||||| 毛内拡『面白くて眠れなくなる脳科学』読書メモ |||

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  • 毛内拡(もうない・ひろむ)『面白くて眠れなくなる脳科学』
    • PHPエディターズ・グループ 2022年

p32
//脳はすべての情報が均等に処理されているわけではなく、精密な役割分担がなされています。//
※機能局在という専門語を使わないで説明しようとしている。

p32 要約
大脳皮質……五感などの感覚情報、運動や言語を担当
小脳……運動を学習
大脳辺縁系……快・不快や恐怖などを制御
大脳基底核……適切な運動を選択し、認知機能を調節
脳幹……呼吸や内臓の動きなど生存に必須な働き

p34 要約
神経系
1 中枢神経系
1-1 脳
1-2 脊髄
2 末梢神経系
2-1 体性神経系
2-1-1 感覚神経系
2-1-2 運動神経系
2-2 自律神経系
2-2-1 交感神経系
2-2-2 副交感神経系

p42 要約
+ 思い込みや勘違いは脳の省エネ
+ 認知のゆがみ / 認知バイアス
※関心をもつと、そのカテゴリーを認知しやすくなる。

p53
//シナプスというのはギリシャ語で「つなぐ」という意味で、軸索末端部とスパイン〔棘突起〕が向かい合って、膨らんだ構造をしています。軸索末端とスパインは、完全に接しているわけではなく、2万分の1mmの隙間があり、ここを神経伝達物質が拡散することによって伝わるのです。
 人間の脳には、数千億個のニューロンがあるといわれています。さらに一つひとつのニューロンには、1000個から1万個のシナプスがあります。
 しめて数百兆個にのぼるシナプスが情報を、縦横無尽にやりとりしているのです。//
※スパイン(棘きょく突起)……p51 //一つの樹状突起には、棘突起(スパイン)と呼ばれる、トゲ状の構造が、数千から数万個、びっしりとひしめいています。//

p75
//少なくとも右脳と左脳が役割分担をしているのは、間違いないことだと思いますが、それをもって「自分は左脳型人間だ」とか「左利きは右脳が発達している」というのは、少し誇張されすぎていると私〔毛内拡〕は思います。
 私たちの個性や性格は、たくさんの脳内物質のバランスなどによって決まっていると考えられます。個性や性格が白黒で決められないように、脳内物質のバランスはグラデーションのように無限に広がっているというものです。これが私たちの多様性であり、みんな違ってみんないいというほうが脳の研究者としてはしっくりきます。
 同様に、脳の性差も突き詰めると、脳のホルモンのバランスによって多様に定義されるというのが最近の考え方です。そもそも、生物は発生時には性別は分かれていません。そこに、アンドロジェンと総称されるいわゆる男性ホルモンが作用することで、オス型の体になり、男性ホルモンの作用が少なかった個体は、メス型になります。//
p76
//脳も同様で、原型があり、性ホルモンの濃度分布に従って変化していきます。ただ、肉体の場合は、わかりやすい外見上の変化が生じるために、オス、メスと白黒に分けることができます。一方、脳には本来は白黒で分けられるような特徴はありません。
 つまり、肉体はオスだけど、性ホルモンの濃度が薄いパターンや、その逆も十分ありうるということです。脳に限ってはオス・メスと白黒で分けられるものではなく、グラデーションのように無数の多様性があります。巷では、男脳・女脳ということがいわれますが、そこで理解を止めてしまうのはもったいないことです。
 この「左脳・右脳」「男脳・女脳」や白黒または善悪など二元論的に理解したい性質も、一種の脳のバイアスといえるでしょう。//

