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 生まれたばかりのあかちゃんの目は、開いていても眠っているようだ。「あいたよ! あいた、あいた」と叫んでも、どこをみているのかわからない。そしてやがて、みつめるようになる。
 保育士養成校で、学生は実習前になると緊張する。担当教員も準備しておけと口うるさい。あなたたちが何かをしてみせる前に、部屋に10人子どもがいたら、その10人はすでにあなたをみつめている。働きかけする前から子どもは注目している。みられているのだ。と、私は言う。
 おとなとおとなは、みつめあって話さない。話せない。微妙に視線を外しながら言葉を交わす。幼児は違う。相手さんはしっかり私の目をみて話す。おとなであることを忘れることだ。私も子どもの目をみる。
 さて、何歳までみつめあって言葉を交わせられるのだろうか。就学前はみつめあえる。その先がわからない。早い話が、こんな実験は、やりにくい。「なんでみてるん?」と不思議がられそうだ。
 若いとき、小学生相手の学習塾でアルバイトをしていて、小学3年生までは目をみれば心の内が読めると悟った。それ以上になると読めなくなった。

 次も実験(観察)しにくいが、保育園の現場で働いているおとなは、おとな同士、目線を交わす時間が長いような気がする。それは、子どもとの習慣が身についているからかもしれない。それとも、気のせいか? 保育園は女性が多い職場で、女性は男性よりも非言語(ノンバーバル)コミュニケーションに長けているという研究者のレポートがある。目線は言語より大事なのかもしれない。そうであっても、女性が多い養成校の学生はまだ現場経験がないから目線で勝負しようという気がない、たぶん。だから、なかなか心の内が読めない、わからない(真剣さは推測できる)。
 ところで、注視する時間の長さは、NHKの科学情報番組だったと思うが、0.2秒だそうだ。その0.2秒を読みとる能力が人間にあるのだそうだ。目線が読みとれないというのは、みつめている時間が0.2秒にも満たないということになる。

※「0.2秒」は「微表情」というらしい

 0歳の保育室に入るときは極めて用心がいる。部屋に踏み入れたとたん、乳児の鋭い目線が突き刺さる。目をつぶるわけにいかないから、わたしは泣きそうにない子をすばやく探す。運良く見つけられたらその子をチラチラみる。初めはチラチラ、やがて少しはゆっくりみる。泣かずにいてくれたら、そうして待っているあいだに他の乳児で好奇心旺盛な子が寄ってくる。または、部屋の空気が落ち着いてくる。寄ってきた子と接触できて泣かなかったら成功だ。保育室に入ったら「みられる」こと必定、「みつめられる」ことになる。保育の醍醐味だ。


明和政子『心が芽ばえるとき』NTT出版 2006年
p42
//ヒトの赤ちゃんについていえば、正立と倒立の違いに気づきはじめるのは生後4カ月頃であるらしい。S・P・ベセラとM・H・ジョンソンは、生後2カ月と4カ月のヒトの赤ちゃんを対象として、自分を「見つめる」目と「そらされた」目を持つ顔刺激を区別できるかどうか調べた。すると、2カ月齢の赤ちゃんは両者の顔刺激を区別しなかったが、4カ月齢の赤ちゃんは区別できていた。//
※正立と倒立のような対比は、生活空間の違いによって知覚される刺激認識を意図しており、これを「生態学的妥当性」という。樹上生活が主のテナガザルを被験者としたとき「区別しなかった」と明和政子は報告している。p44
p70
//ヒトの赤ちゃんはすでに生後3カ月には、他者の視線方向を追って同じ方向を見るという研究結果がある。生後9カ月までには、ほとんどの赤ちゃんが他者の視線方向を理解する。//
p74
//他者の注意を自分自身に引きつけることで、何らかのメッセージを他者に伝え、同時にそれを両者で共有するという社会的な機能をあわせ持つ。ヒトと大型類人猿の見つめあいには、お互いの心の状態を伝えあう双方向のコミュニケーションが期待されている。
 見つめあいは、大型類人猿の共通祖先が他の霊長類の共通祖先と枝分かれした後、より複雑かつ柔軟に他者とかかわるための役割を果たす行為へと、その意味あいを深めてきたと考えられる。//

p99
//誕生したばかりのヒトの赤ちゃんの心は混沌としている。他者をコミュニケーションの相手、つまり社会的な存在としてはいまだ意識していない。しかし、生後2カ月を迎える頃、ようやく赤ちゃんはこうした意識を持ちはじめ、他者と向きあうようになる。//
p100
//ただし、生後2カ月目に赤ちゃんがいきなり賢くなるというわけではない。そうした意識を持つに至るには、当然ながら、生まれてすぐに始まる他者主導の見つめあうコミュニケーションが基盤となっているに違いない。最初は自分を見つめる目を自動的に検出するレベルの応答にすぎなくても、その反応に他者が積極的に応答することで、他者についての社会的なイメージが赤ちゃんの心の中に浮かび上がっていく。「他者の世界」が、しだいに作り上げられていくのだ。//

2024.9.3Rewrite
2021.2.15記す

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