||||| 感情をよむ、相手の気持ちをよむ |||

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 5歳児クラスで子どもたちに見せると……

すぐさま聞こえてきた声は、

「ぶた!」

続けて、この写真。

「いぬ!」

つぎに、この写真。

「しろくま!」

 これら3枚の写真は『The Blue Day Book ブルーデイブック』(ブラッドリー・トレバー・グリーヴ/著 竹書房 2000年)が出典となります。著作権の問題がありますから、事例としては以上の3枚とします。この本は、動物の”表情”写真集となっています。ぜひ手に取って本書をご覧になっていただきたいと思います。

 さて、写真を子どもたちに示すと、ぶた・いぬ・しろくま と、動物の名前でこたえようとします。しかし、おとなが見た場合は、「笑っている」「おこっている」「泣いている」などと思うのではないでしょうか。

 この現象を説明できるほどに、私は臨床場面に出会っていません。今後も継続して調べていきます。「泣いている」などのように感情や相手の気持ちがわかるようになるには、7歳を待つ必要があるとの研究者の報告もあります。相手(友達)の気持ちがわかるように──は、保育目標のひとつではあるわけですが、これを実現できるかは能力的発達的課題があるという認識が必要かもしれません。具体的にいえば、ケンカをしてしまった当事者の幼児に対して、相手の気持ちを理解させようとする指導はどこかに無理を要求していることになるのかもしれません。実際、幼児の頃(この頃の記憶は極めてあやしいのですが)やんちゃだったのでしょう、「よく怒られたが、なんで怒られているのか、わからなかった」という成人男性の証言もあります。

 もうひとつ考えられる論点があります。訊かれた問いに応じる習慣が幼児に対しても求められるようになり、その対応の仕方について、応答を早くしようとする。動物の名前ならば早く応えられ「よく知っているね」とほめられるおとなのことばを期待していると思われる。写真を見せたとき、「ぶた」「いぬ」とすぐさま応え、しかも、声が大きい。泣いているようにみえるしろくまの場合、手が顔を隠しているためか少し時間はかかるが、応えるときは、「くま」でなく正確に「しろくま」と声をあげる。自身の知識を披瀝しようとする、そういう行為に私は思えた。競うように応えるため、感情をよみとる能力は到達しているにもかかわらず、相手(動物)の気持ちを推しはかろうとする余裕がない。あるいは、私の設問のしかたがまずいのかもしれない。

2019.3.24記す

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