判断が下されたとき、システム1とシステム2はどちらも有罪である。システム1はまちがった直感を提案し、システム2はそれを是認し判断に組み入れたからだ。ただし、システム2が判断を誤った原因は二通りある。一つは無視、一つは怠慢である。//

上p271
//システム1が「自分の見たものがすべて」//

上p352
//ここでは、「見たものがすべて」〔システム1〕効果が強力に働いている。あなたはどうしても、手持ちの限られた情報を過大評価し、ほかに知っておくべきことはないと考えてしまう。そして手元の情報だけで考えうる最善のストーリーを組み立て、それが心地よい筋書きであれば、すっかり信じ込む。逆説的に聞こえるが、知っていることが少なく、パズルにはめ込むピースが少ないときほど、つじつまの合ったストーリーをこしらえやすい。世界は必ず筋道が通っているという心楽しい信念は、盤石の土台に支えられている。その土台とは、自分の無知を棚に上げることにかけては私たちはほとんど無限の能力を備えている、という事実である。//

上p363
//成功した企業を体系的に検証して経営規範を導き出そうとするビジネス書は世に多いが、こうした本の絶大な魅力も、ハロー効果と結果バイアスであらかた説明がつく。//
p363
//だがどちらのメッセージも、誇張がすぎる。多かれ少なかれ成功した企業同士の比較は、要するに、多かれ少なかれ運のよかった企業同士の比較にほかならない。//……//めざましい成功を収めた企業とさほどでない企業とを比較して、ひどく一貫性のあるパターンが現れたときには、眉に唾をつけなければならない。偶然が働くケースで出現する規則的なパターンは、蜃気楼のようなものである。
 運が大きな役割を果たす以上、成功例の分析からリーダーシップや経営手法のクオリティを推定しても、信頼性が高いとはいえない。//

上p368
//ストレスのかかる状況下では、各人の人間性が自ずと現れるものだ、と私たちは感じた。//

上p370
//前回の失敗の証拠をあれだけはっきりと示されたからには、多少は自信が揺らいでもよさそうなものだが、全然そうはならなかった。また、いくら評価を控えめにしようと考えても当然だと思えるが、それもしなかった。私たちは一番的な事実として、自分たちの予測が当てずっぽうより少しましという程度であることを知っていた。それでもなお、自分たちの評価は妥当だと感じていたし、そのようにふるまっていた。私はミュラー・リヤー錯視を思い出す。二本の線の長さが同じであることを確認した後でさえ、やっぱり長さはちがって見えた。候補生の評価もまったく同じである。どちらも錯覚であることから、私はこれを「妥当性の錯覚(illusion of validity)」と名付けることにした。
 かくして私は、最初の認知的錯覚を発見したのである。
 数十年が過ぎてから、私はこの古い経験の中に研究テーマの多くを見つけることができた。それらはまた、本書のテーマにもなっている。//

上p373
//ふしぎなのは、〔株の〕買い手と売り手がそろいもそろって、現在の価格は正しくないと考えていることだ。なぜ彼らは、市場より自分のほうが適正な株価水準をよく知っていると信じているのだろう。多くの場合、この確信が錯覚を生む。//

上p374
//彼(投資家の大半が男である)//
上p375
//平均的には最も活発な投資家が最も損をすること、取引回数の少ない投資家ほど儲けが大きいことを示した。また「男は度し難い」と題する論文では、男は無益な考えに取り憑かれる回数が女よりはるかに多く、その結果、女の投資実績は男を上回ることを示した。//

上p376
//さらに重要なのは、ファンドの運用成績は、どの年をとっても前年実績との相関性がきわめて小さく、ゼロをほんのわずか上回る程度だということである。つまり、ある年にうまくいったファンドは、ほとんど幸運のおかげなのだ。サイコロの目がよかったということである。ファンドマネージャーのほぼ全員が、知ってのうえでかどうかはともかく運次第のゲームをやっているという点で、研究者の意見は一致している。トレーダーの主観的な経験は、きわめて不確実性の高い状況で、高度な知識に基づく賢明な推測を行っている、というものだろう。だがきわめて効率的な市場においては、高度な知識に基づく推測はあてずっぽうより正確とは言えない。//

