地球に人類が誕生して、人類はその数を、ずーっと増やしてきた。戦争という要因を除けば、「減る」ということはなかった。だから、増えて当然だったから、「なぜ、増えるのか」を問うことはなかった。むしろ、増えることを妨げる病気や事故を減らすことに人智を注いできた。だから、「なぜ、減るのか」を問うことは、人類が初めて経験することと言える。
「少子化」対策が見落としていること
- 汐見稔幸 しおみ・としゆき
- 親子ストレス 副題: 少子社会の「育ちと育て」を考える
- 平凡社 2000年
「なぜ、親がわが子を虐待するようになったのか」(第2章のタイトル)──そこで「親のストレス」を考えてみる。
「自分を好きになれない子どもたち」(第3章のタイトル)──そこで「子どものストレス」を考えてみる。
親も子もどちらもかかえこんでしまい、複雑にからみあったストレスの原因はどこにあるのか。
読みかた次第では、親子問題を解決するノウ・ハウを汲み取ることはできるが、本書本来の目的は、「親子ストレス」をつくりだす日本社会をその根底から、歴史的な視点も加えて分析を試みることにある。
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この課題にせまるために、本書は少子化という問題を切り口に選んだ。親世代が、自分たちの世代よりもうんと少ない数の子どもしか産まなくなってしまう社会である。(9頁)
こうした「少子化」現象の始まりは1970年代半ばまで遡れる。そのときから出生率はずっと下がったまま。少子化という社会問題は、もう30年以上も続いていることになる。
少子化は欧米先進国で共通している課題だが、しかし、地球全体では人口はむしろ増え続けている。地球上では、まったく違った2つの現象が同時に起きている。人は”豊か”になると、子どもを産まなくなる、あるいは、育てようとしなくなる──のだろうか?
少子化傾向が30年以上も続いたということは、少子化の時代に生まれ育った世代が今、子育てをしている。子育ての文化は、親世代から子世代に引き継がれたのだろうか? 子どもの育て方がわからないというのは、その引き継ぎ(=文化)に支障があったからではないか?
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地球に人類が誕生して、人類はその数を、ずーっと増やしてきた。戦争という要因を除けば、「減る」ということはなかった。だから、増えて当然だったから、「なぜ、増えるのか」を問うことはなかった。むしろ、増えることを妨げる病気や事故を減らすことに人智を注いできた。だから、「なぜ、減るのか」を問うことは、人類が初めて経験することと言える。
政府が少子化対策として過去、数多くの施策を打ってきたが、出生率のグラフは、30年以上も下降し続けている。それは、その対策の何かが間違っているか、根本的な問題に触れようとしていないからではないかと著者は指摘している。
2008.9.19記す