足し算で始まる子育て

 保育実習前、学生は準備に忙しいが、気持ちも張ってくる。保育室には20~30人の子どもがいる。「お客さん好き」な子どもたちは、保育室に入ったとたん「なにしにきたん」と声が飛び交う。子どもたちが取り巻く。
 じつは、みんなが寄ってくるのではない。
 幼児であっても、彼らは時間を無駄にしない。遊びに夢中になっている子は寄ってこない。せいぜい首を向けて(だれかかきた)と思う程度だ。なつきにくい子も来ない。寄ってくるのは、まあ、半分。例えば寄ってきた10人のうち、誰かが必ず手をさわりにくる。膝に乗ってくる。手は2つ。ひざも2つ。定員4人で満員。手をつないだ子、ひざに乗っている子、この子らは、みなくてよい。だから10-4=6をみればよい。引き算なのだ。
 20人いるクラスでも、10人は遊びをやめず、寄ってきた子のうち4人は預り済みだから観察したい子は6人になる。このことを保育実習のあいだに気づけば合格だ。
 さらに上等なことを言えば、遊びをやめてまで”おきゃくさん”に寄ってくる子は、遊びが十分でなかったと推察できる。これをヒントに、子どもとふれあうなかで、保育者として今すべきことは何かと思いが馳せればさらに合格だ。が、初心者に望むのは無理だろう。観察すべき子をみつけるのは引き算なのだ。

 親に引き算を求めるのは、むずかしい。(うちは放ったらかしよ)と言いながらも、気持ちは足し算だ。引き算を誇れる親は少ないし、引き算がよいと勧めるのではない。保育園に子どもを迎えに行き、そのとき、子どもは、親の足し算を期待している。保育士が所詮 親になれないのは、こういうことだ。私の考えでは、小学3年生になったら、親は引き算の練習を始めて欲しい。それまでは、足し算だけでよい。
 出産でわが子を抱いたとき、出会ったとき、足し算以外あり得ない。足し算で始まる子育て。何をしてやっても足りない思いがつきまとう。子育ては足し算だから。
 蛇足だが、抱き癖というのがある。これは、引き算思考だ。気にしない、気にしない。抱き癖、けっこう。子どもは足し算を求めている。
 かわいい子には旅をさせよ、の成句がある。まさに「旅」が引き算を表している。

 ところで、子育てが足し算であるのなら、保育も足し算が正解でないか。引き算で観察すべき子をみつけてからは、足し算ではないか。
 ── 否、保育士ひとりあたりの受け持ち人数が多すぎるからではないか。保育士1人が受け持つ子どもが1人であれば、足し算でよいではないか。5歳児であっても、子ども5人に保育士が1人だったら、これも足し算でよいだろう。

2022.8.10Rewrite
2019.5.13記す

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