||||| トール・ノーレットランダーシュ『ユーザーイリュージョン』読書メモ |||

Home > 書庫

トール・ノーレットランダーシュ
『ユーザーイリュージョン』
+ The User Illusion:Cutting Consciousness Down to Size
++ (Danish title : Mærk Verden)
++ //日本語版のタイトル「ユーザーイリュージョン」は英語版にならったが、原題は「世界を感知する」と「世界に影響を与える」の両方の意味を持っているそうだ。//(p513 訳者あとがき)
+++ 1991
+ 訳:柴田裕之
+ 紀伊國屋書店 2002年
+ 著者について //北欧屈指の科学評論家・ジャーナリスト//(p513 訳者あとがき)

第1部 計算
1+ マクスウェルの魔物
++++ 科学と日常性を統合する気運
++++ 情報という幽霊
++++ 熱・エネルギー・エントロピー
++++ ボルツマンの憂鬱
++++ デーモン登場
2+ 情報の処分
++++ シラードの問いかけ
++++ 情報を忘れることにコストがかかる
++++ マクロ状態とミクロ状態
++++ シャノンの〈情報エントロピー〉
3+ 無限のアルゴリズム
++++ ヒルベルト、ゲーデル、ラッセルとホワイトヘッド
++++ ゲーデルの沈黙
++++ チューリング・マシーン
++++ ゲーデルからアルゴリズム複雑性へ
++++ マクスウェルの魔物はいつ何を知るのか
4+ 複雑性の深さ
++++ 秩序と混沌と複雑性
++++ 情報の意味──〈論理深度〉
++++ 〈熱力学深度〉としての複雑性
第2部 コミュニケーション
5+ 会話の木
++++ 情報 vs.〈外情報〉
++++ 情報理論の情報に意味を持ち込めるか
++++ 会話の木──情報の伝達と情報の処分
++++ 脳血流実験からの示唆
6+ 意識の帯域幅
++++ 100万分の1しか意識に上らない
++++ 意識は何ビットの情報を処理できるか
++++ 意識しなくてもできる高度な仕事
++++ おとぎ話とコミュニケーション
7+ 心理学界の原子爆弾
++++ サブリミナル広告の衝撃
++++ デカルト、ロック、ヘルムホルツ……
++++ 閾下知覚……様々な証拠
++++ 「閾下の自己は優れている」
8+ 内からの眺め
++++ 盲点と錯覚……文化的背景も影響
++++ 消防車はなぜ赤いか
++++ 「カエルの目はその脳に何を伝えるか」
++++ 意識という名のサーチライト
++++〈結びつけ問題〉と〈意識=同期発振〉説
+ 小休止──第1部・第2部のまとめ
第3部 意識
9+ 0.5秒の遅れ
++++ リベットの実験
++++ 想定される反論
++++ リベットの実験(続き)──意識は遅れて知覚する
++++ リベット実験の余波
++++ 意識の禁止権説と自由意志
10+ マクスウェルの「自分」
++++ 〈マスキング〉実験と西部劇の主人公
++++ 〈私〉と〈自分〉と自由意志
++++ 哲学の文脈のなかで
++++ 日常生活を理解するカギ
++++ 宗教と社会生活とプラシーボ効果と……
11+ ユーザーイリュージョン
++++ 分離脳患者の研究から
++++ 〈隠れた観察者〉の発見
++++ 意識のトリックを体験しよう
++++ ユーザーイリュージョンとしての意識
++++ 世界をじかに体験したら……
++++ 角膜移植手術は成功したが……
++++ 〈暗黙知〉の重要性
12+ 意識の起源
++++ 〈二分心〉の崩壊と意識の誕生
++++ 一神教と多神教と意識と……
++++ 意識は再び姿を消した!?
++++ 赤ん坊の意識
++++ 二つの肉体と意識
第4部 平静
13+ 無の内側
++++ ガイア理論登場
++++ 細胞内共生と個体の意味
++++ 地球への彗星衝突と太陽の恩恵
++++ 宇宙に情報を捨てられる理由
++++ 宇宙は〈無〉から始まった
14+ カオスの縁で
〔p434//「量の増加は質の変化を生む」//〕
++++ コンピュータ・ウイルスと人工生命
++++ キーワードは創発
++++ カオス理論と不可逆性
++++ 相転移とセルオートマトン
15+ 非線形の線
++++ フラクタル──自然は非線形
++++ 海岸線の長さとゼノンの逆説
++++ フラクタル次元
++++ マルクスが見誤ったもの
++++ 情報社会の危険は情報欠如
16+ 崇高なるもの
++++ 核戦争の脅威を脱したわけ──〈うぶな解釈〉
++++ 「美は世界を救う」
++++ 意識の役割と崇高なるものの追究