p122
//ニューロンの接合部をシナプスといいますが、このシナプスの数は生後から1歳にかけて最大に増え、そこから思春期にかけて、不要なシナプスは除去されて、適切な回路が取捨選択されていきます。これが正常な発達過程と考えられています。不要なシナプスが除去される過程のことを「シナプス刈り込み」といいます。
 ところがなんらかの原因で、このシナプス刈り込みが正常に行なわれなかった場合が発達障害だと理解されています。つまり、人よりも神経回路の数が多く、複雑になっているのです。
 脳は、不要な神経回路を刈り込むことで省エネを実現しています。エネルギー効率が良い状態が健康な脳機能には欠かせません。しかし、発達障害の脳では、エネルギー効率が悪い状態になっているとも考えられています。
 一方で、この発達障害や知的障害をもつ人の中に「サヴァン症候群」と呼ばれる人たちがいます。驚異的な記憶力を持ち、過去に一度見ただけの町並みをビルの一つひとつまで絵で完ぺきに再現してしまうなどの天才としか思えない能力を発揮します。
 これもまだわからないことばかりですが、正常・障害・天才の境界は、じつはあいまいなことは確かです。//

p133
//思い出してみれば、私たちも子どもの頃は、ありとあらゆる感覚をありのままにリアルに、美しく感じることを当たり前のようにできていました。
 子どもに戻ることはできなくとも、幻覚剤などを摂取したのと同じような効果は、瞑想や座禅などでも得られることがわかっています。薬物などに頼らずとも、常識を解き放ち、創造性を発揮できるのです。//
※ということは、「遊び」の効能を謳っていることに相当するのでは?

p130
//コーヒーやお茶に含まれるアルカロイド(植物由来の有機窒素化合物)の一種、カフェインは、脳の中でアデノシンという物質の受容体を阻害する働きがあります。アデノシンは、細胞のエネルギーとなるアデノシン三リン酸(ATP)が分解されてできるもので、起きているとどんどんと脳に溜まってきます。ここで眠れば、アデノシンが減少して、眠気がなくなります。
 アデノシン受容体は、ドーパミン受容体と一緒に働いており、アデノシン受容体にアデノシンが結合すると、逆にドーパミン受容体の働きが下がるという性質を持っています。カフェインは、アデノシン受容体を阻害するので、カフェインが効いている間は、ドーパミン受容体がしっかりと働き、覚醒状態を維持しやすくなります。
 ところが、別にアデノシンそのものが減っているわけではないので、カフェインの効果が切れると一気に眠くなるというわけです。//
p143
//脳脊髄液は、脳が覚醒状態にある時には、あまり染み込まず、睡眠中や麻酔によって促進されることが示されています。//
//睡眠中には、隙間が広がるのでより水が流れやすくなると考えられています。
 特に、深い睡眠である徐波睡眠中に、脳の水の流れが良くなることが、マウスとヒトの両方で示されています。//
//この脳が元来持っている「高圧洗浄」のしくみをうまく利用すれば、アルツハイマー病をはじめとした、さまざまな病気の治療や予防に役立つものと期待しています。
 脳を健康に保つために、しっかりと睡眠をとりたいものですね。//

p159 グリア細胞の 怪:快(1)
//大脳皮質におけるニューロンとアストロサイトの数の比を、さまざまな動物種で比較してみると、進化的に脳がより複雑な生物ほど、その割合が増えることが報告されています。たとえば、マウスとラットでは、ニューロン1に対してアストロサイトは0.4程度であるのに対して、ネコでは1:1程度、ヒトでは1:1.5程度と増加します。つまり、ニューロンよりもアストロサイトの数のほうが多いということになります。
 加えて、ヒトのアストロサイトのほうがマウスと比べて格段に大きく、複雑であることが報告されています。//

