|||||「神経神話」:学習ノート |||

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■テキスト
OECD教育研究革新センター/編著
脳からみた学習 ──新しい学習科学の誕生
+ 小泉秀明/監修 明石書店 2010年
+ p169~200

// 第6章「神経神話」の払拭 //
1) 三歳児神話 2) 臨界期 3) 10%の神経神話
4) 脳機能の局在その1:左脳右脳問題
5) 脳機能の局在その2:男脳女脳問題 + ※毛内拡(脳科学者)の意見
6) 多言語の習得 7) 記憶と学習 8) 睡眠学習
▶《「神経神話」の払拭》に思うこと

//神話1 脳に関して重要なことすべて3歳までに決まってしまうので、ぐずぐずしている時間はない// 三歳児神話

p171
//新生児のシナプスの数は、成人と比べると少ない。しかし、生後2か月がたつと、脳のシナプス密度は急激に増加して〔シナプス形成〕成人のシナプス密度を超える。生後10か月がピークで、10歳になるまでにシナプスの数は着実に減少し〔刈り込み〕、「成人レベル」のシナプスの数になる。その後のシナプス密度は相対的に安定している。//

p173
//人間の幼児期のシナプス密度が学習能力の向上を予測するという脳科学データは存在しない。同様に、幼児期のシナプス密度が成人期のシナプス密度を予測するかどうかということもわかっていない。また、成人のシナプス密度と学習能力を関連づける脳科学の直接的な証拠は、動物でも人間でも存在しない。//
p173
//確実な証拠がないからといって、シナプス形成などに見られる脳の可塑性が学習と無関係と主張するわけではない。ただ、現時点で得られた証拠に基づけば、何が生後から3歳までの発達を決定づける要因なのかを特定することはできないのである。//

神話発生のルーツ p172
//神経神話を煽ったのは、20年前に行われた齧歯動物(ネズミ)を使った実験かもしれない。// 以下、詳細が続く。
p196
//野生のネズミは、刺激的な環境(波止場、配水管など)で生きていて、生き残るために多数のシナプスを持っている。しかし乏しい環境に置かれると、ネズミの脳はその環境に見合ったシナプス密度を持つようになる。つまり、研究室のかごの中で生きるための必要な賢さ(それに応じたシナプス密度)を持ち合わせていればいいということである。同じことが人間にもいえるかもしれないが、本当のところはまだ明確にわかっていない。ただ、ほとんどの人の脳は、ある程度刺激的な環境に適応しているといえるであろう。しかしながら、研究によって、乏しい環境(ゲットーなど)で育てられた子どもが、学校で良い成績をとって、高等教育に進学することがあることが示されている。つまり、学生の知的能力の発達に影響を与える「豊かな環境」を定義しようとしても、考慮すべき要因があまりに多すぎて、定義することは難しいのである。現時点では、ここで挙げたネズミの研究結果を人間の教育に適応することはできない。//

Wikipedia「三歳児神話」
「三歳児神話」と「みつごのたましい……」

//神話2特定の事柄には、そのときに教えたり、学んだりしなければならない臨界期という時期がある//

p174
//幼少期のシナプス形成が将来の成人期の脳に及ぼす影響については、まだ理解されていない。しかし、成人の学習能力が特定の事柄については子どもよりも劣っていることはわかっている。たとえば、成人になってから外国語の学習を始めると、だいたい「外国語訛り」が残る。また、成人になってから楽器を習っても、5歳のときから楽器を練習してきた子どもの技術と同じレベルになることはまずない。//
言語学習については、以下参照。
p174
//特定の事柄について学習ができなくなる時期があるということなのだろうか? それとも、学習する時期が異なると、学習のスピードが遅くなったり、別の方法で学習するのだろうか?//
p174
//「年齢とともに脳のニューロンは失われてゆく」という考えは、長い間信じられてきたが、新しい技術によって否定されることになった。テリーとその同僚の研究によると、年齢によって減少するのは、サイズが比較的大きなニューロンの数であって、大脳皮質の各脳部位におけるニューロンの総数ではない。大きなニューロンが縮むだけであって、その結果、サイズが比較的小さなニューロンの数が増え、ニューロンの総数自体には変化がないのである。最近の研究によって、脳の一部である海馬では、ニューロンの新生が一生続くことが発見された。//
p175
//つまり、この研究〔ロンドンのタクシー運転手の交換記憶とナビゲーション処理〕では、高いナビゲーション能力と海馬の脳構造や機能との関連性(海馬が大きいほどナビゲーション能力が高い)が示唆されたのである。また、音楽の才能の発達と聴覚野の大きさには正の相関関係があることもわかっている。//

