明和政子『心が芽ばえるとき』NTT出版 2006年 p45
//ヒトは生まれてすぐに他者の顔に対して特別な注意を向ける特性を持つことが示された。ファンツによる発見は、当時支配的だった「白紙状態(タブラ・ラサ)」という赤ちゃんのイメージをくつがえすほど大きなインパクトを与えた。//
クリストフ・コッホ『意識の探求』(下)p445
//乳幼児は白紙の状態で生まれてくるわけではない。//
酒井邦嘉『チョムスキーと言語脳科学』集英社 p47
//ギリシャのアリストテレス以来、人は「白紙の状態(タブラ・ラサ〔tabula rasa〕)」で生まれてくると考えられてきた。まっさらな紙に文字を書き込むように、生まれて初めて脳に経験が蓄積されるようになり、言葉が覚えられるというイメージだろう。しかしこの考えに従う限り、「プラトンの問題」は解決しない。
この「プラトンの問題」に初めて答えたのが、チョムスキーだった。生後間もない脳は決して「白紙の状態」ではなく、あらかじめ言葉の秩序、すなわち普遍文法が組み込まれていると考えたのだ。すると、まわりの言葉が乏しくても言葉の獲得が可能になり、そればかりか見聞きしたことのない「文」まで自在に生み出せるようになる。ただし、昨今のように家庭内の会話が極端に少ない場合は、子どもの言語獲得に深刻な影響が起こっている可能性がある。//
p49
//スキナーに代表されるこの「学習説」〔「スキナー箱」〕は、まさに脳が「白紙」の状態で人間が生まれてくることを前提にしたものだ。したがって、スキナーの行動主義的な理論では「プラトンの問題」は説明できない。多様かつ複雑な言語能力という「反応」を引き出すには、後天的な学習は「刺激」として乏しすぎるからだ。//
M.S.ガザニガ『社会的脳』青土社 p22
//彼ら〔科学者の大部分〕の考えでは生まれたばかりの人間の心はむしろ空白であり、文化的環境によってその空白を埋められ、形作られていくようにできている。//
p24
//生物学の教育を受けた人なら、どの脳も多かれ少なかれ同じような状態から人生をスタートするのだという白紙状態理論を全くおかしいと思っている理由が私には理解できた。白紙状態理論は──憲法によってアメリカ人の精神に結合されたが──心理学者ジョン・ワトソンによって知識階級に力強く説かれた。ワトソンはドイツ理性主義に対抗するアメリカの反動と科学的証拠として用いられた内省的証拠のもろさについて代弁する人とみられていた。彼の見方は大きく二つの論点に基礎をおいている。まず第一点は偶然の報酬を巧みに操ることは特に動物において行動をおこす大きな決定要素であること。第二点は外界との相互作用によって神経システムが構造化されることである。ワトソンは脳科学がまだ未成熟で科学者たちは脳がどのように成っているかについてほとんど無知であった時代の人であった。事実ワトソンがその理論をうち出したとき、実際に、脳は無限に可能性があるという同時代の生物学的研究に刺激されたということである。1930年代の初頭のその頃の脳科学における通説は「機能が形態に先行する」即ち腕の神経を形成する神経細胞がその目的に沿って特殊化する前から腕は腕として使われるべきであるというものであった。要するに生物学的見解は生まれたばかりの生物は白紙の状態であるという心理学的見解と同じであったわけである。//
p26
//スペリーのモデルは今ではたくさんの例によって立証されており、「形態が機能に先行する」と言える。//
2025.12.2記す
