|||||『おうさまのみみは ロバのみみ』|||

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けっして他言しないと王に誓った床屋だったが、
どうしても口に出したくてたまらない。

 音楽の神アポロンと野原の妖精パーンが音楽で自慢しあった。バーンはアシ笛をアポロンは竪琴で。その審判をミダス王がした。
 素朴なアシ笛を王は気にいった。王が田舎育ちだったからという。アポロンは怒った。「おまえの耳は、なんてばかなんだ! そんな耳は、ロバに耳になってしまえ!」
 王の耳は、にょきにょきと伸び、毛むくじゃらの耳になってしまった。王は恥じ、特別に大きい帽子をかぶって隠していたが、床屋にだけは隠すわけにいかなかった。
 けっして秘密をもらしてはならぬと、床屋に厳命した。他言しないことを誓ったが、どうしても口に出したくてたまらない。どうしたわけか、床屋のおなかがふくらみ、いまにもバーンと破裂しそうになった。
 野原をすすみ、林の奥で深い穴を掘り、穴に首をつっこみ「おうさまのみみはロバのみみ!」と、なんどもなんども叫んだ。穴を埋め終わると、おなかが小さくなったという。
 ところが……。
 春がきて、そこにアシがはえた。風が吹くとアシがささやいた。
…………おうさまの みみは ロバの みみ……。
…………おうさまの みみは ロバの みみ……。
…………………………

※ミダス王……現在のトルコにあった地域フリギア(紀元前8世紀後期)の王
※田舎育ちゆえにアシ笛に心惹かれた王。王に一票投じたいなあ~
※フレーベル館 1985年 山室静・文 おぼ まこと・絵

2023.8.7記す

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