鏡に映っている向こうの像を
「わたし」と思うようになるその初めは、
生後1年半から2年らしい。

//「マークテスト」と呼ばれている実験方法では、被験者(被験体)の顔にこっそりと口紅等で「マーク」をつけた後で鏡をみせ、それに気づいて手で拭おうとするかどうかがテストされます。これまでの研究で、人間では、1歳半から2歳ぐらいでこのテストにパスする(「マーク」に気づく)と言われています。動物では、チンパンジー、オランウータンはマークテストにパスすると言われていますが、ゴリラはパスしないとされています。//開一夫『赤ちゃんの不思議』岩波新書 p111
- //「自己鏡像」は、認知的な意味で、いくつかの特徴的な性質を有しています。//同p111
- 対側性……鏡像と観察者のそれぞれの身体部位は反対側に対応する。
- 視線の一致性……鏡像の目と合い、自己の視線をそらせば鏡像もそらす。
- 同時性……観察者が動けば鏡像も”同時に”動く。静止すれば静止する。
- 同時性に着目した実験
- 「マークテスト」に似た「ステッカータスク」という手法
- //前頭部にこっそりステッカーを貼り、その後で鏡やビデオ映像で自己像を呈示して、子どもがそれに気づいてステッカーを取るか取らないかがテストされる.//同p113
- 鏡とビデオ映像について、映像は2秒の遅延がかけられた。鏡は”同時“。
- 遅延がかけられた場合、3歳児は9割近くがステッカーを取らなかったという。
- 遅延を1秒に変更すると、ステッカーを取る割合が増えたという。
- このことから、視線の一致だけでなく「同時性」が大きな役割を果たしているということになる。
- 以上 同p111~114
チンパンジーの場合
チンパンジーの遊んでいる部屋に鏡をおいた。10日間、鏡の前で遊んだり食べたり、なんでも自由にさせた。そして、ごめんね、麻酔で眠らせて眉の上、額にマークをつけた。マークは匂いのしない染料で。さて、眠りから醒めてしばらくの間、鏡を取り外しておいた。チンパンジーはマークに気づくことなく、だから額のマークをさわりにいくことも、もちろん触って匂いを嗅ぐという動作もしなかった。つまり何も気づかなかったということだ。そして、ふたたび鏡をおいた。

すると鏡に映った自分を見たチンパンジーはマークに興味をもち、さわったり、さわった手を見たり、手の匂いをかいだり、手を念入りに調べた。
じつは、チンパンジーは1ぴきでなく、複数いた。その複数みんなに同じことをした。この実験をしたアメリカ人・ギャラップは大発見だ!と、驚き興奮した。──鏡に映っているのは自分の顔だと、チンパンジーが理解している、とわかったからだ。1970年頃の話。
人間の子どものように育てられた「チャンテック」と名づけられたオランウータンは、鏡をつかって身づくろいをしたり、6歳のときはサングラスをかけて鏡にむかったという。(出典:『うぬぼれる脳』NHKブックス 2006年)
人間の場合、”鏡の自分”に気づくのは、いつ?
「他者の発見、他者との出会い」では「生後2年め終わり」(36か月未満)と記した。上記では1歳半つまり「18か月」という。けっこうな幅がある。”鏡の自分”に気づくということが、ただちに「自己の発見」ではないと諒解しておいたほうがよいだろう。
2022.10.3記す