|||||「見る」ということ:ブリコラージュ |||

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ブリコラージュについて

クロード・レヴィ=ストロース『野生の思考』みすず書房 1976年
p22
//原始的科学というより「第一」科学と名づけたい//
p22
//それはフランス語でふつう「ブリコラージュ」bricolage(器用仕事)と呼ばれる仕事である。//
p22
//〔略〕というように、いずれも非本来的な偶発運動を指した。今日でもやはり、ブリコルール bricoleur(器用人)とは、くろうととはちがって、ありあわせの道具材料を用いて自分の手でものを作る人のことをいう。ところで、神話的思考の本性は、雑多な要素からなり、かつたくさんあるとはいってもやはり限度のある材料を用いて自分の考えを表現することである。何をする場合であっても、神話的思考はこの材料を使わなければならない。手もとには他に何もないのだから。したがって神話的思考とは、いわば一種の知的な器用仕事(ブリコラージュ)である。これで両者の関係が説明できる。//
※両者……ものをつくる人(器用仕事)×神話的思考(知的な器用仕事)
p22
//精密科学自然科学より一万年も前に確立したその成果は、依然としていまのわれわれの文明の基層をなしているのである。//

レヴィ=ストロース『野生の思考』NHKテキスト100分de名著(2016年12月)中沢新一
p79
//未開社会の人々の思考は、西欧世界で発達した思考に比べるといまだ未発達の段階にあり、ものごとを分別(弁別)してきちんとした論理によって順序だてて思考するのではなく、とても論理的とは言えない融即にしたがってものごとの階層や順序をごちゃまぜにして、まるで無分別な思考をするという考えが、いかに実態とかけ離れた、偏見にみちたものであるかを、『野生の思考』はあきらかにしました。
 人類の思考は、最初から完成されていました。人類が人類となったそのときにつくられた脳の構造を、私たち現代人もいまだに使って思考しているのです。コンピュータはそういう人類の脳によってつくられたものですから、このコンピュータという思考機械も基本設計は「野生の思考」をおこなう脳と少しも変わらないのです。
 こうなると、ますますあの「ブリコラージュ」という考え方の重要さが、大きく見えてきます。なぜなら地球上に発生した生命の中に知性が生まれ、それはついには人類の知性にまで発達してきましたが、その進化の過程はすべて地球の内部でおこったもので、外からなにかがやってきたおかげではないからです。生命は自分の手持ちの材料とプログラムだけを用いて、それらの組み合わせを新しくつくりかえることだけによって、進化をなしとげてきました。つまり、生命進化も知性の進化も、すべては「ブリコラージュ」によっているわけです。//

「見る」ということ

 この地球上には、今なお一万年前の新石器時代を彷彿とさせる野生の人たちがいる。その現地人に対して、レヴィ=ストロースの若き日、文化人類学の手法で彼らの生活実態を調査した。
レヴィ=ストロース『野生の思考』みすず書房 1976年
p54
//「一般的にグワラニ族の命名法はよくできた体系をなしており、ちょっと色をつけて言うなら、われわれの科学的命名法とある種の類似性があると言ってよい。この未開インディアンたちは、自然物の命名をでたらめには行わず、部族の集会を開いて、それぞれの種の性質にもっともよく適った名称を決めていた。その区分、下位区分の立てかたは、きわめて正確であった。……ある土地に住む動物の現地名を書きとどめることは、単に敬意と誠意の行為であるのみならず、科学的義務でもある。」(Dennler, pp. 234, 244.)//
p262
//私にとって「野生の思考」とは、野蛮人の思考でもなければ未開人類もしくは原始人類の思考でもない。効率を昂めるために栽培種化されたり家畜化された思考とは異なる、野生状態の思考である。//

 本のタイトル「野生の思考」は蔑視される思考方法ではないとしている。一万年前の思考は現在と比べて劣らない。効率優先の現代人とも異なる「野生状態の思考」と言っている。そして、それは非科学的ではなく、科学的根拠を多く取材している。人から人への伝達手段は効率としてはよくなかっただろう。彼らが行った手法は「見る」ということだった。

 見て、真似た。カタチを見て、カタチを真似た。それらの意味を問うことはなく、見て・真似ることで、やがて結果として「イミ(意味)」を得ることになる。得た意味から改良を加え、さらなるカタチにする。そのカタチを、誰かが見て、真似た。レヴィ=ストロースは、この動作や働きに対して、ブリコラージュ(器用仕事)の名称を当てている。