p175
//脳を作り直す作業は、「脳の可塑性」という言葉でまとめられ、ニューロンのシナプスの形成、刈り込み、発達、変異が挙げられる。多数の研究によって、ニューロンとシナプスの数に関する脳の可塑性は一生続くことが解明されている。//

体験予期型学習 と 体験依存型学習

シナプス形成 2つのタイプ p175要約
予期型…幼少期に自然に起こる
++ 特定期間(文法の学習、約16歳まで)が最適(=感受期
依存型…経験する複雑な環境によって一生を通じて起こる
** 語彙の学習…感受期に左右されない。年齢とともに向上する。

臨界期」は、存在するか?

p175
//「臨界期」──あるタイプの学習が唯一成功する時期──は存在するのだろうか? ある特定のスキルや知識は、脳の発達段階における比較的短い特定の「機会の時間枠」でのみ習得されるのだろうか?//
p175
//「臨界期」という概念は、世間にも比較的よく知られていて、コンラート・ローレンツ(Konrad Lorenz)という動物行動学者の1970年代の実験にさかのぼる。//
※このあと「刷り込み」現象に触れ……
p175
//「臨界期」とは、このように、特別な時期に起こる事象やその欠如が、元に戻せない状況を引き起こす場合に使われる用語である。//
p197
//動物研究の知見を人間にあてはめて考えるときは、特別な注意が必要である。このことをコンラート・ローレンツや他の研究者は時々忘れたようである。齧歯類の実験結果をもとにして、刺激的な環境が生徒に与えられると、彼らの脳の接続性が強まり、より優秀な生徒になるという考え方が導き出された。そして、賢い子どもを育成するために必要な環境は、変化に富んで、興味深く、感覚的に意味があるべきだと、教師そして両親に勧められた。ネズミのデータからは、子どものための「豊かな環境」の必要性が正当なものかどうかを証明することはできない(たとえば、モーツァルトを聴く、カラフルな携帯電話を見る)。複雑な環境または疎外された環境が脳の発達に与える影響については、動物そして人間を対象とした脳科学研究が並行して行われていないのである。//
マシュー・リーバーマン『21世紀の脳科学』p61
//動物を使った実験はたくさんの知識を与えてくれるが、だからといって、それが人間の場合にも当てはまるとは限らない。//

臨界期よりも、感受期が適切か……

p176
//人間における学習の感受期については、あるのかどうかも含めてまだよくわかっていない。//
p176
//「臨界期」というより、特定の種類の学習がより効率的になる時期を「感受期」と呼ぶほうがより適切である。//
p176
//科学者のコミュニティでは、感受期──特に言語学習感受期──が存在することを認めていて、そのうちいくつかを特定している。その中には成人年齢のものもある。//

p176 //言語学習は「感受期」の良い実例となる。//

p176
//生まれてすぐの子どもは、言語の音をすべて区別することができ、両親の母語と異なる音でさえも区別できるのである。日本人の成人は、「r」と「l」の音を区別することができず同じ音として認識するが、日本人の赤ちゃんは、この二つの音を区別することができる。音の認識能力は、生後12か月の間に、子どもが置かれている音の環境によって急激に形成される。そして、1歳になる頃には、自分の環境で使われない音の違いを習得することがもはやできなくなる。外国語の音を区別する能力は、生後6か月から12か月の間に減退し、その間に、子どもの脳は母語を堪能に話すことができるように変化する。母語の音のレパートリーは、新しい音の習得を必要とせず、それどころか、認識しない音と生産しない音の「喪失」を必要とする。そしてこの「喪失」のプロセスは、シナプスの連続的な刈り込みによって完成すると考えられる。こうした人間の学習の一面を、「臨界期」というより「感受期」と表示するほうが好ましいのは、それが情報の増加ではなく、情報の喪失について言及しているからである。とはいえ、言語の音(音韻やアクセント)を再生する能力、そして文法を効果的に統合する能力が、幼少期において最適なことには疑いはない。一方で、言語能力の中で、語彙の習得能力だけが、一生を通じて保たれる能力である。//

