||||| 川合伸幸『心の輪郭』読書メモ |||

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川合伸幸『心の輪郭』
:比較認知科学から見た知性の進化
+ 北大路書房 2006年

p2
//先に結論をいってしまうと、ヒトを含めた多くの動物の「知的」だと考えられる行動は、はじめから複雑な行動が設計されていたわけではない。進化の過程において、多くの動物が共有している単純で普遍的な基本的ルールに、ちょうどトッピングのようにいくつかの別の機能(モジュール)が付け加わって、そのような機能が実現されるようになったのではないかと考えられる。//

p4
//かつては、ヒトの心の研究は、哲学や心理学の領域だった。//

p10
//ヒトを頂点とするゴールを目指して知性が進化してきたわけではない。//

p16
//このように遺伝的にプログラムされている、あるいは生得的にもっている(生まれつき、または成長のある段階になると自然にできるようになる)行動パターンをここでは「生物学的知性」と呼ぶことにする。//

p29
//これまでに見てきた生得的な知性に対して、みずからの経験に基づいて行動を変化させる能力を「心理的知性」と位置づけることができる。代表的なものが「学習」である。//

p33
//生得的機構に由来する「知識」はそれ以上増やすことはできないが、「学習」は知識を無限に増やすことができる。ヒトの生後の経験が重視されるのはこのためである。//

p58
//これまでに学習〔条件づけ/連合学習〕することが確認されている最も原始的な生物は、中枢神経系を備えたセンチュウ(線形動物門)である。センチュウは、触覚、味覚、嗅覚、温度感覚など、哺乳類が備えている感覚すべてをもっている。そして、それぞれの感覚に対応した感覚ニューロンが存在し、そこで受容した信号は、中枢神経系である介在ニューロンで統合される。しかし、センチュウの神経細胞は全部で302個しかなく、身体全体でも細胞の数はわずか959個にすぎない。今では、すべての神経細胞の位置と神経細胞間のシナプス結合が解明されている。1998年には全遺伝子配列が解明され、その時の米科学誌サイエンスの特集号で、主役であるセンチュウの写真が表紙を飾った。
 エサである大腸菌を食塩溶液と一緒に与えれば、センチュウは食塩溶液がエサの信号であることを学習する。その証拠は、この経験の後にはセンチュウが食塩溶液の場所に長く滞在するようになることから示される。また、センチュウは酢酸溶液を嫌うが、その溶液の信号となるように、あるにおいと酢酸溶液を一緒に与えれば、そのにおいから逃げるようになる。つまり、センチュウは食物を求めるための学習と、嫌なものから逃げる学習の両方を示すのである。また、特定の温度と、エサがどの程度豊富であるかということの学習もする。現在では遺伝子レベルの研究が進められている。//
p59
//遺伝子や神経細胞レベルでの学習メカニズムを探るには、センチュウは有望な実験モデル動物であるが、移動以外の複雑な行動をしないし、身体が小さすぎて(まつげほどの大きさもない)、神経細胞の活動を記録するのが難しい。//

p62
//アメフラシのような生物でも、ヒトと同じように条件づけ(学習)が可能だという事実は重要である。なぜなら、脊椎動物と軟体動物の中枢神経系は、まったく別々に進化したので、神経系の構造などは大きく異なっている。そのことは、条件づけや学習を成立させるために、特定の神経機構が必要とされるわけではないことを意味している。アメフラシとヒトの共通の祖先は、5億4000万年以上も昔に存在した、現在のブラナリアに似た神経機構や行動を備えた生物だったようだ。したがって、その頃までに生物が学習する能力を獲得し、その後に現れた多くの動物に共有されるようになったと考えられる。//

p63
//神経系をもつ最も原始的な生物(刺胞動物)であるヒドラやイソギンチャクと、他の動物の神経細胞そのものの機能や形態は非常によく対応している。したがって、神経細胞のいくつかの基本的な性質は、動物の系統発生の非常に初期の段階で確立したと考えられる。//
p63
//カンデルらは、そのサイクリックアデニル酸〔cAMP 遺伝子〕がバクテリアにも存在しており、それが最古のセカンドメッセンジャ・システム〔二次的に産出される神経伝達物質〕ではないかとみている。だとすれば、それが生物の知識獲得において重要な役割を果たすようになったのは、動物の系統発生の極めて初期のことだったと考えられる。//

p64
//1970年代半ばまでは、新生児は何もできない、かよわい存在と考えられてきた。しかし、最近の研究によって、ヒトの子どもは生まれた時から、ある程度の認知能力を備えていることがわかってきた。//
退けられる「白紙状態理論」

