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滅多にない体験なので記録して残したい。
場所は、須磨離宮公園東の谷川(天井川)。先月の9月15日午前11時半頃。飯ごう炊さんのかまどを作っていた。薪(たきぎ)を集めようと腰ほどの草むらに入った。ほどよい枯れ木を手にし、長いので手でさばいていたら、左太ももがチクッとする。けっこう鋭い痛みだったが、茨(いばら)に刺さったのかと思った。作業を続けていると、右太もも、さらに左、右とチクチクする。この段階でもイバラと思っていた。イバラを確かめようとしたところ、ジーパンに大きなハチがとまっている。(ハチ! オオスズメ!)(ナニ!)。左にも右にも止まっている。(これか!!)。頭をもたげ正面を見ると、おぞましいほどにハチが飛んでいる。顔にも飛んできたから、帽子ではらった。帽子で左太もものハチを力一杯 2、3回叩いて殺したように思う。(こんなことしてる間じゃない。逃げなくては)。やっと状況を理解した。
大きなハチが目前で飛んでいるし、片端からわたしをめがけて飛んでくる。(どこへ逃げる?)。子ども3人やおとな3人がすぐそばにいた。そちらへ逃げればハチを導くことになる。通ってきた道ではない方向を選んで後ずさりするように離れた。走れるほどの自由な空間ではなかった。一歩、半歩と後ずさりした。数歩程度で、襲撃から逃れられるようになった。
◇
ラマチャンドラン『脳のなかの幽霊、ふたたび』角川文庫 p131
//よくよくの緊張時には、前頭葉の前部帯状回が極度に活性化します。これが扁桃体その他の情動中枢を抑制もしくは一時停止するために、不安や恐怖など、無力化を起こしうる情動が一時的に抑制されます。しかし同時に、前部帯状回の活動性は、極度の覚醒と警戒を生み出して、必要になるかもしれない防御反応に備えます。//
これをラマチャンドランは「鋼鉄の神経」(p131)と言い、ジェイムズ・ボンドに喩えている。生理的に、生体防御として脳が機能しているのであって、精神性(心)を指しているのではない。
これを物語る現象を体験した。透明感を伴うくっきりした視野が眼前に広がった。恐怖というよりパニック状態なのだが、妙に落ちついていた。緑色を含むカラー色が消え、モノトーンの世界だった。近くのハチは大きく、遠方(2,3メートル先)では無数にハチが舞っていた。体当たりを試み突撃してくるハチもいた。羽音が耳のそばでする。いつのまにか、耳と頭皮のつけ根を、肩甲骨のあたりを、右ひじを、刺された。横からきたり、下から舞い上がってきたのだろう。カチッカチッという警戒音も聞いた。逃げるしかない。留まっていたら自在に刺されるだけだ!
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オオスズメバチは木の幹が地上と接するほどのところに巣をつくる。近づくと偵察がやってくる。まっすぐ飛ぶので、偵察とわかる。巣が近いなと気づけば、迂回すればよい。──このことをよく承知していたはずなのに、わたしは襲撃を受けた。偵察を待たずして、一気に巣の間近に踏み込んだようだ。気づいたときは、地上から大きなハチが湧き上がってくるふうだった。数えられるわけではないが、喩えるならば百匹はいたかもしれない。あとで調べたところ、刺されたのは12か所。この程度で済んでよかった。
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巣から距離をとれば、追ってこないことが確かめられた。間近に飛んできたが、襲ってくるようすはなく、空を舞っていた。親子のいる方へ向かうことにした。子どもら(5歳、小2)も落ちついて見ていた。4歳は母に顔を押しつけていた。しっかりとハチの襲撃を観察したことだろう。怖がっていたけれど……。近くに飛んでくることはなかった。
レスキューの消防士が、ハチの巣近くを通ろうとするので、「もっとこっち!」と手を右に振った。ハチが現れたら、防御する噴霧器のようなものを手にしていた。
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この時点においても、わたしは、飯ごう炊さんを予定通り続けようとしていた。刺された箇所が多く、あちこち痛かったけれど、続けるという選択肢を維持していた。母親たちにしつこく言われたということもあるけれど、落ちつくにつれ、今は大丈夫だけれど、もしかして急変すれば、それはそれで大変になるかもしれないと思い直した。それで、救急を呼ぶことにした。
救助隊が到着するまでは30分ほどだっただろうか。救急車を呼んだつもりが、次々と恰幅のよいおとなが現れた。ハチが次から次へと出現したように、救急のおとなも次から次へで、(なんでこんなに多いの?……)と思ったものだ。のちほど気づくことになるが、救急車に加え、消防車(レスキュー)が3台も到着していた。刺されたのはわたし一人だが、パーティの規模に合わせ、その救助に備えたのだろう。ありがたかった。任務だろう、幾人かの質問攻めにあった。救急車が動き出すまで、ずっと質問されていた。質問の内容から、彼らが気にしていること、職務もいくらか推察された。「おなかが痛くありませんか?」は口を変えて何度も訊かれた。なぜ、おなかが痛くなったりするのだろうと思っていたが、アナフィラキシーを判断する一つの指針だったことを後日に知ることになる。
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夜になって、両足のふくらはぎがつるような感じがし、何度も足を伸ばしたが改善しなかった。つるほどの痙攣はしなかったが、つりそうだった。
翌朝、ちょっとふらつくので血圧を測ったら、100を超えたのは1,2回で、100以下だった。ふだんは、130程度。(もしかして、ショック?) 気になってかかりつけ医に電話したら、すぐに来いと言う。バイタルとしてはショックだが、合併症がないので、アナフィラキシーではないという。抗体はできただろうから、エピペン(アドレナリン注射液)を処方され、使用方法について指導を受けた。今後は、エピペン(自己注射)を携帯することになった。
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さて、焼きいも、どうするか!
ここ数年、毎年1月か2月には、ここで焼きいもをしていた。さて、来年はどうしよう……。冬場はハチがいないことを承知している。気候変動で多少は居残っているかもしれない。下見するのは嫌だなあ。ハチが居るかどうか、探索するのも嫌だ。
2025.10.1記す

