||||| 主体を先導する生命(いのち)|||

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「生きる(生命)」を考える。

 (生きている)ことを自覚するのはいつであろうか。幼児期ではあるまい。学齢に達してもしばらくかかるのではと思う。何を自覚するのであろうか。意識が自己に向かう、ということであろう。そこに生を発見するのである。(生後2か月頃以降に見られる”主体的意思表示”は別の議論とする)
 這い這いから立ち上がり歩く。歩き始めは「つまずく」ものだ。なぜ、つまずかないよう歩けるようになるのだろう。つまずいても咄嗟に手が出る。体勢を立て直すことができるようになる。少々はやく歩いても、容易に倒れない。意識にはのぼらないが、生きようとしている主体がある。

 手を出したり体勢を立て直したのは脳のはたらきである。乳幼児の行動やこころは脳のはたらきで説明できる。これがこれまでの理解であった。心身二元論の立場をわたしはとらないが、主体仮想センサーで説明することが「主体論」を導くと考えるようになった。母の声を新生児のときに聞きわけられるのも主体仮想センサーのはたらきである。

ベルクソンの弧 ──「いのち」の数理モデル:福岡伸一

福岡伸一『新版 動的平衡』小学館新書 2017年
p297
//秩序あるものは必ず、秩序が乱れる方向に動く。宇宙の大原則、エントロピー増大の法則である。この世界において、最も秩序あるものは生命体だ。生命体にもエントロピー増大の法則が容赦なく襲いかかり、常に、酸化、変性、老廃物が発生する。これを絶え間なく排除しなければ、新しい秩序を作り出すことができない。そのために絶えず、自らを分解しつつ、同時に再構築するという危ういバランスと流れが必要なのだ。これが生きていること、つまり動的平衡である。//

 「いのち」とは何かを問うことに対して、なんという明快で無情な解であろうか。
 『動的平衡』の”本編”木楽舎(2009年)版の後版になる小学館新書では”本編”にはない「第9章 動的平衡を可視化する」が加えられていて、上記の”名文”に巡り会う幸運を得た。

p303
//これを動的平衡と呼ばずしてなんと呼ぶべきだろうか。坂を登り返す、この動的な円弧を、ベルクソンの弧(Bergson’s Arc)と名付け、動的平衡の数理的な概念モデルとしてここに提案したい。//

 丸い物体を傾斜のある面に置けば、転げ落ちる。その「坂」を登る、というのが、わたしたちの”生きる”という行為なのだ。”意思をもって”登るのではなく、生命体としてのからだが登ろう(つまり、生きよう)としている。

 分解(排出)>>合成(生成)。分解が合成を上回ることで坂を登れる。生きる(生きている)というだ。(※胎生期からあかちゃんの場合を想定して「>」を二つ重ねてみた)
 分解>合成。合成に対して分解が遅れると、老廃物がたまる。坂を登ってはいても、歩みはゆっくりとなる。(※二十歳頃、青年期であっても、生体の老化が始まるといわれる。)
 分解<合成。合成に対して分解が追いつかなくなると、坂を登るのが厳しくなる(転げ落ちそうになる)。「エントロピー増大の法則」に従わされることになり、生命の終焉を迎える。

p312
//さらに厳密な数学的記述と、速度の変化に応じた弧の動きに関する記述は、適切な微分方程式を立てればよいと考えられるので、現在鋭意研究中である。ここでは、前述のような「概念図」として、動的平衡の数理モデルを提示しておきたい。


p284
//アンリ・ベルクソンは、著書『創造的進化』(1907)の中で、「生命には物質の下る坂を登ろうとする努力がある」と言った。//
p284
//ネオ・ダーウィニズムの潮流の中では、やはりすでに遠く時代遅れに思えるが、「生命には物質の下る坂を登ろうとする努力がある」という、かの有名な言明自体は今も十分に有効である。この思考は、のちに、ノーベル賞物理学者アーウィン・シュレディンガーに引き継がれた。シュレディンガーは、ベルクソンを直接引用しているわけではないが、その歴史的著作『生命とは何か』(1944年)の中で、エントロピー増大則の坂を、生命がいかにして登りうるか、という問いを中心的な課題として取りあげた。しかし、そこには明確な答えも、モデルも提示されることはなかった。この問いは今もオープン・クエスチョンとして私たちの前にある。//
 本書はここでペンを置いている。福岡伸一はこれに挑戦し続けている。


 坂道を転げ落ちないのは、なぜか。丸い物体の下方が欠けている。そこに秘密がある。欠けていなければ、物体の中心を通る鉛直線上に重心があり、それでは転がり落ちる。欠けた部分が存在することで、向かって左、坂道の上り方向に重心が移る。分解が進むと円環は縮むが、合成が進めば円環は伸びる。分解スピードが合成スピードを上回っているあいだは坂を上り続けられる、生きていられる。
 詳しくは、ぜひ本書をお読みいただきたい。

2024.9.12Rewrite
2023.5.7記す

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