「見て」真似る(学ぶ)は、乳幼児の得意技である。

・「見る」を、乳幼児の特性として矮小化してはならない。
・人類一万年の系譜を引き継いできた知性の証しが「見る」である。

レヴィ=ストロース『野生の思考』を読む


人間は「視覚」を優先

『山極寿一×鎌田浩毅 ゴリラと学ぶ』ミネルヴァ書房 2018年
p191
//〔鎌田浩毅〕ぼくがいちばん関心があるのは、先生の霊長類学から見て、「人間の特殊性」って何なのかってことなんです。
〔山極寿一〕人間の特殊性というのはね、人間は視覚的な動物だということですよ。これは爬虫類でもない、両生類でもない、やっぱりサルだということですね。人間の五感というのはいまだにサルの域を出ていないとぼくは思っています。それは類人猿でもそうで、サルの域を出ていないというのは、つまりサルは夜行性から昼行性に変わったわけですが、そのときに、社会、世界を認知する新しい仕組みを手に入れたわけです。要するに嗅覚を減退させて視覚を発達させた。人間のもっている五感のうちで、いちばん信用するのは視覚なんです。次が聴覚で、嗅覚、味覚、触覚なんです。//
視覚>聴覚>嗅覚>味覚>触覚の順。信頼関係は、この逆で、最優先が触覚。



明和政子『心が芽ばえるとき』NTT出版 2006年
p41
//ファンツは、➀ヒトを含む霊長類はすべて生まれつき複雑な刺激を好む特性を持っている、②この特性は生後の見る経験の影響を受けない、ただし、③三次元刺激への好みの出現には生後の視覚経験が深く関与する、この三点を明らかにした。
 私たちが日常的に感じる奥行き感は、生後の視覚経験がなければ成立しないものらしい。//……//ヒトを含む霊長類は、遅い早いという程度の差こそあれ、基本的には共通したプロセスを辿りつつ、生後置かれた環境との相互作用において見る力を育んでいくらしい。//

明和政子『心が芽ばえるとき』NTT出版 2006年
p45
//ヒトは生まれてすぐに他者の顔に対して特別な注意を向ける特性を持つことが示された。ファンツによる発見は、当時支配的だった「白紙状態(タブラ・ラサ)」という赤ちゃんのイメージをくつがえすほど大きなインパクトを与えた。
 この研究以後、M・H・ジョンソンらによって、より統制のとれた実験がなされた。ジョンソンらは、図1-7〔上図〕に示す4つの刺激を生後間もないヒトの赤ちゃんに見せ、それらのうちどの刺激をもっとも好んで見るか調べた。
 ひとつめは、ヒトの顔をリアルに描いた顔図形。二つ目は、目・鼻・口をぼやけたイメージとして、それぞれの位置に際立つ点を配置した図形、三つ目は、それを倒立させた刺激、そして四つめは、目・鼻・口をでたらめに配置した図形だった。すると、生まれて数日しかたっていない赤ちゃんは、実際の顔を描いた図形とともに、目・鼻・口の位置に点を描いた「顔らしい」図形を、他の二つの図形、「顔らしくない」刺激よりも好んで注視した。//
p46
//ここで注目したいのは、この段階で赤ちゃんが注意を向けるのは、本物の顔でなくてもよい点にある。生後間もなくは、顔らしい刺激かどうかをとりあえず区別できさえすれば十分で、種に固有の顔の特性を詳細なかたちで学習するのは、これから日常的に頻繁に目にする経験によればいい、というわけだ。たしかに、そうしたゆっくりとした学習過程のほうが、はじめから顔認識のための鋳型が決まっているよりも、それぞれの個体が置かれる生存環境に柔軟に適応していくには都合がいいだろう。//
p47
//これまで見てきたように、霊長類の赤ちゃんが、生後の経験だけから他者についての知識を得たとは思えない。ヒトの新生児が、外界の無数の情報から他者の顔らしい刺激を選びとっていることでいえば、赤ちゃんが顔の持つ特徴を生後の経験から学習したうえで他者の顔に特別の注意を向けているとは考えにくい。バイオロジカル・モーション〔p46,47 運動パターン〕についても、歩行というヒトの生物的運動様式を獲得する以前からその能力を開花させているのだから、自分の身体経験にもとづいて他者の動きの特性を理解するとは考えられない。//
p48
下より→♥//赤ちゃんは、「自己推進性」と「目的指向性」の両方を持ちあわせた刺激を「心を持つ存在」、つまり他者として捉えるのだという。//
※p48//プレマックらは、モノにはない、自分で動くという性質を「自己推進性(self-propelled)」と名づけた。さらに彼らは、赤ちゃんはでたらめな動きとそうでない動き、つまり、ある目標に向かった動きとそうでない動きとを区別することも指摘している。目標に向かって動き、さらに目標にあわせて動きを修正する性質を「目的指向性(goal-directed)」と呼ぶ。//♥→上へ

動くものに心を感じる動画(目的指向性)

(参考)「心を読む」ための4つのシステム:バロン=コーエン

2024.8.30記す

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