上p377 //金融業界におけるスキルの錯覚//
//28個の相関係数の平均は0.01だった。つまりゼロである。アドバイザーの間にスキルの差があることを示す相関性は、どこにも見当たらなかった。私の計算結果は、アドバイザーの仕事が高度なスキルを要するゲームよりも、サイコロ投げに似ていることを示していた。//
上p378
//少なくとも運用成績に関する限り、幸運もスキルの一つであるかのようにあなた方〔経営幹部〕は報賞を出しているのだ、と私たちは暗に指摘した。//
上p378
//この発見はあっという間に「なかったこと」にされ、この会社は何事もなくやっていくだろうと確信した。スキルの錯覚は単に個人の問題ではなく、業界の文化に深く根を下ろしている。//

上p379
//認知的錯覚は、ときに視覚の錯覚(錯視)よりも手に負えない。//
上p381
//妥当性の錯覚とスキルの錯覚は、プロフェッショナル集団の根強い文化にも支えられている。同じ考えを持った人間の共同体に支持されているときは、どれほどばかげた考えであっても、揺るぎなく信じ続けることができるものだ。//

上p382
//過去をわかっているという錯覚が、未来を予測できるという過剰な自信を生む。//
上p382
//重大な歴史的事件を決するのは、運にほかならない。//
上p382
//たった3つ〔ヒトラー、スターリン、毛沢東〕の卵子の受精が重大な結果をもたらしたのだから、長期的な歴史の流れを予見できると言い張るのは、物笑いの種でしかない。
 それでも、予測は可能だとする錯覚はいっこうに消え去る気配がない。そこにつけ込んでいるのが、予測を仕事にしている人たちである。//

上p395
//ある日病院の朝食時に、新生児の系統的な評価はどうやったらいいだろうか、と研修医がアプガーに質問した。アプガーは「あら、簡単よ。こんなふうにすればいいじゃない」と答え、五項目(心拍数、呼吸、刺激に対する反応、筋緊張、皮膚色)を三段階(状態に応じて0、1、2点)で評価するやり方を書き出した。書きながらアプガーは、これは画期的な方法だ、分娩室では必ずこの評価を実施すればいい、と気づく。//

上p397
//自分たちの診断の適切さを日々実感している臨床医にしてみれば、臨床診断が数式に劣るという統計的な証拠は、まったくもって実感に反する。患者をつねに見守っている臨床医は、診療中にあれこれ勘を働かせ、患者がどの治療にどう反応するかを予測し、次に何が起きるかを推測する。こうした勘の多くは正しいことが実証されており、臨床技術の優秀さを物語っている。
 問題は、治療時間中に正しい判断ができるのは、ごく短期的な予測に限られることである。こと短期予測に関する限り、臨床医は長年の実践で培ったスキルを備えている。一方、彼らが失敗するのは、患者の将来に関する長期的な予測である。//

上p398
//臨床的予測と統計的予測の的中度を巡る論争には、つねに感情が絡んでいた。ミールによれば、//
上p398
//統計的手法は経験豊富な臨床医から「機械的、原始論的、加法的、月並み、人工的、非現実的、恣意的、不完全、無思慮、杓子定規、断片的、些末、こじつけ、固定的、表面的、硬直的、非創造的、学者気取り、似非科学的、事実無根」だと非難されたという。一方、//
上p398
//臨床的手法は擁護派から「臨機応変、総合的、有意義、包括的、繊細、共感的、構造的、パターン的、組織的、ゆたか、深い、純粋、敏感、洗練、現実的、臨場感、具体的、自然、生活に根ざす、理解しやすい」と賞賛されている。//

上p398
//私たちはいつだって心情的に人間の味方なのだ。人間に関わる決定を下すアルゴリズムに嫌悪感を抱くのは、多くの人が人工物や合成物よりも自然のものを好むからでもある。//

上p399
//アルゴリズムのミスが原因で子供が死んだら、ヒューマンエラーのせいで死ぬよりも一層耐え難い。この感情的な痛手のちがいが、人間による判断を好むことにつながっている。//

