松井るり子『七歳までは夢の中』学陽書房 1994年
副題:親だからできる幼児期のシュタイナー教育
p20
//そんなわけで、『シュタイナー幼児教育手帖』を書き込みしながら熟読し、なるべく子どもを目覚めさせすぎないように、夢の中にいるような状態のままで守ろうと決めた。
できるだけ自然の物を着せたり食べさせたりする。テレビをやめ、七歳までは字を教えないことにし、習いごとをさせなくちゃと焦ることもやめた。//
p22
//「シュタイナー教育」と聞くと、そこにシュタイナーによる特殊な発明事項があるように思えてしまうが、そうではない。「子どもを細かく深く観察したら、こうなりませんか」と私たちに気付かせ、そのときどきに我々でなく、子ども自身が最も必要としていることをしましょうという考え方の集大成が、シュタイナー教育である。//
p27
//通える範囲にシュタイナー学校があればと探していたところ、渡米3週後に、隣町のロス・アルトス市に、幼稚園から8年生までのシュタイナー学校のあることがわかった。
「ウォルドルフ・スクール・オブ・ザ・ペニンシュラ」というその学校は、見学してみると小規模ながらも素敵な学校だった。//
p27
//幼稚園は、4歳半から6歳までの子どもを混ぜて作った、定員14人の縦割りクラスが3つあり、「ローズ」「ラベンダー」「サンフラワー」と花の名前がついていた。//
※縦割りクラス(異年齢クラス)とはいえ、3,4,5歳の縦割りと、4歳半~6歳の縦割り、これは意味が違うのではないか? 5歳は「3,4歳」に近いのでなく、「6,7歳」に近いとわたしはかねがね考えている。したがって、「4歳半~6歳」の縦割りなら合点がゆく。
p28
//面接の時一番問題になるのは、テレビのことだという。ウォルドルフ幼稚園では、番組の質ではなく、テレビそのものが子どもに害があるとして避けられる。幼稚園では、日曜の夜から金曜の夕方までは、テレビを見ないよう指導されていた。それが難しい場合は入園を断るか、遅らせるかしているそうだ。
宏樹はその点では問題なく、すぐ入園が許可されて、担任の先生も決まった。//
p63
//幼い子どもにものの善悪を教えるのに、言葉を使って頭に訴えかけるのではなく、模倣されてもいいように、まわりの大人が態度で示さなければいけない、というのはシュタイナーの幼児教育で一番のポイントであろう。//
p78
//子どもの頃にはしょっちゅう停電があって、ろうそくの光でご飯を食べたり、お風呂に入ったりできるのがうれしかった。光より、影が面白かった。小学校に入る前までは、薪を燃やしてお風呂を沸かし、外から「湯加減どうお?」と尋ねたことを、うっすらと覚えている。じきに、プロパンガスに変わってしまった。
毎年末の餅つきのときは、かまどを仕立ててもち米を蒸(ふか)した。ごみは毎週家で燃やし、特に紙箱焼きが面白かった。蚊取線香も焚いた。そんな昔ではないのに、結構火遊びを楽しんだものだと思う。うちの子は花火ぐらいしか知らなくて、ちょっとかわいそうだ。
幼稚園では、現代では少なくなった火の体験を大切にし、11時に軽食をとるとき、テーブルの用意ができると、花の隣に置かれたろうそくに、マッチで火をつけて歌を歌う。
ろうそくが 輝いた
明るくていいね
ほのおが 大きくなっていく
なんていい眺め
食事の間、ろうそくはずっと灯っている。季節のテーブルの脇には、お話専用のろうそくが置いてあって、昔話の世界を照らし出す。毎日二度ずつ火が灯るわけだ。ろうそくを灯すというひとは、炎が見える程度の薄闇を作ることでもある。
誕生について、シュタイナーは「人間は霊的、心魂的な世界から出て、地上の身体をまとう」と言う。子どもの心に宿る星の輝きを、できるだけ長く灯しておくために、強い刺激で揺さぶり起こして大人の世界に早々とひきずりこむことのないようにする。そのため乳児には鏡も見せず、幼児は静かなほの暗い場所に置く。保育室の中はあまり明るくしないで、桃色のカーテンを通して柔らかい光を入れる。薄暗い日は電気をつけるが、間接照明になっている。//
※松井るり子……1957年生まれ。
p116
//しずしずと火を運ぶ子どもたちの手で、光の渦巻きがつながって行くのを見ていると、闇の力が最高になったまさにその時に、光との力関係が逆に傾き始める冬至の神秘を、目のあたりにした気がした。
その夜カメラを向けた夫は「これはパフォーマンスではありません。子どもの心の中で起こることを、目に見える形で表現しただけです」と撮影を止められた。「そんな気はしたんだけど、一回限りと思うとついね。ジョイスはその気持ちもわかるって言ってくれた。」//
※ジョイス……担任の名。
p133
//袋の中から12個取り出して、布の上で分け方を考えるのだが、二人で分ける、三人で分ける、四人で分けるのみならず、「五人で分けたら二個ずつで二個余る」「七人で分けたら一個ずつで五個余る」などという話にまで進んでいた。
さらには十個の石をどう分けたら「一番美しいか」を考えることになり、「二と二と二と二と二」、あるいは「五と五」でもいいが、「一と二と三と四」に分けたらもっと美しいということになり、私は見とれた。//
※一年生の算数の時間。
2023.11.16記す