p131
//脳には言語を習得する生物学的基盤がある。チョムスキーが提案したように、脳には音として聞いたものを意味として理解する能力が備わっていて、それは知覚情報を物体表象に変換するシステムに似ている。//
p131
//言語の生物学的基盤として機能する脳構造もあるが、言語習得の過程には経験の役割が不可欠である。言語には発達性感受期が存在する。//
p132
//脳は、生後10か月の間に触れる言語の音素のプロトタイプを最適に習得する//
p132
//言語文法の学習にも発達性感受期がある。言語習得の時期が早ければ早いほど、脳はより効率的に文法を習得することができる。1歳から3歳の間に外国語を学習した場合、外国語の文法も母語と同様に左脳で処理される。しかし、言語の学習時間が4歳から6歳の間にずれるだけで、文法の処理には両半球が必要になってくる。ましてや、言語に最初に触れる時期が、中学生になってすぐの時期や、11歳、12歳、13歳だったりすると、異なる脳活動パターンを示すことが脳画像研究でわかっている。言語への接触が遅れることによって、脳は文法を処理するために異なるストラテジーを使うようになる。この脳画像研究による知見は、第二外国語に触れる時期が遅いと文法処理能力に顕著な欠陥が生じるという行動研究の知見と一致する。早いうちに文法に触れると、非常に効率的な言語処理のストラテジーを使うことができるが、遅くに触れると別の効率の低い他のストラテジーを使う結果になるかもしれない。//
p133
//言語のアクセントの習得にも感受期がある。音韻プロセスのひとつであるアクセントは、12歳になるまでに最も効率的に習得することができる。発達性感受期は、特定の言語機能にとって必要なものであるが、感受期とは関係がさなそうな音韻プロセスもある。//
p133
//年齢と言語学習の効果や言語の多くの側面の学習効果は、反比例関係にあるといえる。一般的に、言語学習を始める年齢が早ければ早いほど、学習の成功率は高い。これは、青年期になるまで外国語の指導を始めない多くの国の教育政策とくい違っている。//
p133
//しかしながら、効果的な早期指導は、適切な年齢に行われなくてはならない。成人向けの外国語の学習方法を幼児教育に取り入れても、あまり役に立たない。重要なのは、幼児向けの適切な外国語の指導を考案することである。
 早いうちからの言語学習は最も効率的かつ効果的ではあるが、忘れてはならないのは、言語は生涯を通じて学習することが可能だということである。ただ、青少年や成人になってからの外国語の学習は可能であっても、早いうちからの学習と比べると難しくなるのは事実である。成人が新しい言語環境に置かれれば、その言語を「非常によく」習得することはできるが、抑揚やアクセントのような特定の側面については、幼児期の習得と比べると劣るかもしれない。また、発達性感受期の程度や期間には個人差があり、成人になっても外国語のあらゆる側面を習得することができる人もいる。//

p134 //読み書き以前のスキルの基礎//

p134
//幼児期の家庭環境において、歌う、遊ぶ、絵を描くなどの読み書き以前のスキルの基礎がどれくらい与えられるかに注目する必要がある。//
p134
//脳が読み書きを習得することは、必ずしも生理学的傾向というわけではないが、脳が経験に順応することは、生理学的傾向である。//
p135
//読み書きは「言語の理解のもとに構築される」のである。ヴィゴツキーの有名な喩えで表現するなら、「言葉の構造こそが、読み書きの脳の神経回路を形成する足場作り(scaffolding)である」(Vygotsky,1978)。//

