||||| 帆塾通信 88 : 2022.2.1 |||

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豊か 幸せ 満たされる

=-= Letter 1 ¶ 安間茂樹『動物がすき!』福音館書店 2017年

 「安間茂樹(やすましげき 1944年生)」さんに興味をもった。テレビ番組のドキュメンタリーで知ったと思うが、その詳細は覚えていない。ずいぶんとお年寄りに見えたけれど、私の4歳上。調べているうちに『動物がすき!』(福音館書店)という子ども向けの本(安間著)に出会った。
 開いてすぐのページに次の記述を発見!

***

「大きくなったら
動物を研究する人になるんだ」
小学校4年生のころには、
もう、決めていた。

小学校5年生のころだった。
ある夜、帰宅した父の
ズボンのポケットが大きくふくらみ、
ふさふさしたものがはみだしていた。

ムササビとの出会いをきっかけに、野生動物に興味を持ったぼくは、手当たりしだいに
野生動物の本を読み、調べた。ムササビの食べものが木の実や花、
クルミやドングリなどだと、ようやく調べがついたのは6年生になってからだった。

その後、山行きやハイキングなど、自然の中を歩く機会はふえていった。
……中略……
そんな生活は、高校生になっても、大学生になっても変わらなかった。

***

 絵本スタイルのこの本は野生動物をテーマにした科学の本で、子どもの成長をテーマにしているわけではない。おそらく想像だが、著者は子どもの成長を願って自身の記憶を辿って記したのだろう。野生動物についてはこの本を実際に開いて読んで欲しい。おとなにも十分タメになる。

 私は「小学5年生」からは「おとな」としています。3、4年生はその移行期。その証拠をまた一つみつけた思いです。※この本(絵本)は子ども向けですが、中身はけっこうボリュームがあり、容易とは言えません。

=-= Letter 2 ¶ 連載==「豊かさ」を問う 連続思考(3)

敗戦後の子どもたち『きょうも生きて』

 本を読んで人生観が変わる──ということは、ある。その体験を坂本遼『きょうも生きて』で味わった。その感想というか衝撃を《坂本遼(1959年)『きょうも生きて』》に記した。長いけれど、関心がある人には読んでいただくしかない。「貧乏」を記した文学は数え切れないほどにあるだろうが、この本の物語もそうだ。貧乏な暮らしで懸命に生きる子どもの姿がそこにある。体力や精神のその強さは今の子どもたちは到底かなわない。しかし、比較することに意味はない。(精神/心は子ども特に幼児は昔も今もおそらく古代においても変わらない。しかし体力は比較にならないほどに異なる。その体力が及ぼす心の強さというものはあるだろう) 時代が及ぼした環境が違いすぎる。小学2年生が歩けなくなった担任の先生を皆で力をあわせ、山から降ろした話は圧巻だった。敗戦後、庶民の多くは貧しかったが、今のわたしたちが失って想像すらできないことがおびただしくこの本にはある。豊かさを論じるとき、今の時間で切り取るのでなく、こうした歴史というか時間軸で考える必要がある。そして、今から10年後、30年後、百年後、千年後、悠久の時間を想像することが大切だと私は思う。

 本のタイトル『きょうも生きて』は「も」なのだ。一日一日を懸命に生きる。その決意が短い書名に表れている。本の中身を読む前から、私は覚悟を決めて読み始めたことを覚えている。そして、壮絶な貧乏物語にうちひしがれた。それも、子どもが主役だった。幸せとは何か、「豊か」は求められるものか、涙して読んだ。
 一つ、付け足す。坂本遼は灰谷健次郎の師匠の流れにいる。灰谷は「やさしさ」を文学にしているが、私はそれにくみしない。灰谷のそれとは意見を違(たが)えるが、坂本遼のやさしさは震えるほどに共感するものがある。

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