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「アイデンティティ identity」──むずかしい言葉ですね。覚えにくい言葉は、数回声に出して、口で慣らしてみましょう。
言いにくいだけではありません。これの研究で名高いエリクソンは「青年期」の人間に対してつかわれていて幼児期が主ではありません。それでもこのカタカナ語は「自己同一性」と言われ、幼児の自己確立過程で多用されます。以下、幼児理解のために「アイデンティティ」を多用しますが、心理学研究のためにはさらなる意味があることを記しておきます。
図書館で絵本を借りて、返す期限が来て返すものの、何度も同じ本を借りる子どもがいます。これは、その絵本(本)と、その子どもの何かが同一化しているのでしょう。アイデンティティの表れです。
ぶらんこで何度もゆられて感触を確かめたり、すべり台を何度もすべり降りるのも、アイデンティティを育んでいるといえます。外見的には遊びに夢中で楽しんでいるだけのように見えますが、内面的にはそういう心の成長がある、ということです。
- 『くまのコールテンくん』
- フリーマン/作 まつおかきょうこ/訳
- 偕成社 1975年
絵本の多くは、じつはアイデンティティと深く関係しています。『くまのコールテンくん』はその一冊にすぎません。
「コールテンくん」は、デパートの商品棚に置かれていたぬいぐるみの名前です。女の子は「ずっとまえから」欲しかったのですが、おかあさんは「きょうはだめよ」と言って、買ってくれませんでした。
その日、お母さんは買い物をしすぎたので、もう買えないという理由だったのですが、付け加えて、──それに、これ、しんぴんじゃないみたい。つりひものボタンが、ひとつとれてるわ。──と、言いました。
コールテンくんは、とれているボタンをさがしに、デパートの中をうろつくのです。でも、残念ながら見つけられません。さて、翌朝のこと。きのうの女の子が、またやってきました。
あたし、リサっていうの。あたし、あなたをつれにきたのよ。ゆうべ、ちょきんばこをあけて、あたしのちょきんがいくらあるかしらべてみたの。そしたら、ちょうどあなたがかえるだけあったの。おかあさんもいいって。
リサのものとなったコールテンくん。いつのまにか絵本の主人公になっているちびちゃんがいるのではないでしょうか。
2019.2.10記す