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おとな年齢
ラブレターを書く 72回/全
斉藤淳『10歳から身につく問い、考え、表現する力』
年齢による発達段階

「九歳の旅立ち」を命名する

 子どもの発達は、直線的ではなく、階段状に進む。ゆっくり徐々にではなく、ある日突然、きのうまで出来なかったことが、ふと出来るような気がして実現する。「こども」が「おとな」になるときも、きっとそうだ。この変化に追いつけないのは、むしろ「おとな」だろう。

「こども」と「おとな」の節目は「9歳」にある

2017年 神戸市

 子どもはいつか「おとな」になる。必ず、なる。生まれたばかりのあかちゃんは「こども」だ。「あかちゃん」でもあり「こども」でもある。結婚したらあるいは結婚するかもしれない年齢になっていたら「おとな」だ。高校生ならばどうだ。「こども」ではないが親からみればまだまだ「こども」かもしれない。思春期という言葉もある。青年という言葉もある。では、中学生は少年か。(「広義では少女を含む」新明解国語辞典第三版)

 集団で「こども」は育つということを考えるとき、あかちゃんの集団と小学校の校庭で遊んでいる集団を同じテーブルで考えられない。それは極端として、では小学校の1年生と6年生とでは、どうか。対象とする「こども」を、たとえば年齢などを設定せずに議論できない。幼児は元気に遊ぶ。会話も一人前にする。その幼児と小学生を「こども」と、ひとくくりで表現していることが多い。
 年齢で区切る場合、「こどもは、0歳に始まって9歳までとする」としてみる。「9歳」は「10歳」であってもよい。小学校の学年では3年生から4年生に相当する。「七歳までは夢の中」というシュタイナー教育の本がある。西洋では乳幼児の終端を7歳においている例が多い。「七歳になるまでは、こどもは神さまだといっている地方があります。」(柳田国男『小さき者の声』角川文庫に収められている「神に代りて来たる」より)とあるように、日本でも「七歳」を区切りとする事例がある。日本の場合は数え年かもしれない。満年齢では、小学1年生の4月では6歳。2年生は7歳。

 「幼児」の終端は、小学校就学時ではなく「小学2年生」だと私は考える。「絵本年齢」という言葉を私はつかうが、その終端は2年生にある。入学したらいつまでも絵本はどうかと迷う親もいるが、絵本の役割は続く。絵本を捨てたり誰かに譲ったりしないで、2年生が終わるまでは子どもの宝物だから大切にしてほしい。子どもの発達を考えるとき、0歳から小学2年生(7歳または8歳)までをひとつのつながりとしてみることができる。私の認識である。

 子どもはいつか「おとな」になる。必ず、なる。7歳までは「こども」である。「こども」と「おとな」の違いは何であろうか。このことは《いつから「おとな」で、遊びを考える。》で説明している。0歳から2年生までに共通することは(たとえば、親に)保護される対象ということだ。したがって、3年生(8歳または9歳)からは保護しない・されない。人は必ずつまずく。失敗する。誰かに迷惑をかける。3年生からは自分で解決にあたる。これで「おとな」になれる。
 「こども」か「おとな」かの見極めは、おとながする。子どもが自身を「おとな」と自覚するのはもう少し先だろう。3年生を「おとな」としてみるおとなはまずいないだろう。「おとな」への旅立ちは、問題解決能力が求められる事案に出会い、その練習をすることに始まる。「おとな」と「こども」の中間帯を置かないほうがこの両者の違いあるいは役割(属性)を考えやすい。保護する側だったおとなには、保護しない方向へ気持ちを切り換える(つきはなしてみる)作業が求められる。
 見かけ「こども」を「おとな」と認識するのは、おとなには容易でない。そこで、おとなに猶予を与えよう。3年生と4年生の2年間を、おとなが認識を切り換える緩衝期間とする。「こども / おとな」の見極めはおとながするのだから、「こども」を「おとな」に属性変更する区切りを「5年生から」に同意していただこう。5年生の4月は10歳である。

須磨海岸 2013年 神戸市

 こういう理由で、0歳に始まって(10歳の前年)9歳までを「こども」とした。学年で説明する方が周知しやすいので、9歳は3年生と4年生にまたがり、4年生は9歳または10歳である。
 「9歳を区切り」〔※〕とする確からしさを支持する事例を得た。
 9歳はこどもの終端でありおとなへの起点でもある。9歳を節目として認識するために、子どもの健やかな発達を祈念し、「九歳の旅立ち」と命名してみた。

〔※〕なぜ、10歳でなく9歳なのか?
(参考)坪内逍遥:「十歳以前に読んだ本」※青空文庫
後段に //幼時の修養のゆるがせにしがたいことを今更のやうに悟る。//とある。

事例「九歳の旅立ち」
+1. 乃南アサ、の場合
+2. 津島佑子、の場合
+3. 橋本治、の場合

補遺

マルコ・イアコボーニ『ミラーニューロンの発見
+ ハヤカワノンフィクション文庫 2011年
p204
//ミレッラが第一に知りたかったのは、〔ミラーニューロンシステムの調査において〕定型的な10歳児の脳が成人の脳と同じような活動パターンを見せるかどうかだった。//
p205
//そしてミレッラの調査した子供たちは、以前に成人で観察された脳活動とまったく同じパターンを示してみせた。予測的中である。//


OECD教育研究革新センター/編著
脳からみた学習 ──新しい学習科学の誕生
+ 小泉秀明/監修 明石書店 2010年
p171
//新生児のシナプスの数は、成人と比べると少ない。しかし、生後2か月がたつと、脳のシナプス密度は急激に増加して〔シナプス形成〕成人のシナプス密度を超える。生後10か月がピークで、10歳になるまでにシナプスの数は着実に減少し〔刈り込み〕、「成人レベル」のシナプスの数になる。その後のシナプス密度は相対的に安定している。//

マシュー・リーバーマン『21世紀の脳科学』p173
//他者とのやりとりによって練習を積み、10歳までに“複雑な社会生活を送るエキスパート”になるための重要な機会//

ライアル・ワトソン『エレファントム』p20
//六週間の夏休みは飛ぶように過ぎていった。一月になって学校に戻るのはいやだったが、一つだけ慰めがあった。これでまた一年、終わりへと近づいたのだ。学校ではなく、子ども時代の終わりだ。10歳になれば“ストランドローパー”の仲間入りができる。//

2022.12.16Rewrite
2017.4.15記す

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