||||| 細胞「壁」大活躍 |||

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 1960年代、新語「公害」が登場した頃、これに触発されてかどうかはわからないが、「環境」への関心が高まった。公害は環境への関心を呼び覚まし「エコロジー」という聞き慣れない専門語が話題になった。今日では「SDGs」(エスディージーズ)にまで発展している。
 教養として私も学んだ。植物学の世界は植物分類の方法として「植物形態学」が優位にあったが、世論としてエコロジーへの関心が高まるにつれ「生態」という用語がマスコミ紙面に表れた。当時、宮脇昭『植物と人間』(NHKブックス 1970年)を読んでずいぶんと啓発された。出版社の本書紹介文は
//自然の緑を破壊すれば人間自身の破滅に結がる。植物の本来のあり方を科学的に説き、植物と人間との正常な関わりにこそ人類生存の基盤があることを確認する。植物疎外の現代に植物生態学からの警鐘を鳴らす。// とある。
 牧野富太郎の名はよく知られ「形態学」の権威だった。「権威」は、その世界で他の研究者の発言力を相対的に弱めてしまうが、世論の後押しで「生態学=エコロジー」が環境問題を解決する指南役をするようになった。私の自然への関心も生態的な視野だった。
 環境に関心を持ち始めて爾来50年。ところが、……。形態学が「いのち」の謎解きになることを、解剖学(発生学)三木成夫の著書※に出会って知らされることになった。
 ※『海・呼吸・古代形象』(うぶすな書院 1992年)など

 中学生だったか高校生のときだったか、植物に「細胞」(「さいぼうへき」と読む)はあるが、動物にはそれがない(細胞はある)と習った覚えがある。植物と動物の差異を、知識として学んでおくことが求められたから。

 植物は地上に根を下ろし天に向かって生長する。縦に伸びるため細胞壁が強靱になる。細胞壁は強靱さのかなめだった。だから、大木になるし千年も生きることができる(木質化への遷移についてもう少し勉強が必要)。これを高校生のときに学んでいたら、「いのち」への向き合い方は違っていたかもしれない。三木成夫はこのように植物の生長を説き、動物は細胞壁を持たないから水平方向に成長するという。動物(人間)は細胞壁を持たないので成長に限界が生じる。この縦と横のいのちについては稿を改めて考えたい。
 身近なことでいえば、食物繊維に該当する。食物繊維といえば、海藻やキノコに多く含まれる。細胞壁は海藻や菌類にもあるという。キノコは菌糸でできているようなものだ。でも、巨木をイメージしたときは、だいぶイメージが違う。勝手に想像するが、栄養のまわりかたが違うのだろうと思う。ネットで調べたら、《細胞壁のはなし》をみつけた。このページの主宰者《東邦大学理学部生物学科 分子発生生物学研究室 (川田 健文)》に //動物的な現象と植物的な現象の両方について研究しています。//とある。
 動物と植物は別々に進化したと思い込んでいた。細胞壁に気づかされた三木成夫の論考タイトルは「動物的および植物的」で、わたしたち人間の体内に植物の痕跡があるという。

 ススキに群がるスズメ。スズメの重さだけススキがたわむ。夕陽に映えるススキの美しさは細胞壁が支えているのだ!と気づいた。スズメの重みに耐え、スズメが戯れられるのも細胞壁が役立っている。すごいなあと感心してしまった。

2022.11.18記す

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