p159
//そればかりではなく、ヒトのアストロサイトには多様性があることもわかっています。当然、ヒトやマウスで共通して持っている種類のアストロサイトも存在しますが、ヒトや一部のチンパンジーにしか存在しない種類のアストロサイトも存在します。
 このヒト特有のアストロサイトが興味深いのは、長さ1mmにもおよぶ突起を伸ばしているところにあります。細胞体の大きさが、0.01mm程度であることを考えれば、この突起がいかに長いかがおわかりいただけると思います。
 先ほど、マウスのアストロサイトは、自分の守備範囲を持っており、突起同士が重なり合わないことが特徴だと述べましたが、ヒトのアストロサイトは、この法則に従わないようです。
 ヒトの大脳皮質の厚さは、部位にもよりますが、平均すると2.5mm程度ですから、大脳皮質の上層から下層に向かって、また下層から上層に向かって1mmの突起を伸ばしているということは、ほぼ大脳皮質の全体を覆う回路を形成しているのかもしれません。//
p161
//アストロサイトは、血管とシナプスをつなぐ役割を持っていますが、マウスでは周囲にあるシナプスをいくつも束ねて、その活動性を調節している可能性があります。したがって、直接は、シナプスを形成していないニューロン同士も、アストロサイトを仲介として、一緒に活動しうるということです。
 もし本当に、ヒトの脳では、アストロサイトが大脳皮質のニューロンの活動を縦横無尽に仲介しているとしたら、まったく関係のないニューロンが一緒に活動するように誘導して、シナプス刈り込みを形成させたり、複数の領域の神経回路を同時に活性化することで突拍子もないアイデアをひらめいたりということが、ありうるのです。//
p161
//もしそうだとしたら、なぜヒトだけが特別なのか、動物とヒトは何が違うのか、頭が良いとはどういうことか、の答えには、アストロサイトが密接に関わっているといえるのかもしれません。これは、これまでのニューロンを中心とした考え方とはまったく異なる、新しい考え方となるでしょう。//

p162 グリア細胞の 怪:快(2)
//ヒトであってもマウスであっても細胞の働き方は基本的には同様である//
※この前提で生物に共通した原理研究が行われる。そこで、
//アメリカでは、ヒトから採ってきたグリア細胞前駆体をマウスに移植するという少しマッドサイエンスのような研究が行われました。//
p163
//マウスの脳に移植されたグリア細胞前駆体は、ヒトアストロサイトに分化し、マウスの脳の中で増殖します。もともといたマウスのアストロサイトを隅っこに追いやって、大部分をヒトのアストロサイトが占めるようになったといいます。
 こうしてできたマウスは、脳の一部がヒト化しているということからキメラマウスと呼ばれています。//
p163
//このキメラマウスの脳機能を調べてみたところ、シナプスの伝達効率が向上していることが明らかとなりました。さらに、電気ショックと音を組み合わせて学習させる行動試験では、キメラマウスでは、2.5倍ほど記憶力が向上していたことが報告されています。
 いずれにせよ、アストロサイトは、単に隙間を埋める細胞や縁の下の力持ちなどではないことがわかってきました。//

p164 グリア細胞の 怪:快(3)
※「アインシュタインの脳」については、しばしば話題にされてきたが、これまでは脳の形態であったりニューロンについて、であった。
//しかし、アストロサイトを含むグリア細胞には違いが見つかったというのです。脳の一部で、普通のヒトと比べて、グリア細胞の数が2倍程度多い領域があったということです。//
p164
//前に「IQが高い人の神経回路はシンプルだった」と述べましたが、IQが高い人の脳で増えているものの正体は、アストロサイトだったのかもしれません。//
p164
//数が多いことが良いといっても、生後アストロサイトの数は増やすことはできません。そのため数を増やすことよりも今あるアストロサイトをしっかりと活性化させることが重要だと考えています。
p164
//アストロサイトは、これまで何度も登場した、ノルアドレナリンやアセチルコリン等の神経修飾物質の受容体を豊富に持っていることが知られています。したがって、新奇体験を積極的に行なうことが重要であると考えられます。//

p170
//脳とテクノロジーを結ぶ技術のことをブレインテックと呼びます。三菱総合研究所が行った試算によると、2024年までにはこのブレインテック市場は、5兆円規模になると予想されています。そのスローガンは「AIのさらにその先へ」です。//
p172
//これまでは、能力の拡張といっても障害を補うなど、あくまでもともと持っている能力を回復させる方法に過ぎませんでした。
 ところが、脳刺激法を用いれば、これまでできなかったことができるようになるかもしれません。ニューロンモデュレーションと呼ばれる方法では、電気や磁気などを用いて、脳のいろいろな部分あるいは自律神経などを刺激することで、機能不全を補ったり、機能を強化したりできるのです。//
p173
//しかし問題は、人間の能力をどこまで拡張することが許されるかということです。//

2023.2.16記す

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