左脳で努力して、右脳で閃(ひらめ)く

  • 谷川浩司(たにがわこうじ)『集中力』
    • 角川書店 2000年 ISBN978-4-04-704011-3

 著者は「谷川名人」で知られるプロ棋士である。将棋界には7つのタイトル戦がありそれらは、名人戦・竜王戦・棋聖戦・王位戦・王座戦・棋王戦・王将戦。なかでも名人戦の覇者は他のタイトル戦の覇者よりも勝ちが高い(らしい。この辺は将棋界で近年ゆらぎつつあるらしい?) 谷川は21歳で名人戦の覇者となり史上最年少で「名人位」を獲得。
 タイトル保持者の呼び方だが、たとえば竜王戦の覇者のときは「谷川竜王」と呼ばれる。「谷川名人」というのは「名人」のタイトル保持者だから。私は将棋の駒の進め方や「歩」がウラになったら「成り金」と言って強くなるぐらいことは知っているが、まあそれ以上はわからず、将棋界のことも皆目不明なので、ちょっと整理してみた。

 ときには2日間、20時間にもおよぶ勝負の世界を闘う”集中力”とはどういうものだろうか? 将棋に必要な要素は集中力に限らず、//記憶力、創造力、想像力、集中力、経験力、気力、体力、情報処理能力、自己管理能力──。数え挙げればきりがない//p185 そうであるが、棋士の心理を知りたくてこの本を読んでみた。

 ある棋士は、中学から高校までの6年間に、将棋の勉強を1万時間したという。「1万時間」で驚いたが、1日当りに換算すると5時間になるという。受験勉強で5時間は普通(?)のように思えるから、その道で一所懸命するのであれば、1万時間で驚くことはないのかもしれない。それよりも、//子どもたちが一日にTVゲームに費やす時間は、五人に一人は二時間以上なのだそうで//p57 これを憂うべきか?

 あるとき棋士たちは、大学の先生に脳波の測定実験を受けた。//対局中頭に電極を取り付けられ、指し手を読むときに左脳と右脳のどちらの脳をフル回転させているかを調べる実験だった。結果は、私もそうだったが、棋士の多くは左脳よりも、右脳を多く使って思考していることがわかった//p93
 谷川名人は、閃(ひらめ)きで将棋を指す。1%の幸運で支えられているがその幸運はふだんの努力のたまものであって、努力がなければ幸運もやってこないという意味のことも言っている。
 //豊かで奥深い感性を養うことで得た閃きが、勝つための思考へとつながる。そして論理的な思考は左脳が行う。感性の右脳と思考の左脳双方を豊かにした、目先の情報におぼれない読みの深い人間が求められる時代になるのではないだろうか//(同ページ)

 サクセスストーリーにありがちな人生訓の匂いは少ないが、しないわけでもないし、先輩棋士たちを「さん」づけの敬称で呼んでいて、読者として居心地の悪さを感じてしまった。
 それでも苦境やスランプに陥った自己のたてなおしなど参考になるところも多い。次の文章を書くような人なので、私は最後まで読み通せたと思う。
 //「世界が明日滅びるとしたら、何をして過ごしますか?」ある記者の方からこんな質問を受けたことがある。「羽生さんと将棋を指していたい」という答えをねらってたようだが、私は、もしそんなことになったら、家族と過ごしたいと思っている。//p169

2001.3.7記す/2020.7.2再録、一部加筆


 「かもしれない」が右脳で、「ねばならない」は左脳。──と、考えてみた。

2022.7.5記す

© 2022 YAMADA,Toshiyuki, All rights reserved.