幼児期健忘

p68
//3か月児であっても1週間しかおぼえていない。//
※チンパンジーの「胎児」は、学習したことを3か月もおぼえていた、ことと比較して……。p68
p71
//幼児期健忘が生じる原因は、幼児期の神経ネットワークが、未発達であるために学習や記憶が弱かったからではなく、後に発達したネットワークに飲み込まれてしまったからだと考えられている。//
p74
//脳がいつまでに発達を終えるかが幼児期健忘と関係していると考えられる。//

p75
//弟子が師匠のやっていることを見てみずから学ぶ徒弟制のように、動物は、子どもの時に親や集団内の大人から「学ぶ」ことはあっても、大人が子どもに教えることはない。//


図のABは左表記のリンク先を参照

p78
//このような刺激の選択性「注意」という。学習という情報の獲得過程に、いわば不必要な情報を取り除く「フィルター」が加わったのである。//

p81
//無駄な刺激を積極的に無視し、その刺激には重要な事象のイメージを与えないようにする。このように、選択的にフィルターをかけることを「潜在制止」と呼ぶ。その潜在制止は、脊椎動物の中でも脳に皮質が形成されるようになった鳥類や哺乳類にしか観察されない。魚類や両生類では、いまだにこの現象は確認されていない。//

p85
//このような注意のメカニズムは、現生哺乳類と鳥類の祖先で進化したために、それ以前に出現した魚類や両生類では利用できないと考えられる。では哺乳類と鳥類の共通の祖先である爬虫類ではどうなのか? とても興味深いが、今のところそのことを調べた研究はない。//
爬虫類ではなく、両生類から哺乳類は現れた(右図)
p96
//脳の新皮質を取り除いた除皮質ラットはサカナ型になるので、これらの差異は新皮質の有無に対応しているのかもしれない。皮質は両生類以下にはなく、爬虫類では原始的な形で出現し、哺乳類になってようやく新皮質が完全に出現する。//
p103 新皮質の発生
//哺乳類は、この旧皮質(海馬・歯状回)と古皮質(梨状回)の中間に新しい神経細胞集団を形成させ、新皮質を作り出した。//
p97
//サカナと比べて、哺乳類の学習には、注意や(がっかりする)情動という他の機能単位(モジュール)が加わっていることがわかると、哺乳類の中でもさらに種間で違いが見られるのではないか、と考えたくなる。つまり、ヒトを頂点とした霊長類にイヌやウマ、イルカなどの「賢い」といわれる哺乳類が続き、その下に爬虫類、両生類、魚類と段階的に続くのではないか……。このような仮定がいわゆる「自然の階梯」である。//
p111
//「自然の階梯」の誘惑はいつまでもつきまとうが、ここでもそれは否定されるべきだろう。ある霊長類の種の分類群(たとえば、原猿)が、他の霊長類の種の分類群(旧世界ザル)よりも知的であるということでなく、それぞれの分類群がとる行動方略が異なっていると考えるべきである。//

p89
//ネズミもキンギョも、ともに何かをすればエサがもらえるということを学習するが、さらに一歩進んで、哺乳類は手がかりとする刺激間に共通性を見つけ、みずからの記憶に基づく手がかりも利用し、重要な情報に関するはっきりとしたイメージをもつ。このような明瞭なイメージの世界が、哺乳類や鳥類と魚類や両生類を分けるものかもしれない。そのようなイメージの世界こそが、私たちが考える「心」の起源なのかもしれない。//

