||||| セロトニン鍛錬100日修業法 |||

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  • 有田秀穂(ありたひでほ)『セロトニン欠乏脳』
    • 副題:キレる脳・鬱の脳をきたえ直す
    • NHK出版 2003年 ISBN978-4-14-088093-7

 鬱(うつ)の苦しみから解放されるその方法が、この小さな冊子に書かれている。毎日30分程度の呼吸法を約100日間続けることが方法。これに「セロトニン鍛錬100日修業法」と私は名付けた。
 無意識で呼吸すると1分間に普通12回。これを3回か4回にする。//たとえば、15秒に1回の呼吸の場合には、吐くのに8~10秒、吸うのに5~7秒かける//p76
 意識して吐く、それも長めに。腹式呼吸だ。
 「腹式呼吸」なら知っている。咄嗟にそう思った人も多いだろう。ところが、//お腹を動かす呼吸には、2種類あります//p67とある。//横隔膜呼吸と腹筋呼吸ですが、両者はまったく反対の動きをします//と続く。そして、医療として必要なのは「腹筋呼吸」。
 //吐いて、吐いて、吐き切る腹筋運動//p69がかなめ。10秒もかけて吐くとすれば、腹筋を使うだろうと、想像がつく。吸うときも5秒かけて、ゆっくりゆっくり……。

 さて、「セロトニン」って、何?
 大脳・小脳、……、脳の中枢部分に「脳幹」がある。脳幹のほぼ真ん中に「セロトニン神経」がある。セロトニンは、その神経が、食物に含まれるトリプトファンを材料にして放出する物質だ。放出したセロトニンを自ら回収することもする。
 放出と回収、この調節機能が混乱した状態 ── そのひとつが鬱症状ということだ。
 セロトニン神経の果たす役割は極めて多くかつ複雑。だから、今ここでそれを簡単に示すことは容易ではないので関心のある向きは本書をお読みあれ。(短く書けないということでもある) あえて総論的に言えば、悲観感情をひきおこすノルアドレナリン神経をなぐさめ、舞い上がるドパミン神経を落ち着かせる、そういう役割をセロトニンが負っている。だから、セロトニンが不調に陥ると、どこまでも悲しくなり不安になり、そして時には興奮してしまう。

 著者は、東邦大学医学部生理学教授。呼吸を専門とし、自ら提唱した「座禅のセロトニン仮説」の解明に取り組んでいる。座禅の効用はセロトニンの働きで説明できる、という。
 呼吸は、規則正しいリズム運動。わたしたちのからだが行っているリズム運動は呼吸だけではない。ウォーキング、あかちゃんのハイハイ、睡眠、食べるときの咀嚼(そしゃく)、……。もっと広げて言えば、ふだんの生活・暮らし全体がリズム運動だ。ふだんのリズムが崩れてきて、そのために、セロトニン神経が弱くなりやすくなっている。
 健康の本にありがちな、こうすれば必ずよくなる──という書き方をしていない。適度に抑制がきいていて、まずよく理解して欲しいという著者の気持ちが読み取れる。小冊子ながら、必要な科学的実証データを豊富に収録している。
 腹式呼吸に種類があり、具体的に回数・時間など、本書だけを頼りに実践できるようになっている。
 冒頭に「100日」という数字がある。なぜ100日か? 継続することが大切という意味だろう。
 しかし、継続こそがむずかしいと、私は思う。言い換えれば、呼吸法を身につけようという決意と継続があれば、セロトニン神経を自ら鍛えることができ、鬱症状を自ら克服できるということか。毎日30分、そのゆとりが必要だ、ということらしい。

2004.6.25記す/2022.7.3再録・加筆

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