座談会「レジリエンス人類史 総合討論」電子版 2022年 ♠
♠p21
//関野〔関野吉晴〕:私が国立科学博物館で、馬場〔馬場悠男〕さんと篠田謙一さんに共同監修者になっていただいて特別展「グレートジャーニー」(2013年3月~6月)を開催した、そのサブタイトルが「この星に、生き残るための物語」だったのですね。//……//その時、主語を付けなかったのです。普通は「人類のことだよね」と思うらしいのですが、私の思いは全ての生き物です。だって、他の全ての生き物がいなかったら、人類だけでは生存できないのだから。//
※このページのタイトルに赤字をお借りしました。
稲村哲也ほか『レジリエンス人類史』(京都大学学術出版会 2022年)※(無印)
※(無印)p3 稲村哲也
//科学・技術のさらなる発展、とりわけAIの進歩によって、現状の課題が解決できると言う人たちもいますが、そうした考えは、どうも単純すぎるようです。私たちが直面している深刻な危機は、「進歩」の果ての現代文明の発展の中にあるからです。そうであるなら、現代文明の外側から、私たちの社会を見直すことが不可欠です。つまり、時間軸としては、近代以前の社会、さらには人類の来た道、進化の過程を知ること、そして空間軸としては、近代社会の中心としての先進国や大都市からではなく、世界の周縁から見直すことが重要です。前者はヒトの生物学的側面を扱う「自然人類学」、後者は、先住民社会などの暮らしから学ぶ「文化人類学」の得意分野です。時代の転換点にあって、社会を根本から見直すためには、この「人類学」の2つの分野の統合的な視点が重要だといえます。//

p23
//地球という有限の空間は、安全可動域を超えて切迫した状況になっており、その対応に必要な時間も限られている。暗に無限の空間と時間を想定しているパナーキー〔※適応サイクル〕の考えは、「地球のレジリエンス」に具体的な解決策をしめすことができるだろうか。〔阿部健一/モハーチ・ゲルゲイ〕//
※//パナーキーは、ギリシア神話の神パンとヒエラルキーを合わせた〔空間的・時間的な融通性を象徴した〕造語//p22
p29
//そして、これまでヒトの発展の原動力になってきた文化や科学技術は、今に至って地球や人間社会を崩壊に導きかねない負の側面を露にし始めたことも憂慮すべき事実です。私たちヒトは、ひょっとしたら進化の途上で道を間違えたのかも知れないのです。〔山極寿一〕//
p31
//霊長類は破砕力のある歯を発展させ、胃や腸にセルロース分解酵素を持つバクテリアを共生させた。この能力は現代のヒトにもしっかりと受け継がれている。//
p32
//類人猿はサルよりも知性が高く、進化の上でもサルより成功した分類群だと信じている人がいる。しかし、それは間違いである。//
p36 最初の食物革命
//霊長類の中でヒトだけが最も広範に、見ず知らずの他人にも気前よく食物を分け与える。これは文化や民族を超えて共通な特徴であり、進化史の中でも古い起源をもつ行動と考えられる。おそらく、ヒトの最初の祖先が熱帯雨林を出て、食物が乏しく危険な場所で暮らし始めたとき、食物分配は生存戦略として大きな役割を果たしたに違いない。ヒトはサルのように採食と消化の能力を強化したのではなく、類人猿の弱い能力のまま、食物を社会化して流通させることによって生き延びたのである。当初それはサルに比べてそれほど有利な戦略ではなかったかもしれない。しかし、その後この行動は大きな力を発揮することになった。//
p37
//第2の食物革命は、石器の製作と使用による肉食の増加である。//……//肉は植物性の食物の数倍から数十倍のカロリーを含んでいる。//……//余分なカロリーを脳の発達に回すことができたのだ。//……//このような道具を製作し、使用したことはヒトの祖先にさらなる社会性を与えた。それは道具による物語の登場と情報の伝達である。//
p41
//火を用いたり、石器で叩いたり切ったりして食物を消化しやすくしたおかげだろう。これが第3の食物革命である。//
p41 社会脳仮説
//食物を調理して消化効率を高め、臓器への負担を減らしたおかげで、ヒトの祖先は採食と消化にかける時間を大幅に節約できるようになった。その時間を仲間との社会交渉に使って集団を大きくしたのである。多くの仲間と付き合うためには、それぞれ仲間と自分との関係、仲間どうしの関係を頭に入れておかねばならない。その記憶量が増えたおかげで脳は大きくなった。ヒトはさらに社会力を強化したのである。//


p43
//家族を複数含む共同体というヒトに固有で共通な特徴が芽生えたに違いない(図3〔上の図〕)//

p44
//相手の置かれている立場や相手の気持ちに共感する能力が不可欠なのである。//……//この共感能力を培ったのは、食物の分配と共食、それに成長に時間のかかる子どもの共同保育だったと思う。//
p45
//この音楽的コミュニケーションによって、ヒトの祖先に新しい社会性が生まれた。それは、自分を犠牲にしてでも集団のために尽くすという精神である。サルも類人猿も自分の子ども以外に自己犠牲の心は持たない。しかし、人間は自分と血縁関係がない仲間に対しても、自分の命を賭けて守ろうとすることがある。これは、自分の子孫を増やすことを主目的とする進化の道からは外れた行為であるが、この社会性によってヒトの祖先は新たな土地へと踏み出すことになった。//


p51~p57
類人猿……//およそ2000万年前//
初期猿人……※上図(図1)から読みとれば、700万年前。//脳容積が300mlほど//
猿人……//約400万年前//
原人……//約240万年前// //脳容積が増加し(500~900ml)//
旧人……//およそ70万年前// //脳容積が大きくなり(1100~1500ml、末期には1600mlにも)//
……//それを支える論理能力は、1300mlの脳が果たしたはずだ。//
新人……//およそ30万年前// //脳容積は旧人より少し大きいだけだったが、//
「万年」という長さに対しての想像力! 時間の経過は、生物として進化を証明している。類人猿から初期猿人まで1300万年、初期猿人から猿人まで300万年、猿人から原人まで160万年、原人から旧人まで170万年、旧人から新人まで40万年。そして、新人が誕生してから30万年を経て現在。
p56
//さらに、新人特有の現象として、お洒落をし、芸術を生み出すことがあたりまえになった。それは、想像力や表象能力が飛躍的に発達したことを示している。たとえば、南アフリカのブロンボス洞穴では、約8万年前の地層から赤色顔料のオーカーや首飾りに使用した貝殻が数多く見つかっている。ということは、他者に自分と同じ心があることを完全に理解し、それを意識的に利用して、自分の見栄えの良さという幸せをいかに他者に羨ましがらせるかという工夫をしていたことを表している。「見え方」、「見せ方」を知っていたのだ。それなら、他者が不幸な状況に陥ったときに自分が同情的共感を抱くことも、また自分が不幸な状況に陥ったときには他者が自分に同情的共感を持つであろうことを理解していたに違いない。共感性の再帰性の出現ともいえる。//
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2026.8.1記す
