||||| 酒井邦嘉 編著『脳とAI』|||

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酒井邦嘉編著『脳とAI』中央公論新社 2022年
p210
//乳幼児が示す母語の獲得は、膨大なコーパスに触れるわけでもなく、学校で教わるような国文法や英文法の類いを学習することもないまま、驚異的なスピードで完成する。これがいわゆる「プラトンの問題」である。チョムスキーは、個別言語の文法の大本には「普遍文法」の原理が働くはずだと考えた。そうすると、普遍文法は生まれる前から生得的に脳に備わっていると考えざるを得なくなる。これが「言語生得説」である。//

+「第3章 チョムスキーと脳科学」
+ 対談 福井直樹×酒井邦嘉
p198
//〔福井直樹〕われわれは生まれたときにはどんな言語でも話せる「人間」であって、最初から日本語人、英語人、ドイツ語人などではないからです。人間というのは、ドイツ語のデータにさらされたからドイツ語話者になるわけで、そこに民族や人種など関係ありません。
 つまり人間は、ある特定の個別言語ではなく、任意の「人間言語」を獲得するように生まれてくるわけだから、その能力を説明できないと「言語」学にならない。日本語学や英語学でなく、言語学にならなければいけないのです。
 そのうえで、子どもが限られた言語データにさらされたとき、どのようにしてその個別言語の文法を獲得できるのかという言語獲得能力を説明するモデルをつくらなければいけません。そのモデルが「普遍文法」とか「一般言語理論」とか言われるものです。//
p199
//〔福井直樹〕生成文法理論ができた1950年代が第一の概念転換だとすると、この「原理・パラメータのアプローチ」が第二の概念転換と言えます。1950年代におけるチョムスキーの貢献は、伝統的な文法観に対して、再帰関数論という計算理論を使って定式化したことです。「規則系としての文法」というこの考えはあくまで伝統と結び付いていたのですが、1980年代にはこの伝統と縁を切って、「(個別)文法に規則はない」と考えたのです。
〔酒井邦嘉〕個別言語の「規則」というのはあくまで副次的な現象であって、本当に起こっていることではないのですね。
〔福井直樹〕従来、個別言語において文法規則を設定していた現象が、実は「副次現象」であって、それらの規則が持つ効果は「普遍文法」の原理とパラメータ値の設定から演繹的に導くことができる、ということを示したのが「原理・パラメータのアプローチ」の大きな貢献でした。これはある意味、1950年代の第一次の変革より、もっと抜本的な言語観の変革だったと言えるかもしれません。
〔酒井邦嘉〕普遍文法に基づく幼児の言語獲得は、確かに理屈抜きで自動的に身についてしまうので、学校で「文法規則」を教わるのとはまったく違いますね。
〔福井直樹〕それまでは個々の言語の個別の「構文」ごとにそれを規制する規則があるとしていたわけです。例えば英語でWH疑問文をつくるには、そのための個別の規則を仮定していました。しかしそのように複雑な規則が文法がたくさんあるのでは、幼児が文法を短期間に獲得するのは難しいでしょう。
 人間には言語に関わる普遍的原理、非常に抽象的な少数の原理が、生まれつき備わっている。そしてその原理には、実は経験によって書きこまれなければいけない未指定の部分が残っている。つまり、人間が遺伝的に持っている「普遍文法」のシステムは不完全に指定されているのです。この未指定の部分を「パラメータ」と言います。
 日本語のデータにさらされたら、その個別のパラメータが定められて値がセットされる。
 個別言語の獲得というのは、本質的には経験によるパラメータ値の固定化であると捉えるのです。そう考えれば、言語獲得がなぜあれほど短期間に、かつ貧弱なデータを基にして一様に行われるのか、という「プラトンの問題」と呼ばれる謎が解けてくる。
 ちなみにチョムスキーがこのモデルを考えたときに、ジャコブとモノーらによる調節回路のアイデアからヒントを得たらしいです。原理的なところは共通だけれども、そこにパラメータがちょっと絡むことによって、英語や日本語のように一見まったく異なるように見える規則系(言語システム)が出てくると考える。
〔酒井邦嘉〕遺伝子の発現は、まさにそうですよね。個体発生の基本原理は共通していますが、遺伝子のわずかな変異で、異なる形質が出てきます。//
p204
//〔福井直樹〕それともう一つ根本的な問題は、そもそもなぜ普遍文法にパラメータが組み込まれているのか、ということです。//
※この「パラメータ」は、遊びの「非合理」に当てはめて考えたい。遊びにはパラメータが付随しているということか。

2024.8.2記す

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