p177 ピアジェ理論も検証対象に
//発達に関するピアジェの基本的な考えは次の通りである。「子どもが認知発達を特定の期間経験すると、比較的一定した年齢の前に学習することができなくなるスキルがある」というものである。//
p177
//この考えは、読む・数えるというスキルにあてはまり、OECD諸国の学校システムでは、6~7歳前の児童に、読み書きと算数を正式に教えていない。//
p177
//ピアジェと彼の同僚は、とりわけ、子どもは数の先入観なしでこの世に生まれてくると提唱した。しかし最近の脳の働きに関する研究によって、子どもは生まれながらにして数の表象を理解しているということが示されている。//
p177
//これは、ピアジェの知見すべてを疑問視するということではなく、本当に敏感な時期の重要性を正しく確認したとえいる。//
※「えいる」は「いえる」の間違いと思える。
p177
//子どもには、研究者が考えていた以上に、生まれながらの「才能」がある。だからこそ、「学習科学と脳研究」によってピアジェの影響力のある理論を総体的に検証する必要がある。//
「学習科学と脳研究」は本書のテーマ。生まれながらの「才能」(=つまり生得的な才能)については脳研究の出番!という主張だろう。

臨界期 / 画期 / 感受期
+ 乳幼児期の「臨界期」を考察する
+ 「2歳半を画期とする」ことの考察
+ 年齢による発達段階

三上章充『脳の教科書』講談社 p273
//第1次視覚野の発達に正常な視覚環境が不可欠な時期があります。この時期を、感受性期または臨界期と呼んでいます。//
※この部分はネコの場合だが、p268に始まる「第6章 脳の発達・適応・学習」において、〈臨界期〉は上の1例のみで、ほかは〈感受性期〉と表記し多用されている。
※〈感受期〉ではなく〈感受期〉と表記されている。

//神話3 私たちはたった10%(ときには20%)しか脳を使っていない// 10%の神経神話

p177 推定由来 ※要約
+ アインシュタインが、「自分は10%しか脳をつかっていない」と言ったこと──
+「沈黙の大脳皮質」(カール・ラシュレー、1930年代のこと)──
p178
//現在、脳画像技術の進歩により、脳の機能部位は正確に把握されている。それぞれの感覚は、ひとつまたは複数の主要な機能部位に対応している。//
p178 グリア細胞
//グリア細胞の数がニューロンの10倍もあるという事実から生まれたともいえる。//
//情報の伝達機能の主役はニューロンであり、これは脳を構成する細胞の10%を占める。このことがさらなる「10%の神経神話」という間違った考え方の土壌となっているようである。//

p178 //脳科学の知見によると、脳は100%活動している。//

p179
//人間の脳の重さは体重の2%しかないにもかかわらず、20%もの有効エネルギーを使っている。そのような高いエネルギーを要する器官の90%が無用であるなら、進化において脳の発達は起こらなかったといえるであろう。//

//神話4 私は左脳人間で、彼女は右脳人間だ//
脳機能の局在 その1

p184
//最新の研究に基づいて科学者が出した結論は、認知課題の遂行のために//★

★//左脳と右脳は一緒に働き
機能的非対称性はあるにしても
二つの大脳半球が別々に働くということはない、//☆

☆//ということである。//

p185
//顔認識、発話といった課題については、一定の脳半球が重要な役割を果たしているが、ほとんどの課題は両半球が同時に働くことを要求する。これは、「左脳」と「右脳」の概念を無効なものにする。//※次に続く
p185
//たとえその概念が、さらに多様化した教育方法を支援することで役に立ったとしても、生徒や文化を優位半球によって分類することは、科学的にはきわめて疑わしく、社会的には危険なことであり、倫理的にも問題がある。したがって、避けるべき神経神話なのである//

p179
//脳は左脳と右脳から構成されていて、それぞれの脳半球は、特定の分野やプロセスに特化している。//
p179
//しかし、まずは、二つの脳半球は切り離すことができない、機能的かつ解剖学的な存在だということを強調しておきたい。神経構造(脳梁)が左脳と右脳を結んでいて、多数のニューロンは、いずれの脳半球にも細胞核を持ち、もう一方の脳半球へと投射している。これにより右脳と左脳は互いに反応し合うのである//

p180
//彼〔アーサー・ラドブローク・ウィガン、1844年〕によると、二つの脳半球は独立していて、それぞれの脳半球は別個の意思と考え方を持ち、左脳と右脳は通常一緒に働くが、疾患者の脳では互いに反する働きをすることがあるとされた。//
※これの影響下に、『ジキル博士とハイド氏の奇妙な物語』(1866年)があった。
p180
//この物語は、原始的/感情的ですぐに自制心がきかなくなる右脳に反して、左脳は洗練されているという考え方に基づいている。//