ビット

//二進法で1または0。情報量の最小単位。//(新明解国語辞典第三版)
//二進法の数字 [ 0と1の組み合わせであらわす ] でしめされる。情報量の単位。たとえば5ビットは、5けたの数字であらわされ、25[=32]の情報を知らせる。//(三省堂国語辞典第八版)

p61
//二進数の一つの位は、マクロ状態としては、等しい確率で想定される二つの可能性としか呼応していない。私たちが二進数の記号を受け取るとき、そのどちらか一方しかないわけだから、意外性は限られている。しかし、等しい確率で想定される二つの可能性を区別するという、まさにこの意外性の度合いをシラードが発見したのであり、それがやがて「1ビット」と呼ばれるようになった。//
p62
//一つの質問に対するイエスかノーという答えに含まれている情報量、あるいは、二つの可能性を区別する情報量が1ビットだ。1ビットを受け取れば、二つのミクロ状態を区別するのに相当する情報量を受け取ったことになる。したがって、意外性が重大に思えるまでには、かなりのビット数を受け取る必要がある。//


外情報

p124
//ユゴー〔ヴィクトル・ユゴー〕が書いた疑問符は、明白な形で情報を処分した結果だ。しかし、通信文という観点に立てば、その情報はやはり捨てられてしまっている。本書では、この明白な形で処分された情報を〈外情報〉*と呼ぶことにしよう。//
//*(訳注)原著とその英訳では exinformation という造語が使われている。exinformation の ex は、「外の」「外へ」という意味の接頭辞、情報を表す information の in は、「内の」「内へ」という意味の接頭辞。exinformation は information の対極を成す用語と言える。著者によれば原著が書かれたデンマーク語でも完全に同様だそうだ。//

p132
//日常の会話に込められた意味や美しさや真実を築き上げているのは、私たちが交わす言葉ではなく、話す前に考えたことすべてだからだ。
 情報はとくに重要ではない──情報理論がこれだけはっきりそれを示してくれたことを、私たちは好運と思うべきかもしれない。この理論のおかげで、ほんとうに重要なもの、美しさや真実や叡智の真の源が、ほかにあるに違いないことがはっきりしたのだ。皮肉にも、この「ほか」のものは、私たちの排除した情報、つまり〈外情報〉と言うことができる。意味とは処分された情報のこと。すでにそこには存在せず、存在する必要もなくなっている情報だ。//
p143
//私たち人間が情報だと思っているのは、伝えたい内容、たいていはすでに計算した結果、つまり要約だ。私たちが日常生活で情報と呼ぶものは、ほんとうはむしろ〈外情報〉なのだ。日常語では、何かが情報を持っていると言ったら、それは〈外情報〉生成の結果を指す。情報の伝達や、買い物の支払いなどの手続きをする際に便利な短縮形、つまり要約を意味する。//

p186
//ハンス・クリスティアン・アンデルセンやカーレン・ブリクセンといった偉大な物語作家は、人の心にどんな〈アトラクター〉があるかを正確につかむ達人だ。彼らは、年齢を問わず誰の心にもある、この最も根本的、元型的、動的な心像を、的確に利用することに長けている。彼らは、非常に少量の情報を使って、それまでに生成されていたあらゆる〈外情報〉を、子供であれ大人であれ、人の頭の中で大きくふくれ上がらせるのが、たいへんうまい。その技が、物語を私たちの頭にある元型的イメージと結びつける。このような〈原始心像〉の概念を最初に論じたのは、精神分析学者のC・G・ユングだった。その弟子にあたるデンマークのエィイル・ニーボルィは、1962年に、アンデルセン童話を分析する先駆的文献で、こう指摘した。「後世に残る詩的散文(そして芸術作品一般)はどれも、元型的基盤をよりどころにしている」//


