||||| 和田誠『ぬすまれた月』| 絵本 |||

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  • 1963年に岩崎書店から出ていたのですが、2006年に再刊されました。
  • おはなしとしては、5歳からでも楽しめますが、内容的にはけっこうむずかしく考えさせられてしまうこともあります。作者のユーモアがいっぱいつめこまれていて、どんな年代でもお勧めできます。一応、YA向きとしておきます。

 「海のしおの みちひきは 月の 引力によっておこる。」と 書かれているからこの絵本は「科学絵本」と言える。でも、月の大すきな男がいて、男は長い長いはしごを立てかけて「月をもって帰った」。なので、科学絵本とは言えない。

 男は、ぬすまれないように、月を箱に隠した。毎日毎日、箱のふたを明けては、昨日とはかたちの違う月を楽しんだ。ある日、男の家に泥棒が忍び込んだ。箱を見つけた泥棒は、箱を開けた。箱のなかはからっぽだった。だから、泥棒は箱を捨ててしまった。もう、わかるね? なぜ箱がからっぽだったのか? だから、これは「科学絵本」だね。

 泥棒が箱を捨てた場所は、家から盗み出していたので家の外だった。捨ててある箱を次に拾ったのは、ある女だった。見つけたとき、ほそい三日月だった。女は三日月に糸をかけて、たてごとを作り、たくさんの人を魅了させる音楽を奏でた。だから、科学絵本とは言えない。

 女の人の音楽は評判を呼んで、演奏旅行に出かけた。旅行の途中、移動中の船で演奏しようと箱から月を出すと……。もう、わかるね? 糸をかけるところが月になかった。女はおこって、海に月を捨てた。だから、科学絵本……でもないか?

 同じ海でふたつの船が同じ魚を釣って、けんかになった。おれのだ!おれのだ! だったら、ふたつに分けようと魚を切ると、丸いモノが出てきた。学者が鑑定すると、……、もう、わかるね?

 こんどは、月の取り合いになった。 ふたつの船は、じつは違う国どうしの船だった。だから、けんかは戦争になりそうだった。

 ところで、お月見のお月さんの模様は、何に見える?
 うさぎが餅をついている?
 うーん、平凡だね。
 月の表面の陰影をほぼそのままにして、この絵本の作者・和田誠は、12場面を表現しているよ。世界に昔からある言い伝えを、ね。──うさぎ、ろば、わに、かに、ライオン、かえる女の人の顔、たきぎをかつぐ人、水をはこぶ人本を読むおばあさん ……等々。

 地球のどこからでも、夜、空を見上げれば見ることができた。月は世界の人たちに親しまれ、日本だと「月=つき」だが、英語だと Moon 中国語だと、フランス語だと、アラビア語だと、……、どれもうつくしいことばなんだって。絵本に文字は載っているけれど、残念ながら、そのほとんどが読めないので、字をながめて楽しむことにしたよ。

 そうそう、さっきの戦争になりかけたお月さんだが、子どもたちの活躍で無事、空にもどされました。それからは、夜になったら空を見上げれば、そこにお月さんがいつもいて、ながめられるようになりましたとさ。

2019.5.26記す

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