p180
//フランスの神経学者であるポール・ブローカは、小説を通り越して二つの脳半球の異なる役割を特定した。ブローカは、1860年代に、20人以上の言語機能障害があった患者の死後の脳を調査し、左脳の前頭葉に損傷があるが右脳には損傷がないことに気づき、言語の生産には、左脳の前頭葉が重要な役割を担っていると結論づけた。//
p180
//この考えは数年後、ドイツの神経学者であるウェルニッケによって完成された。//

p181
//1960年代までは、左脳が言語の使用と処理(言語の側性化)に果たす主要な役割を観察するために、脳損傷患者の死後研究に基づいていた。//
※一方「分離脳」患者の研究を通して(1960年代から1970年代にかけて)
p181
//言語機能が不均衡に局在していることから、左脳は言語、右脳は非言語と考えられるようになった。言語は人間の機能の中で最も高次レベルとされることが多いため、「優位」な左脳といわれるようになった。//
※左脳の言語機能に対して、右脳についても
p182
//右脳が空間視覚に驚くほど優位であることがわかる。// ほかの記述が列挙され、
p182
//こうした知見は、神経神話を生み出すのに十分であった。//
p182
//オースタイン〔1970年〕は、左脳を「西洋人」の論理的、分析的思考と結びつけ、右脳を「東洋人」の感情的、直感的思考に結びつけている。//
p183
//オースタインの考えは、実在する科学知見の間違った解釈と歪曲した説明が積み重なった結果であるといえるであろう。//

p184
//左脳と右脳の機能を明確に分けることはできないので、
大脳半球の
優位性に基づいた脳科学理論に頼ってきた教授法は、
科学的に間違った解釈に基づいているという側面もある。//

p184
//右利きの人の5%は、言語に関する主な脳ネットワークが右脳にあり、約3分の1の左利きの人は、言語の脳ネットワークが左脳にある。//

(参考)+ 右脳と左脳

//神話5 認めよう! 男の脳と女の脳はやっぱり違うんだ//
脳機能の局在 その2(性差)

p185 //学習中の神経回路の形成
に関与した
性別に特化した処理」は示されていない//

p185
//『話を聞かない男、地図が読めない女:男脳・女脳が「謎」を解く』といったタイトルの著書は、ベストセラーになった。こうした見解は、どれくらい健全な研究に基づいているのであろうか?//
p185
//男性と女性の脳は、機能と形態に違いがある。たとえば、男性の脳のほうが大きいが、言語に関連する脳部位は女性のほうがより活動を示す。しかし、こうした違いを見極めることは非常に難しい。//

※サイモン・バロン=コーエン『共感する女脳、システム化する男脳』(2005年)
書名が迷惑だなあと思う。このタシトルだけで神経神話を生む。
p186
//バロン=コーエンが「男性脳と女性脳」という言葉を使うのは、特別な認知プロファイルを指すときである。それでも、そうした言葉を選んだことで脳の働きについての考えがゆがめられるのであれば遺憾なことである。//

//神話6 子どもの脳は一度にひとつの言語しか学ぶことができない// 多言語の習得

※以下+0+は、神経神話または間違いである。
p186
+1+//新しい言語を学習すればするほど、他の言語ができなくなってしまうという神経神話がある。//
p186
+2+//他の神経神話としては、二つの言語を司るのは別々のそして接点もない脳部位なので、ひとつの言語習得で得た知識は他の言語に移行することはできないというものがある。//
p186
+3+//さらには、他の言語の前に母語を「正しく」学習しなくてはいけないといった考えもあり、これは間違っているといえる。//
p187
+4+//他の言語ができなくてもひとつの「正式な」言語ができるほうがいい、という考えがある。//
p187
+5+//「言語に関連する情報を保存するために、脳には限定された容量がある」という神経神話を生み出してしまう可能性がある。//
p187
+6+//「ひとつの言語で習得した知識は、他の言語への使用・移転ができない」というのも、神経神話であり直感に反している。//