上p403
//私にとって大きな驚きだったのは、「目を閉じて」面接官が最後に行う直感的判断〔システム1〕も、非常によい成績だったことである。//
上p404
//最後に隊長はこう言った。「そして私たちは面接官にこう言います。目を閉じてください、と」//
上p405
//あなたが最終決定者の場合、「目を閉じて」はいけない。//

下p18
//なぜかわからないままにわかるという神秘性は、直感に固有の特徴ではない。脳の活動において当たり前のことである。〔ハーバート・サイモン〕//

下p40
//内部情報に基づくアプローチを好む傾向には、感情が絡んでいることが多い。//
//〔弁護士の弁〕「訴訟案件はどれもちがう」//
//〔医師の弁〕症状は一人ひとりみなちがう//
//外部情報に基づくアプローチに勝ち目はないのである。//

下p64
//自信過剰を優遇するような社会的・経済的圧力//……//不確実性を先入観なく適切に評価することは合理的な判断の第一歩であるが、それは市民や組織が望むものではない。危険な状況で不確実性がきわめて高いとき、人はどうしてよいかわからなくなる。そんなときに、当てずっぽうしか言えないなどと認めるのは、懸かっているものが大きいときほど許されない。何もかも知っているふりをして行動することが、往々にして好まれる。//
下p66
//要するに、成功は自分のおかげ、失敗は他人のせい、というわけだ。//
下p66
//怒った主婦が鼻先でドアをびしゃりと閉めたら、「自分はだめなセールスマンだ」と考えるより「おそろしい女だ」と考えるほうがずっといい。//

エコン×ヒューマン
下p73
//1970年代前半のある日、エイモスが私にガリ版刷りの論文を渡してよこした。執筆者はスイスの経済学者ブルーノ・フライで、経済理論を心理学的な観点から論じたものである。//
下p73
//行動経済学者のリチャード・セイラーは、経済学者が定義する合理的経済人はエコン類(Econs)と呼ぶべき別人類であって、ヒューマンではないと揶揄している。
 心理学者の定義するヒューマンすなわちふつうの人間は、エコンとはちがってシステム1を持っている。ヒューマンは自分の見たものがすべてと考えるため、エコンのように首尾一貫した論理的な世界観は持ち得ない。ヒューマンはときには寛大になるし、自分の属す集団にはたいていは快く協力する。来年のことはほとんど予想できず、それどころか明日のことさえ見通せない。たしかにここには、学問の境界を越えて刺激的な会話をする余地がありそうだった。とはいえ、私は自分の研究生活がそれで左右されるとは想像もしていなかったが。
 フライの論文を私に見せてからほどなく、エイモスは、次の共同研究のテーマを意思決定にしようと言い出した。私は意思決定理論についてはほとんど何も知らなかったが、エイモスはその方面の専門家で花形研究者の一人であり、コーチ役を務めてくれるという。//

経済学×心理学
下p73
//〔フライ論文〕「経済理論においては、経済主体は合理的かつ利己的で、その選好は変わらないものと定義されている」。//
下p73
//心理学者にとって、人間が完全に合理的でもなければ完全に利己的でもなく、その好みは何であれのべつ変わることは自明である。//
//これでは経済学と心理学は、まったく異なる種を研究しているようなものではないか。//

下p323
//ヒューマンは、意図的に弱みを突いてくる他人からの保護を、エコン以上に必要とする。この弱みとは、端的に言えば、気まぐれなシステム1と怠け者のシステム2である。合理的な経済主体は、重要な決定は提供された情報をすべて踏まえたうえで慎重に下すと前提されている。//
下p323
//エコンは、こまかい字で印刷された契約書をすみずみまでよく読んで理解してからでなければ、契約には署名しない。だがヒューマンは、だいたいはそんなことはしない。そこで不届きな企業は、顧客が読みもせず署名するような契約書を用意し、法律上許容されるぎりぎりの線で、重要な情報を人目につかないように隠す。このような場合、合理的経済主体を想定したアプローチはまことに好ましくない方向に作用し、必要情報が開示されている限りにおいて、顧客には何の保護も保障されない。情報開示における印刷の読みやすさや表現のわかりやすさなどは、必要条件とはみなされないのである。//

下p77
//「プロスペクト理論──リスク下における意思決定の分析(Prospect Theory:An Analysis of Decision under Risk)」//
※「参照点」(下図中)はつまずき」ポイントではないかとヒントを得た。

