||||| 指さし |||

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「とって」命令 「あるよ」方向

p86
//赤ちゃんの指さしの発達に関する従来の研究は、指さしをそのはたらきから2つのタイプに分類してきた(バロン=コーエンもこの分類基準を受けついでいる)。//
p86
//その第一は、子どもが何か遠くにある物をとってほしい時に、「あれをとって」とその物の方向を指さす「命令的指さし」である。この場合、誰かがその物をとって渡してくれれば指さしの目的は達成されるが、誰もとってくれない場合は欲求不満が生じ、かんしゃくなどの感情的反応が起こるだろう。
 命令的指さしは、何かを得るために他者を利用することを目的とするので、相手の心の状態を考えなくても成立するものである。つまり、この場合子どもにとっては、指さすことによって何かが得られればそれでよいのであり、指さしを受ける側の人の気持ちを理解したり考慮したりする必要はまったくない。//
p86
//第二は、人の注意(特に視線)をある物に引きつけることを目的とする「宣言的指さし」である。これは、「あんなものがあるよ」というコメントや注釈の代わりとなるものである。子どもは、指さした物に対して人の注意を引きつければそれでよく、見てほしい人が見てくれないとかんしゃくを起こすかもしれないが、その物を取ってもらえなくても、人が見てくれさえすれば満足できる。
 宣言的指さしの場合、指さしを受ける側の人の「注意の対象の変化」をモニターすることが必要であるから、宣言的指さしは人の心の状態を考えることによってはじめて成り立つものであるということになる。そこで、合同注視研究では、この宣言的指さしの成立と心の理解の関係を明らかにすることが研究の目標となっている。//

ウタ・フリス『新版 自閉症の謎を解き明かす』東京書籍 2009年
p189 小見出し//注意の共有//
//驚くべきことに、赤ちゃんは単に対象のものに対して興味をもっているだけではありません。赤ちゃんは、対象物に対して他人が示す態度にも興味をもつのです!//
p190
//生後8ヵ月の赤ちゃんは、お母さんをじっと見て、お母さんは恐怖の表情を浮かべるのか喜びの表情を浮かべるかを確かめてから前進します。//
p190
//生後10ヵ月の健常の赤ちゃんは、言葉を話せる以前でも、かわいい指先をしっかりと伸ばして指さしを始めます。これもまた、周りの人の心の状態への潜在的な気づきを示す行為です。//

『指さしと相互行為』
安井永子・杉浦秀行・高梨克也/編 ひつじ書房 2019年

 本書の〈指さし〉とは、乳幼児だけでなく、おとなの同じ行為をも示す。「子どもの発達研究における指さし」(第2章:高田明、担当執筆)を読んだ。
 あかちゃんの〈指さし〉については、発達研究が進んでいること、その事例は多くあるという。とはいえ、本書に限って結論をいえば
p56
//研究の歴史は短く、扱うべき研究領域は広大である。//
とし「研究がまだまだ不足している」としている。
 ひとり歩きできないあかちゃんの〈指さし〉に出会い、「ん? 何かな?」と考えさせられたおとな(親)は多いと思う。
 〈人さし指〉で指さししているか、人さし指だけでなくほかの指も動き、結果、てのひらで指しているようすもある。
p47
//乳児は生まれてすぐ泣くことを通じて環境に働きかける。そして生後1ヶ月目の半ば頃からは、乳児と養育者の間に泣きやむずかりという不機嫌さを媒介にして、さまざまなニュアンスを備えた原初的なコミュニケーションが成立し始める。いいかえれば、養育者はその解釈活動を通じて乳児の「欲求」や「要求」をその乳児と間身体的・間主観的に構成し始める。そして乳児は次第に、養育者に体勢や注意を向ける先をナヴィゲートされ、注意を増幅されながら、外界を見たり聞いたりすることを学んでいく。//……//生後4~5ヶ月頃には目の前の物を見つめ、それに手を伸ばしてつかめるようになる。この時期の乳児はまだこうした手を伸ばすことに特別にコミュニカティブな意味があるとは自覚していないが、周囲の養育者はこれをしばしば意味を持った身ぶりとして知覚する。//
p48
//「対象の共同化」では対象それ自体が自己と他者の間で間主観的なものとしてテーマ化される。対象の共同化がさらに広がることで、共同化された対象が存在する「共同化された対象世界」および同型的な身体を持った「自己」と「他者」という、互いに依存しあった概念として3つの項が成立するようになる。この3つの項をつなぐ道具としてのその社会で分け持たれている「ことば」があらわれてくるのはもうすぐのことである。//
p53
//Povinelli,Bering,and Giambrone(2003)は、霊長類の中では唯一ヒトだけが身ぶりとしての指さしを用いてコミュニケーションを行う種であると論じている。//……//Povinelli ら(2003)は、あるチンパンジーやヒトが指さしを行ったと判断するためには、そのチンパンジーやヒトが、自己や他者は注意、欲求、知識、信念といった心理学的な状態を持つと認識していることが必須だと考える。そして、Povinelli らのグループや他の霊長類学者が精力的に進めてきた実験研究を見渡しても、チンパンジーがこのような認識をしていることを示す確固たる証拠はない。//

明和政子『ヒトの発達の謎を解く』
p41
//チンパンジーは、形態的にはヒトと同じように人差し指を伸ばすのですが、それを行うのは物に触れたり、つついたりする時です。ヒトのように、遠くにある物や出来事を他者と共有するために指さしを行うことはありません。//※としながら、
p41
//ヒトと日常的に接することの多い環境で育ったチンパンジーは、ヒトの指さしに近い意味を含んだ身ぶりや手差しをし始めるのです。手の届かないところにある物が欲しいとき、手腕をそちら側に伸ばして私たちにそれを取るように要求します。この例はおそらく、ヒトの環境がチンパンジーの認知発達に影響を及ぼしている可能性を示しています。//

2023.3.5記す

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