||||| 酒井邦嘉『チョムスキーと言語脳科学』読書メモ |||

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酒井邦嘉(さかい・くによし)『チョムスキーと言語脳科学』
+ 集英社 インターナショナル新書 2019年
+ 言語脳科学者
+ 1964年生まれ
+ 東京大学大学院理学系研究科博士課程修了

p24
//もし物理学が、例えば航空機と紙飛行機の運動法則を別々に研究していたら、どうなるだろうか。航空機の飛行原理は航空力学で詳細に解明されるだろうが、紙飛行機はもっと複雑な運動をする物体として、その解析は困難を極めるに違いない。ましてニュートンが発見したような、あらゆる物体に適用できる普遍的な運動法則が、「紙飛行機力学」から発見されることはまずないだろう。//

p29
//従来の言語学がそうした天動説のようなものだとすれば、チョムスキーの理論は、地動説に対応する。地動説なしにサイエンスとしての天文学が確立しなかったのと同様、チョムスキーの理論なしに言語学がサイエンスとして発展することもないと私は考える。声高にチョムスキーへの批判を唱える人たちの説の多くは、言語学を再び近代科学以前のものに追いやろうとしているかのようである。//

p34
//ノーム・チョムスキーによる言語学は、それ以前の言語学とは根本的に違う。その違いを理解するために、言語学の歴史を簡単に振り返っておこう。
 物理学や哲学の源流がそうであったように、言語に関する学問も(少なくとも西洋では)やはり古代ギリシャから始まった。例えばプラトンは、言葉の由来(語源)や獲得についての考察を行っている。//

p13
//「言語学」と聞くと、文系の一分野だと思われがちだが、チョムスキーの理論は人間の本質を解明する「自然科学」の考え方であり、その思想がもたらすインパクトは、大きく深いものだ。「言語とは何か」という問題に答えることはもちろん、「人間とは何か」というさらに大きな問題にも重要な示唆を与えるのが、チョムスキーの理論なのである。//

//「言語機能」は人間の脳の生得的な性質に由来する//

p15 上の見出し //ごく簡潔に言えば、それがチョムスキーの理論のポイントである。//

p20
//私は、チョムスキーに出会ってから、考え方を大きく転換した。その言語理論は、「猿の脳をいくら研究しても人間の言語は分からない」ということを明確にするものだったからだ。言語は、人間という「種」を特徴付ける固有の機能である。言語を持たない猿の研究では自ずから限界があるということになる。それまでの自分の考えを真っ向から否定されたのだから、これはとてつもなく大きな衝撃だった。今から20年ほど前のことである。
 宗旨替えした私は猿での研究をすっかりやめ、人間の脳そのものを研究の対象とすることにした。それまでは猿の脳を調べることで間接的に人間の脳を理解しようとしていたが、チョムスキーの理論に従うなら、人間の脳は猿と根本的に異なるところがあるに違いない。人間を理解するには、人間の脳を直接調べるしかないのだ。//

p27
//人間は「言葉の秩序」を学習によって覚えるのではなく、誰もが生まれつき脳に「言葉の秩序」自体を備えているというのがチョムスキーの考えだ。
 もちろん、それぞれの言語によって異なる語彙や発音などは後天的な学習で身につけるしかない。しかし、言葉を秩序づけるための普遍文法は、あらゆる言語に共通するものであり、いわなれば「人間語」、あるいは「脳言語」と呼ぶべきものなのだ。しかもそれは人間という種に固有なものだと考えるのである。//
p54 整理して要約
生成文法……//個別言語について構造の生成を明らかにする文法//
普遍文法……//人間にとってどんな生成文法が可能なのかを定めるもの//
p56
//普遍文法は言葉の「意味」とは違って人間の文化的産物ではなく、生物学的な脳機能というべきものなのだ。//

p38
//チョムスキーは、「文系」の学問だった言語学を、本気で「理系」の学問にしようと考えたのだった。//
※これに続く節
//現象論だけでは「サイエンス」にならない//p38~41 は、秀逸!

p42
//あらゆる言語は「同じシステムを持つ」//
※同じ段落内、遡って
//チョムスキーは、人間の言語はすべて「同じ」だと考え、文法を普遍的に説明する原理を探究した。//

p44 ①言語能力 ②言語知識
この2つ //両方の用語が意味するのは、脳に内在された「情報」であり、母語を獲得する能力としての生得性を基礎としている。なお、この「能力」は、言語知識の運用能力や、発話能力などと同一視してはならないし、この「知識」は学習や経験から区別され、ほとんどの場合で意識されることがない。これらの点は特に誤解されやすいので、注意したい。//
p54
//生得的なのは母語それ自体ではなく、母語を獲得する能力なのである。//

p47
//教育を受けた経験のない人が高い知性を持ちうることに驚いたプラトンになぞらえて、そうした能力についての問題提起を「プラトンの問題」という。この問題は古代ギリシャから現在にいたるまで連綿と問われ続けてきた、まさに究極の問題なのだ。//

p52
//理屈を知らなくとも〔※ことばの〕正確な使い分けができるのだから不思議である。//
※ここでの「ことば」とは助詞「が/の」の使い分けを例にして

p63
//人間の言語の根底に共通した秩序があるからこそ、どの時代、どの地域の言葉(個別言語)であっても、それらの間で相互のやり取りが保証されるのだ。そうした言語の深層にある構造を知ることで、人間の本質が見えるはずだとチョムスキーは考えた。//

p63
//人間の思考力とは、言語能力という基盤の上に想像力が加わったものだ。人間のさまざまな能力は分けて考えてしまいがちだが、「思考力(知性)=言語能力(理性)+想像力(感性)」として、有機的に結びつけて考えたい。//

p86
//言語は雪の結晶のようなもの//

p114
//脳には常にノイズや揺らぎがある//


養老孟司『唯脳論』文庫版 p145
//こうしたことから、言語の発生の必然性の問題は、当然のことながら、他の身体部位の問題よりも、大脳皮質に関する議論とならざるを得ない。//
p145
//言語には視覚の言語聴覚の言語とがある。さらに言うなら、点字は触覚の言語と言っても言い。この三つの感覚だけが、言語を構成できるらしい。//

2023.1.16記す

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