p147
//自分の呼吸について何も知らなくても、呼吸は続きます。//

p148
//1991年、歯科医のジョン・クッリと神経科学者のクリストフ・コッホという、まったく違う分野の科学者二人が、次の疑問を提起した。「麻酔で意識はなくなるのだろうか」//

p353
//ベンジャミン・リベットは、感覚器官から脳につながる特殊系の神経線維が、感覚の時間調整を許していることを実証した。非特殊系の神経線維が0.5秒の活動を起こし、その結果、経験されうるようになるまで、その感覚は経験されない。
 こうして、たとえ様々な感覚様相(聴覚や視覚など)からの入力を脳の中で処理するのにかかる時間が同じでなくても、同一の対象からの刺激を受けた様々な感覚様相が送り込んでくる情報を結びつけて経験することができる。もし、入力情報に同時性を持たせるための0.5秒がなかったら、リベットが言うように、私たちは現実の認識に乱れを経験するだろう。
 意識は、周囲の世界について、意味あるイメージを示さなくてはならないので、遅れる。だが、示されるイメージは、まさにその周囲の〔太字は本書では傍点〕世界のイメージであり、脳によってなされるすばらしい仕事すべてのイメージではない。
 事は、感知、シミュレーション、経験の順に起こるのだが、シミュレーションについて知っても意味がないので、その段階は経験から外される。そして私たちは、編集された感覚を未編集のものとして体験する。//

p220
//アダマールは前述の本〔『数学における発明の心理』〕を書くにあたり、当時の大勢の偉大な数学者に質問表を送り、思考中に意識があるかどうか尋ねた。回答を寄せた数学者の一人、アルベルト・アインシュタインはこう書いている。「書かれたり話されたりするような言葉あるいは言語は、私の思考のメカニズムの中ではなんの役割も演じていないように思います。思考の要素として機能していると思われる心的存在は、『自発的に』再現したり組み合わせたりできる、何らかの記号やそこそこ明快なイメージです」//

p252
//1989年から90年にかけて、意識の現象を初めて自然科学の俎上に載せたと思える主張が登場し、熱い視線を浴びた。熱狂の原因の一端は、この主張が〈結びつけ問題〉を解くメカニズムを論じていたことにある。この仮説は、二人の研究者が共同で提起したものだ。一人は、カリフォルニア工科大学の生物学部門で計算と神経システムの研究室を統括する若いドイツ人物理学者クリストフ・コッホ、もう一人は、カリフォルニア州ラ・ホーヤのソーク研究所で研究に従事する、イギリス人の物理・生物・神経科学者フランシス・クリックだ。//

p293
//目に盲点があるのとちょうど同じで、私たちは外界を感知する仕組みに欠陥があっても、それには気づかないのだ。//

p294
//画鋲の上に座ってしまった経験があるなら、反応に0.5秒もかからないことはご承知のとおりだ。こういうときは、まず飛び上がり、それからようやく振り返って考える時間ができる。人は、自分が思うほど意識を使っていない。少なくとも、妙な物の上に座ってしまったときには絶対に使いはしない。//

p294
//この二組の研究を合わせると、一つの注目すべき結論が浮かび上がる。それは、意識が生じるにはほぼ0.5秒の脳活動を必要とする、というものだ。//
p295
//意識と無意識の違いが、0.5秒持続するプロセスを伴うか伴わないかの違いであることも確認された。//

p310
//0.5秒の遅れを考えたいのなら、スポーツは人間の行動のうちでも、じっくり研究するに値する分野だ。〔サッカーを例にしている p307〕演劇や舞踏、音楽、子供の遊びについても同じことが言える。//

p371
//〈私〉は、「私は自転車に乗れる」と言うかもしれない。だが〈私〉には乗れない。乗れるのは〈自分〉だ。
 老荘哲学の基礎を築いた中国の学者、老子が、死を迎えるために山中へと馬を進める前に記したように、「知る者は言わず、言う者は知らず」なのだ。//

p452
//いくら巨大なコンピュータを作ったとしても、それはつねに宇宙より小さい。//

2025.4.20記す

© 2025 ||||| YAMADA,Toshiyuki |||, All rights reserved.