p91
//ニホンザルの研究から、このような報酬の量を符号化するニューロンが、前頭前野の外側部にあることがわかっている。//

p94
//おもしろいのは、ひとたび見分けられるようになると、二度と同じように見えないことだ。テレビなどで見るチンパンジーも「初めて見た知らない顔」にしか見えない。しかし、違う種には般化しないらしく、まだサルの顔はわからない。思わぬところでサルとチンパンジーの違いを思い知らされる。//
※研究者(著者)の思いを語っている。チンパンジーならば個々に顔を識別できる。だから、テレビなどで見た顔は”別人”に見える、ということだ。しかし、サルは区別がつかない。

p104
//スネル〔オラフ・スネル〕の計算によれば、鳥類の中で最大の脳のサイズをもつのはカラスである。//

p105
//これらのことから、群れサイズと行動圏の大きさは、霊長類に異なる行動能力の必要性(群れサイズとは社会関係を、行動圏の大きさでは空間認知)をもたらしたと考えられる。//

p105
//余剰皮質ニューロンが多いほど学習セットの形成が早い。//

p106
//「知性」が一元的に測れるものであるかのような印象を与える。そもそも知性は、いくつかの認知機能の総体であり、単一のものではないし、またヒトを頂点として直線的に進化してきたわけでもない。//

p113
//これらのことが示しているのは、霊長類の中でも分類群によって学習方略が異なる、ということである。//

p115 //いまだに進化論を信じたくない人たち//
//米国のある町の教育委員会が、高校の生物学で進化論の前に「進化の過程は設計されたもの」であることを教えると決定した。笑いごとではなく、裁判ごとである。教育委員会は、ダーウィンの「進化論」と「理知的な創造者」の溝を埋める本を読むようにと指導したが、生徒の親たちは教育と芸術の独立性が保たれていないと訴訟を起こした。
 その本というのが、「理知的な設計」(インテリジェント・デザイン)に関するもので、理知的な創造者が進化の過程そのものを設計したという内容である。その考えによれば、ダーウィンが提唱した「自然選択」は、適者生存に基づくものなので方向性がない。それなのにこのような複雑でかつ知的な生命体が存在するのは、偶然の結果とは考えられない。したがって進化の過程そのものが「理知的な設計」によるもので、現在まで続く進化は、最初からこうなるべく設計されていた、というのである。//

p123
//記憶は、ヒトや動物のあらゆる認知活動の基盤である。//

p123
//ヒトでは7プラスマイナス2項目といわれ、「マジカルナンバー7」として知られている。//

p129
//数字を1つだけ飛ばしてしまうという「スキップエラー」だった。//
※わたしも、この失敗をよくする。

p138
//ヒトは4歳ですでに一括処理をしていることを示している。//
p139
//系列的な処理を行う際の短縮化が行われるのは、6歳頃からだと考えられる。//

p140
//このような意味的なひとまとまりの項目を「チャンク」(統合化)という。//
p141
//ヒトは音素や文字を階層的に統合しなければ、文や会話を理解できない。このように情報をいくつかの単位に統合する能力は、言語の理解と密接にかかわっている。今のところ、ヒト以外の動物で「チャンク」の証拠が見られないことは興味深い。
 言語学者のノーム・チョムスキーは、真の意味で言語を有しているのはヒトだけであり、それは生得的に獲得されていると主張した。チョムスキーの重視する統語規則は、階層的な構造をしている。//

p143
〔「誤信念課題」について〕//大人が一度聞いても理解しにくいこのテスト//

p146
//発達心理学の大家であったジャン・ピアジェによれば、子どもは7歳頃にならなければこの推論ができない(後の実験で、約4歳で解けることがわかった)。//

p154
//ヒトは、イメージを際限なく積み上げていくことが可能である。その最たるものが「想像」だといえるかもしれない。//

p155
//ヒトにとっても、最も複雑でわかりにくく、かつ理解する必要があるのは、他者の行動や心の状態である。//

p159
//19世紀半ばに、ダーウィンはヒトとヒト以外の動物の連続性を示唆した。しかし、それは生物としての連続性を主張したもので、精神の連続性は示唆されるにとどまった。精神の連続性は、類人猿の心を調べる研究によって裏づけられてきたと考えることができる。//

2025.12.15記す

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