||||| われわれは「動物」である デズモンド・モリス |||

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デズモンド・モリス『裸のサル』文庫版

p292
//われわれはまだ、動物行動の基本的なすべての法則にしたがっているつまらぬ動物である。//
p292
//個体数が今示した値に達するずっと以前に、われわれはわれわれの生物学的性質を支配している法則の大部分を被らざるを得なくなり、そのことはわれわれの優占種としての地位を崩壊に導くのであろう。//

p293
//投げられたコインがいつも表を向くようだったら、私は潮時をみてそれをひっくりかえし、他の面も見たいと思うだろう。//
p293
//不幸なことに、われわれは他の動物に比較してあまりに強力で繁栄しているために、自身のいやしい起源を注視することは何か不快なものをよびおこす。だから私は、この本で自分がしたことに対して、感謝されるとは思っていない。われわれの今までの進歩はまちに立志伝だった。だから、他のにわか成金と同様、自分の出身についてはとても神経質になっている。だがわれわれにはそれをうっかりもらしてしまう危険がつねにある。//

われわれは「動物」であることから逃れられない。

p293
//われわれ生身の動物としての本質はけっしてそれを許さないだろう。//

p292
//これが〔※〕、私がこの本を書いた理由であり、われわれ自身について、もっとふつうに使われている名を用いずに、裸のサルという侮辱的な名をあてた理由である。//
※「これが」は、以下、★を受けている。

デズモンド・モリス 動物行動学者
p295 訳者あとがき
//著者のデズモンド・モリス博士は1928年生まれ//
この本が出版されたとき、1967年。1967年-1928年=彼39歳。

★p291
//17世紀の終わりには、裸のサルの世界個体群はわずか5億であった。今では30億に上昇している。そして、24時間ごとに、さらに15万ずつ増えている(惑星間移民論家も、この数字をみては闘志がにぶるだろう)。もしこの増加率がこのままつづけば──それはありそうにもないが──260年の間に、地表には4千億の裸のサルの騒然とした群が出現するだろう。この数値は全陸地表面を1平方マイル(約2.6平方キロ)あたり、1万1千個の密度でおおうことを意味する。いいかえれば、現在われわれが主要な都市で経験している密度が地球のすべての地域に存在することになる。このことが野生生物に与える結果は明らかである。われわれ自身の種にとってもそれは同じく憂うつなものだ。//
p294
//われわれは何とかして、単なる量的な改良よりむしろ質的な改良をおこなわねばならない。//
※「質的な改良」は、今日課題のSDGsを指し示していると言えるだろう。

 デズモンド・モリスは、幾重にも、「動物」であるわれわれは動物の生物学的現象から逃れられないと、警鐘する。
★p292
//過去において、多くの魅力的な種が絶滅していった。われわれも例外ではない。遅かれ早かれ、われわれも絶滅し、何か他のものに道をゆずる。もし、それがかなり遅れてやってくれば、われわれは自分自身を生物学的な対象として、それだけ長く、きびしく見ざるを得ず、われわれの限界についてある理解を得るだろう。//

 ドキドキさせる。渾身の筆だ。「裸のサル」つまり「動物学的人間像」の各所では眉をひそめられるかもしれない豪腕で、
p292
//私は自分の説を主張しすぎたかもしれない。他にも引用すべき多くの立派な説や業績がある。それらを除外したことによって、私は当然一方的な描写をした。//
※と、率直に認めている。
 この本はp294で終える。動物行動学者としてひくことのできない言及で結んだ。

2023.8.3記す

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