下p77
//こうしてギャンブルの研究を始めてから5年後に、私たちは〔エイモスとカーネマン〕ついに論文を書き上げることができた。「プロスペクト理論──リスク下における意思決定の分析(Prospect Theory:An Analysis of Decision under Risk)」である。//

下p98
//損失と利得を直接比較した場合でも、確率で重みをつけた場合でも、損失は利得より強く感じられる。プラスの期待や経験とマイナスのそれとの間のこうした非対称性は、進化の歴史に由来するものと考えられる。好機よりも脅威に対してすばやく対応する生命体のほうが、生存や再生産の可能性が高まるからだ。//

下p100
//私たちはこうした例を多数調査した結果、「損失は利得より強く感じられる」と結論し、このような人々を「損失回避的」であると定義した。//

下p128
//いまでは広く脳のニシステム・モデルに損失回避を関連づけることもできるし、否定や逃走が肯定や接近に優先されるという生物学や心理学の考察を損失回避で説明することもできる。さらに、じつにさまざまな場面で損失回避の影響を見つけることができる。//
──下p96 //エイモスと私は、その時点〔※ベルヌーイの理論に「参照点という変数」が欠落しているとし、プロスペクト理論との差異を指摘した時点〕では脳の二つのシステムというモデルを採用していなかったけれども、プロスペクト理論が次の三つの認知的な特徴を備えていることははっきりしていた。//
※二つの脳システム……システム1、システム2

下p129
//被験者に脳のMRI検査を受けてもらい、この二枚の絵〔上図〕を見せる実験が行われたことがある。絵を見せるのはほんの一瞬(0.02秒以下)にすぎず、すぐにいろいろの図形が点滅して視覚ノイズを出すので、見せられた当人は見たことさえ意識していない。だが脳の扁桃体はちゃんと気づく。扁桃体は、感情的刺激を受けたときに活性化する部位で、不安や恐怖などの感情反応の処理では中心的な役割を担っている。//
下p130
//人間に限らず動物の脳には、悪いニュースを優先的に処理するメカニズムが組みこまれているからだ。捕食者を感知するのにほんの100分の数秒しか要さないこのメカニズムのおかげで、動物は子供を産むまで生き延びることができる。システム1の自動作動は、こうした進化の歴史を反映していると言えよう。一方、よいニュースに関してはこのようなメカニズムは存在しない。言うまでもなく、人間も動物も異性や餌を獲得するチャンスには敏感に反応するし、広告や看板はそうした性質を利用して制作されている。それでもなお、危険は好機より優先されるし、またそうあるべきだ。
 脳は、単に象徴的な危険に対しても敏感に反応する。感情的な言葉はすぐに注意を引きつけるし、危険をはらむ言葉(戦争、犯罪)は幸福感に満ちた言葉(平和、愛)よりも早く注意を喚起する。現実には危険のないときに悪い出来事を思い出すだけでも、システム1は危険として扱う。//

下p131
//どうやら「よい」と「悪い」の区別が人間には生物学的に組み込まれているようである。生まれたばかりの赤ちゃんが足を踏み入れる世界はすでに、痛いのは悪いことで甘いのは(ある程度までは)よいことだと決まっている。だが「よい」と「悪い」の境界は時とともに変化するし、目先の条件によっても変わる。にもかかわらず、多くの状況で、この境界が参照点になる。//

下p137
//損失回避は現状の変更を最小限にとどめようとする強い保守的な傾向であり、組織にも個人にも見受けられる。近所付き合いや結婚生活や職場で安定した状態が維持されるのは、こうした保守的な傾向が寄与していると言えよう。言うなれば損失回避は、私たちの生活を参照点近くにとどめておく重力のような存在である。//
「食べる体験」と「食べる」ことの意味──安定した暮らし(家庭)──「体験3」

下p143
//法規定にみられる損失の補填と逸失利益の補償との区別は、個人の幸福感に与える影響が非対称であることから正当化できるという。利得を得られなかったことよりも損失を被ったことのほうに強く苦痛を感じるのだから、後者は法律でより手厚く保護されてしかるべきだ、という論拠である。//

