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乳幼児の発達における「臨界期」を考察する

「神経神話」:臨界期
OECD教育研究革新センター/編著
脳からみた学習』p176
//「臨界期」というより、特定の種類の学習がより効率的になる時期を「感受期」と呼ぶほうがより適切である。//

  • 山口真美♠『赤ちゃんは顔をよむ』角川文庫 2013年
  • ウタ・フリス(2003年)♣『新版 自閉症の謎を解き明かす』東京書籍 2009年
  1. ♠p180「むすび」によると、著者/認知心理学者の関心事//赤ちゃん実験をしようとした理由//は//発達における臨界期//の解明にある。
    • 文献1の記載にあたって、「生後6ヶ月頃」「生後10ヶ月くらい」「実験の結果、10ヶ月になると」「生後10ヶ月」「生後6ヶ月くらいまでに」「4~5歳くらい」「生後1ヶ月から2ヶ月」「生後2時間の」「生後7ヶ月前後」──のように、〈頃・くらい・になると・くらいまでに・前後〉と臨界期を推測している。あるいは、曖昧さをさらに限定している箇所もある。
    • 保健師の指導は、発達の個人差に気を遣い、目安であって到達基準としない配慮はあるが、そうした個人差を認めつつも、1歳未満にあっては、臨界期を研究している学者の実験・観察からは1か月(=30日)の幅に収まっている。
  2. //心の「認知革命」は、生後18ヵ月には始まっているのです。//♣p189
  3. 未熟ながら、私(山田利行)はこれに相当する革命は15か月で観察している。18か月ではほぼ完了しており、15~18か月の間に飛躍的な画期があるということだろう。
  4. ♠♣を読了して学んだことは、生まれて最初の臨界期は〈6か月〉。次が〈10か月〉。3回目が〈15~18か月〉と整理できる。
  5. 臨界期ごとに……
    1. 新生児期間4週を含めて生後5か月までが、新生児的あかちゃん期。原始反射などで生命活動をしている生物ヒトの期間。
    2. 6か月を画期として、//生後6ヶ月以降は経験が生きる//♠p150
    3. 10か月になると「ひとみしり」で知られるように、他者に対して反応や行動を起こすようになる。
    4. 立ち上がることで視点の変化、行動の自由度が増し、脳生理的にも成長が加速される。哺乳類動物と比較して1年間の「生理的早産」(アドルフ・ポルトマン)を脱することになる。立ち上がるのは生後12か月前後だが、さらに知的発達が顕著になる。15~18か月を認知革命とすることは妥当と思える。
      • アドルフ・ポルトマンの邦題『人間はどこまで動物か』(岩波新書1961年)を念頭において、動物から〈にんげん〉になったときを認知革命とするに相応しいと思う。
      • 認知革命の臨界期を発見する手法として、「三本ストロー法」が使えるのではと思う。
  6. この認知革命後、次の画期は「2歳半」と私はみている。月数が増すごとに個人差は開く。したがって「2歳半」は前後それぞれに6か月くらいの幅はあるかもしれない。
    • 「2歳半」の次は? 「心の理論」で説明される「4歳」だろうが、「2歳半」や「4歳」を画期と表現することには無理があるだろう。それは、画期でイメージされるような鮮明さはないと思われる。
  7. //一般に生物の発達では、環境からの刺激を受け入れることが可能な期間は限定される。この時期に適切な刺激を受けなければ、発達は異常となり、修復不能となる。その境界が「発達における臨界期」だ。//♠p181
     しかしながら、臨界期は絶対ではなく、臨界期までに習得されなくても、後年で //適切な「養育環境」を設定することによって、回復したのである。//♠p180 と、お茶の水女子大学で回復された虐待事例を示している。
  8. ♠の研究室では「年のべ700人ほどの赤ちゃんを迎えている」とある。延べ人数だけで比較すれば、保育園保育室のほうが遥かに多い。日常の保育室からなんらかの積み上げができないものだろうか。
  9. 〔八歳半〕//以降では、言語および認知的能力の発達は実質的に完了しています。それからも経験によりできることは広がりますが、大人の力を発揮する基本的な前提条件はすでに備えています。//♣p137 ということは、8歳半(小学3年生)までは完了しない場合もあるということか?

「臨界期」と「画期」を区別するために

「画期」について

 『新明解国語辞典第三版』『三省堂国語辞典第八版』はいずれも「画期」の見出しがあり、「著しい進歩・発展・飛躍が見られるの意」「歴史の中に新しくつくり出す一つの時期」とある。『広辞苑第三版』に「画期」の見出しはなく、「画期」を採用していない国語辞書は多いようだ。「画期」は見当たらなくても「画期的」はもれなく採用されているようだ。
 私は「区切り」または「境界」としての意味をもたせているが、「著しい飛躍(著しい負の現象を含む)」を「区切り」の前後で認められるときに「画期」を採用して表記している。
 「臨界期」については、臨界「前」に条件を満たしたとき(満たさないとき)は、期待される進歩・発展・飛躍が見られる(見られない)という脈絡で「臨界期」が存在し使用されるとしている。

  • //視覚系に関しては、適切な時期までに正しいコラム構造が形成されないと、認知機能を障害取り戻せないことがある訳です。たとえば、正しいコラム構造が形成されないと、両眼での立体視に問題が生じてしまいます。視覚的情報処理の獲得に関してはネコだけでなく、ヒトでも同じような臨界期が存在します。//開一夫『赤ちゃんの不思議』岩波新書 2011年 p175
  • //視覚系以外の認知機能に関しては、私の知る限り、今のところ脳神経レベルでの臨界期の存在を実証した研究はありません。//同p176
    ※視覚障碍者について点字を読むに中途失明では苦労するという。指で読んだ情報は視覚野で処理されるという。
  • (参考)脳科学と視覚障害-盲者の大脳体性感覚野および視覚野に関する脳画像による研究について-(PDF:抜き刷り p71~)国立特別支援教育総合研究所研究紀要 第37巻 2010
    1. p75要約。1次視覚野が活性化する「臨界期」について14歳または16歳(=思春期)が呈示されている。
    2. p81 //こうした短期間での視覚野の活性化、及び目隠しをはずして間もなくその活性化がみられなくなったことについて、筆者らは、体性感覚野及び聴覚野と視覚野の神経連絡経路はすでに存在しているものだが、通常、視覚を用いている状況では抑制されており、目隠しによって視覚系の入力がなくなり、抑制がとれたことにより、触覚および聴覚を用いる状況での活性化がみられるようになったものとしている。//
      • 赤字……「脳の可塑性」を考えるヒントになる。視覚障碍者ではなく聴覚障碍者の場合は?と思う。「視覚野」「聴覚野」あるいは「言語野」などの名称にとらわれないことが大事かな?とも思ったりする。
    1. p81 //これは前述の思春期を過ぎて視覚障害になった盲者では1次視覚野が活性化しないという研究の結果とは矛盾するように思われる。// 上記「1項」の思春期に対応する。
    2. p81 //ヒトの脳が従来考えられていたよりも可塑性に富む//

2021.10.11Rewrite
2021.1.25記す

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