- 『明るく乗りきる男と女の更年期』現代新書
- 赤塚祝子(あかつかのりこ著) 講談社 2002年
50代前後を過ぎて、思い当たるほどの病気がないのに体調を崩したりストレスを感じるようになると、「更年期だから」と、それを理由にしてなんとなく納得してしまう。
だけど、「更年期とはなにか?」と問われれば、それに答えられない人は多いのではないだろうか。
━━かつて、二百年ほど前までの女性の平均寿命は四十歳たらずであった。地球上の他の生物と同様、子孫を残すという作業を終えれば、速やかに死んでいたのである。この時代の女性たちは「更年期」を経験するほど長生きできず、従って更年期が問題になることもなかった。━━(36頁)
日本人女性の更年期は一般的には45歳から55歳まで(37頁より要旨) 日本人の平均寿命が50歳を超えたのは戦後だが、45歳を超えたのは1930年以降のようだ。
━━女性の更年期が、世の中でおおっぴらに議論されるようになり、市民権を得たのは十年ほど前からにすぎない。━━(39頁)
男性に至っては、永井明の『実録・ぼくの更年期』(1998年)や『はらたいらのジタバタ男の更年期』(2000年)で知られるようになり、本書のタイトルにも表れているとおり、やっと認められるようになり始めたところだ。
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━━「更年期障害」というのは、除外診断、つまり、さまざまな検査をして、他の病気ではないという否定をしてから初めてつけられる診断なのです。━━(19頁)
━━女性の更年期障害の概念はいくつかの説があり、いまだ統一された見解が得られていないのが現状である━━(58頁)
ということだから、自分勝手に更年期だからと決めつけないほうがいいようだ。
本書の著者は、内科医のベテランだったが、ご自身 更年期障害の症状を自覚し、━━納得する一方で、医者を何十年もやってきたのに、「更年期」についての知識が全くないのを、私は改めて反省した。━━(5頁)という始末。
そうしたご自身の体験も含めて、本書では「更年期」の基礎知識を得られる。心当たりのある方は、一度読まれてはいかがだろう。
男性である私は、「男性更年期」について知識が得られることもありがたいが、異性のパートナーを理解するに大いに役立った。
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「更年期」とは何かという定義に始まり、その診断法や治療の実際について具体例をまじえ、わかりやすく解説されている。
西洋医学だけでなく、漢方療法にもふれている。どの療法を採用すべきか医師としての迷いも率直に書かれている。
更年期障害の治療法ではホルモン補充療法が注目されているが、次のような記述もある。
━━ただし、エストロゲンを補充して、いつまでも若く美しくあれという思想は、少子高齢化社会を目前にして、労働力としてのみ中高年齢層の女性をとらえ、健康であらしめたいと願う、どこかの高みからの発想なのかもしれず、鵜呑みにしてはならないと思う。
また、ピル(経口避妊薬)が解禁されたのに、若年層に予定より受け入れられなかったため、販売が停滞している製薬会社の深慮遠謀により、更年期世代に向けたホルモン補充療法の利点が強調されているのかもしれない(ピルの原料と、ホルモン補充療法に用いられる薬は、配合が違うだけなので、転用は可能である)。━━(34頁)
「更年期」をどう迎え、どう過ごすか」の章では、
━━なかには、修復不可能なほど、心が離れてしまった人たちもいるだろう。そんなカップルは、よく考えて、やり直しがきくうちに、別れたほうがいいのかもしれない。たった一度の人生の残りの三十年を、お互いに嫌な感情のまま過ごすのは、私には耐えられないと思うからなのだが。━━(165頁)
更年期の診断に使用されるチェックシートや図表も多く、また「女性更年期外来のある全国の医療施設」の一覧も掲載されている。
2002.5.15記す