下p152
//合理的選択に基づくロジックとしての期待効用理論は認めるが、人間が完璧に合理的な選択をするとは考えない、というのが私たちの立場である。この立場から、人間が合理的であろうとなかろうと、その選択を説明できるような心理学理論の構築に取り組んだ。こうして生まれたプロスペクト理論では、決定加重は確率には一致しないと考える。//

下p157
//見込み(=プロスペクト)//

下p166
//システム1はスイッチオフできない//

下p167
//起こりそうもない結果に過大な重みをつけるのは、いまやおなじみになったシステム1の仕業である。//

下p177
//エプスタイン〔心理学者のセイモア・エプスタイン〕はシステム1を経験システムと呼ぶ//

下p178
//システム1は全体より個を扱うほうが得意//

下p204
//合理的な経済主体はポートフォリオを総合的に検討し、最も将来性のなさそうな株を売る。このとき、買値より値上がりしているか、値下がりしているかは考えない。//
※死に筋退治

下p206
//前売り券を買ってしまったから、という理由で吹雪の中に乗り出して行くのは、サンクコストの呪縛にとらわれている。//
下p207
//サンクコストの錯誤のせいで、人々はだめな仕事や不幸な結婚や見通しの暗い研究になかなか見切りをつけられない。//

下p211
//じつはここで重要なのは、行動するかしないかのちがいではない。デフォルト(既定)の選択肢と、デフォルトから乖離した行動とのちがいである。デフォルトから離れると、デフォルトが容易にイメージされる。そこでデフォルトから離れた行動をとって悪い結果が出た場合には、ひどく苦痛を味わうことになる。//

下p217
//ヨーロッパでは、害をおよぼす可能性のある行為は何によらず禁ずるという予防の原則が広く受け入れられ、信条となっている。//

下p247
//どれほど重要な決定であっても、システム1に支配されるとは言えないまでもシステム1の影響を受けるのであり、この事実は受け入れなければならない。//

下p268
//経験と記憶を混同するのは、強力な認知的錯覚である。//

下p272
//このことから、人間の記憶する自己を支配するルールには、長い進化の歴史があることがわかる。//

下p274
//苦痛は短いほどよいし、快楽は長いほどよい。だがシステム1の機能の一つである私たちの記憶は、苦痛または快楽が最も強い瞬間(ピーク時)と終了時の感覚とで経験を代表させるように進化してきた。また、持続時間を無視するため、快楽を長く苦痛を短くしたいという好みを満足させることはできない。//

下p284
//私が幸福の研究に興味を持つようになったのは、15年ほど前のことである。//

下p300
//回答者の生活環境と生活満足度の相関性が低い理由の一つとして、幸福感も生活満足度も、持って生まれた性格によって決まるところが大きいことが挙げられる。幸福を感じる気質というものは身長や知能のように遺伝することが、出生時から離れて育った双子の研究で判明している。//

下p301
//高等教育の影響について調べたある大規模調査では、若い頃に自分で設定した目標が生活にわたって影響をおよぼす、という驚くべき結果が得られた。//

下p317
//私たちが「絶対忘れない」と言ったことの多くは、10年後にはとっくに忘れ去られていると考えるべきだろう。//

下p317
//持続時間に重みをつけるという発想はなかなか説得力があるが、完全無欠の幸福理論として認めることはできない。というのも、人間は記憶する自己でもって過去を認識し、記憶する自己の紡ぐ物語に耳を傾けるからである。その人が何を望んでいるかを無視するような幸福理論は成り立たない。その一方で、生活の中で実際に何が起きたかを無視し、その人が自分の生活を振り返って評価したことだけを問題にするような理論も支持できない。記憶する自己経験する自己の利害はつねに一致するわけではないのだから、両方を考慮しなければならない。哲学者はこの難問とはるか昔から格闘してきた。//

下p321
//シカゴ学派と、極端な合理的経済主体モデルに反対する行動経済学者との議論には、争点が多い。//
下p322
//行動経済学者では、自由はコストを伴うと考える。//
下p322
//シカゴ学派はそのような難問には直面しない。なぜなら合理的経済主体は選択ミスを犯さないからだ。この学派の考えでは、自由はただ(フリー)なのである。//

2026.7.25記す

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