||||| ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』|||

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  • ジャレド・ダイアモンド
  • 銃・病原菌・鉄』(上・下)
    • 副題「1万3000年にわたる人類史の謎」
      • 倉骨彰(訳)
      • 草思社 2000年

 1972年、ニューギニアの政治家ヤリは、鳥類生態学の研究者ジャレド・ダイアモンドすなわちこの本の著者にこう訊ねた。「あなたがた白人は、たくさんのものを発達させてニューギニアに持ち込んだが、私たちニューギニア人には自分たちのものといえるものがほとんどない。それはなぜだろうか?」(上18頁) これの答えに、多くの場合、白人たちが用意していたのは「未開だから」または「未開人だから」だった。

 1532年、インカ帝国はスペインの将軍ピサロらによって滅ぼされた。しかし、この本の著者は問う。なぜ、インカ帝国の皇帝アタワルパがスペインに行って、スペインを征服しようとしなかったのか、と。
 言われてみれば考えたことなかったなあ。世界史でそう習ったから。当時のスペインは強くて、インカ帝国は滅亡国家の代表のように教えられていたから。
 ピサロらは鉄でできた銃を持っていた。アタワルパらは石や木製のこん棒で闘った。前者は馬に乗り、後者は馬を持っていなかった。インカは「帝国」と言えるほどの人口が密集していたのだから、もし馬を飼う技術をもっていたら、スペインに攻め入ったかもしれない命題は非現実的ではない。

 この本は、これらの謎を解き明かすために、著者が20年余りをかけて実らせたもの。なぜ、インカ帝国に馬を飼う技術がなかったのか。
 馬をはじめとする家畜の発祥地は世界のどこだったか? アフリカは動物王国と言われるが、シマウマは家畜にならなかった、なぜか? 家畜がいなかったら、田畑は人力で耕さないといけない。農業はどこで発生したのか? 食糧が豊富だった地域は?
 生物学者の著者は、文化人類学・言語学などの領域に入り込み、従来の世界史とはまったく違う人類史をこの本で展開する。1万3000年間の超ダイナミックな人類大移動が描き出されている。

 「ワットが、やかんから立ちのぼる湯気にヒントを得て蒸気機関を発明したという話はよくできた作り話である」(下55頁要約)とし、ワットに先立つ功績者の名を列挙している。「平均的なニューギニア人は平均的なユーラシア大陸人よりも頭がいい」(下302頁)など ところどころに挿入されている文明批評に刺激される。

2001.1.9記す 山田利行

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