『おうさまのみみは ロバのみみ」

 床屋は決して他言しないことを王に誓ったが、どうしても口に出したくてたまらない。

※ミダス王……現在のトルコにあった地域フリギア(紀元前8世紀後期)の王

 あるときミダス王(原著では「彼」)は、アポロンとパーンが音楽家として腕くらべをした時に、その審判官を頼まれたが、彼には素朴なあし笛の方がアポロンの銀の竪琴の響きよりも気にいったので、パーンに勝ちを与えた。アポロンは怒って、
「なんてお前の耳はばかな耳だ。そんな耳はろばの耳になるがいい。」
と呪った。たちまち彼の耳は、ニョッキリと突き立った、毛むくじゃらの耳になった。
 ミダス王はそれを恥じて、いつでも特別づくりの帽子をかぶってそれを隠していたが、理髪師にだけは隠すわけにはいかなかった。王は、決してその秘密を他人にもらしてはならぬと、床屋に厳命した。床屋は決して他言しないことを王に誓ったが、どうしても口に出したくてたまらない。秘密を抱いている重みに、おしつぶされそうだ。さりとて他人に話したら、命がない。
 とうとう彼は、野原へ出ていって穴を掘り、その穴の中へ、
「王様の耳はろばの耳。」
と、そっといって重荷をおろし、また穴を埋めた。
 ところが、春になると、そこにあしが生えた。そのあしは、風が吹くとささやいた──「王様の耳はろばの耳」と。ばかなミダス王は、床屋に口どめをしてそれで自分の秘密が守れるものと思ったのだが、秘密は風のひと吹きでさらけだされてしまったのである。

  • 山室静/著
    • 『ギリシャ神話 付 北欧神話』社会思想社 1980年
    • p223-224

2019.6.15抄録