p188 //二つの言語を習得した子どもは、それぞれの言語の構造をより理解し二つの言語をより意識して使う//

//神話7記憶力を向上させよう!// 記憶と学習

p188
//記憶は学習にとって重要な機能であり、同時に、憶測と歪曲にあふれている。//
※これに続けて、商戦スローガンを列挙し、批判の対象としている。

p189
//記憶は無限のものではない。記憶の容量は確かに非常に大きいが、数に限りのある神経回路に情報が保存されるからである。//
p189
//覚えるためには、忘れてしまう能力が重要だということも研究で示唆されている。//
//子どもにとって忘れる速度は、効率的に記憶する力を強化するために最も適した速度ともいえるだろう(Anderson,1990)。//
※新しい××を吸収し瑞々しいのは「忘れる能力」。一方で、忘れる能力を失ったら……。神経心理学者アレクサンダー・ルリアの患者の場合。
p189
//この患者は無限の記憶力を持っているというよりは、忘れる能力が欠如していたといえる。彼は、安定した仕事を見つけることができなく、結局は単なる「記憶力のチャンピオン」でしかなかった。//

p189~190
「写真的記憶」と区別された 「直感像記憶

p189 写真的記憶の事例 ※視覚記憶ではなく「特殊な考え方」としている。
//ディグルートは、「偉大なるチェスの達人がチェス盤の配列を再現する能力というのは、視覚記憶ではなく、彼らが熟知しているゲームの情報を頭の中で整理する能力によるものである」という結論を下した。このことから、同じ刺激でも、状況に関する知識の深さが違えば、異なって認識・理解されるということがいえる。//

p190 直感的記憶の事例(こちらは、「特殊な視覚記憶」)
//とはいえ、中には並外れた視覚記憶を持つ人もいるようである。彼らはイメージをほとんど完全にそのまま記憶することができる。これは「直感像記憶(eidetic memory)」と呼ばれるものである。たとえば、ほんの少ししか見ていないにもかかわらず、そのページの写真をとったかのように、知らない言語で書かれたページ全部を書き出すことができる人がいる。こうした直感像記憶は、写真的記憶とは違い、脳における再生が行われ、脳において構築されるものである。直感像記憶の形成には時間がかかり、イメージを見るときは最低でも3~5秒は見て、一つひとつのポイントを調べている。こうしたイメージがいったん脳で形成されたら、見たものをまるで今見ているかのように描写できるのである。興味深いことに(そして混乱させるかもしれないが)、高い割合で子どものほうが大人よりも直感像記憶を持っていて、学習または年齢がこうした能力を弱めるようである(Haber and Haber,1988)〔”The Characteristics of Eidetic Imagery“〕。また、2~15%の小学生が直感像記憶を持つことがハバーとハバー(Haber and Haber,1988)によって示されている。リースク他(Leask 他,1969)〔”Eidetic Imagery in Children: Longitudinal and Experimental Results“〕は、読むというスキル、つまりイメージを見て言語化することが、直感的な像としてイメージをとらえることを妨げてしまい、直感像記憶が年齢とともに失われるのかもしれないと示唆している。コスリン(Kosslyn,1980)〔Mental Imagery〕も、視覚的に記憶することと年齢との負の相関関係について研究している。彼の研究によると、大人は言葉を使って情報を復号化できるが、子どもは復号化を可能にする言語能力が十分に発達していない。こうした解釈に賛成したり反論したりするには科学的証拠がまだ十分なものではないので、今後は脳画像研究による証拠が必要になってくる。//

(参考)+ やっぱり「みつめられていた」

p190 ※//記憶力を高める技術は数多く//
//たとえば、記憶術、同じ刺激の繰り返し、概念マップの作成、必ずしも意味があるとはいえない事柄に意味を与えること、などが挙げられる。//
p191
//身体的経験、脳の積極的使用、脂肪酸などを含むバランスのとれた食生活は、記憶の発達と変性疾患の危険度を下げるのに重要である。//

p191
//「学習のやり方を学習させるほうが良くはないのか?」という問いは、脳科学によって答えることはできないが、依然として非常に適切な問いである。//

//神話8 眠っている間に学習しよう!// 睡眠学習

p194
//結論として、眠っている間の学習についての強い主張を裏付ける証拠はなく、眠っていてもいなくても、単なる繰り返しが効果的な学習を促すというような信頼できる科学的証拠はない。//

2023.1.28記す

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