DMN……デフォルトモード・ネットワーク
まず、真っ先に記しておこう。
福岡伸一『動的平衡』p60
//このことから、私たちは重要な箴言を引き出すことができる。「直感に頼るな」ということである。//
同上 p59
//私たちが今、この目で見ている世界はありのままの自然ではなく、加工され、デフォルメしているのは脳の特殊な操作である。
実は、これはなにも視覚だけに限ったことではない。私たちは、本当は無関係なことがらの多くに因果関係を付与しがちである。なぜだろうか。
ことさら差異を強調し、わざと不足を補って観察することが、あるいは、ランダムに推移する自然現象を無理にでも関係付けることが、長い進化の途上、生き残るうえで有利だったからだ。世界を図式化し、単純化できるから。
しかし、これはヒトがヒトたりえて間もない頃、生存自体が唯一最大の目的だった時の話。今や、私たちの目的は、生存そのものではなく、生存の意味を見つけることに変わった。ところが、かつて私たちが身につけた知覚と思考の癖はしっかりと残っている。//
同上 p50
//「勘のよさ」、これが逆にマイナスに作用することがありえる。パターン化は、自然のもつ複雑な精巧さや微妙なズレなどを消し去ってしまうこともあるからである。//
整理
DMN(Default Mode Network)デフォルトモード・ネットワーク について
1: 書籍版:NHKスペシャル『人体~神秘と巨大ネットワーク~』第3巻
2: 毛内拡『面白くて眠れなくなる脳科学』
3: マシュー・リーバーマン『21世紀の脳科学』
最下段 4: 橘玲『スピリチュアルズ 「わたし」の謎』
(3)のマシュー・リーバーマン『21世紀の脳科学』は、「デフォルト・ネットワーク」と表記し「エグゼクティブ・ネットワーク」の記載はない。ただし、「社会的思考」を「デフォルト・ネットワーク」とする一方で「非社会的思考」と記述はあるが、これを「エグゼクティブ・ネットワーク」と表記していない。
(2)の毛内拡『面白くて眠れなくなる脳科学』は、「デフォルトモード・ネットワーク」「エグゼクティブ・ネットワーク」に加えて、この両者を切り換える”装置”として「サリエンス・ネットワーク」のモードが記述されている。
「デフォルトモード・ネットワーク」については、表記に違いがあるものの内容は3点で共通すると思われる。
新 明解 | 推理によらず・直覚的(瞬間的)に物事の本質をとらえること。直接に知り、また、判断すること。 | 推理・経験によらず、感覚的に物事の真相をとらえること。 |
三国 | 〔論理的な考えに対し〕目や耳などを通して、直接に感じとる〈こと/はたらき〉。 | きっと そうにちがいないと、急に頭に ひらめくこと。ぴんとくること。 |
新潮 国語 | ①判断や推理などの思惟作用を加えず、対象を直接に把握すること。また、その作用。 ②実物・図表によるなど、感覚を通じて外界事物を具体的に知覚すること。 | 説明や証明によらず、物事を直接に感じ知ること。 |
広 辞苑 | 一般に、判断・推理などの思惟作用を加えることなく、対象を直接に把握する作用。 | 説明や証明を経ないで、物ごとの真相を心で ただちに感じ取ること。すぐさまの感じ。 |
毛内拡『面白くて眠れなくなる脳科学』p70
//女の勘とか刑事の勘というような、言葉では表現できないようなひらめきのことを「直感」と呼び、インスピレーションを受けたり、集められた証拠から論理立てて発想したりすることにより、点と点がつながって得られるひらめきを「直観」と呼んで区別しています。
心理学者のジョイ・ギルフォードは、前者の突拍子もない自由な発想をする脳の働きのことを「拡散的思考」と定義し、後者の論理的思考により最適解を導き出すような思考を「収束的思考」と定義しました。
私の経験上、クリエイティビティや創造力というものは、単に拡散的思考によって天から降ってくるものでなく、収束的思考によって体系的な知識や経験から極めて理論的に得られるものの両方があると思います。//
直観:集中している:収束的思考:セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク
直感:何も考えない:拡散的思考:デフォルトモード・ネットワーク
直観/直感 2つのモード切り換えを行う役割:サリエンス・ネットワーク
「直観/直感」の使い分けについて、ページトップ福岡伸一において必ずしも区別して使用しているように思えない。読みの音が同じであることから、会話においても混同や混乱は頻繁に生じると思われる。毛内拡のように区別して論理展開の必要があるとしても、使い分けは紛らわしさが常に伴うであろう。
毛内拡『面白くて眠れなくなる脳科学』
p71
//集中してタスクを行なう際にそれを実行しているのは、セントラル・エグゼクティブ・ネットワークと呼ばれる一連の脳領域です。//……//ワーキングメモリを使ってものごとを実行している状態です。//
p73
//うつ病の患者では、セントラル・エグゼクティブ・ネットワークの活動が低く、逆にデフォルトモード・ネットワークが過剰に活動していることが知られています。//
※つまり、集中して考えることは苦手だが、「何も考えない」はさらに苦手。
//こうしなければならないという常識的な働きや、こうすればよかったなどという過去への後悔、未来への不安など、頭の中で身動きがとれないような状態// だと、解釈している。
メモ と 深呼吸 ※ワーキングメモリを速やかに開放する工夫を試みる。リアルにメモをとるということだろう。リアル・メモの工夫次第ということか。
メモ と 深呼吸 ※リラックスして「何も考えない」で、デフォルトモード・ネットワークの働きを〈さらに〉弱めることで〈深呼吸で:(毛内拡は、「瞑想」にふけるとかで)〉ひらめきのチャンスが訪れるのかもしれない。
//詳しいメカニズムはまだわかっていません。// p73
サリエンス・ネットワーク
毛内拡『面白くて眠れなくなる脳科学』p189
//サリエンスというのは、”目立つ”というような意味です。サリエンス・ネットワークは、注意を向けるべき情報がきた時、それを大脳皮質に送るかどうかを決める役割を担っていると考えられます。
サリエンス・ネットワークを構成するのは、前島皮質や前帯状皮質と呼ばれる部位です。共感や情動に重要な働きをする部位で、なんとなく嫌だなぁとか、うまくいえないけどよくわかるという部分です。アート思考に優れている人は、これらの感覚をうまく言語化したり、具現化したりする能力に優れている人なのかもしれません。//
書籍版:NHKスペシャル『人体~神秘と巨大ネットワーク~』第3巻
+ NHKスペシャル「人体」取材班 東京書籍 2018年
+ 2017年9月30日より放送開始、NHKスペシャル『人体~神秘と巨大ネットワーク~』の番組内容を書籍化
+ 全4巻のうち第3巻 p104~183:“脳”すごいぞ! ひらめきと記憶の正体(2018/2/4放送)
『人体~神秘と巨大ネットワーク~』第3巻
p130 デフォルト・モード・ネットワーク
//レイクル博士は1998年、安静時には脳の活動レベルが高くなるとの考えを発表しようとしたが、当時は論文の掲載は拒否されたという。というのも、ぼーっとしているときにこんなにも多くのエネルギーを使っているなど、にわかには信じがたい話だったからだ。
それから約20年、MRIなど脳を調べる画像技術の進歩もあり、世界の脳科学者たちの間でデフォルト・モード・ネットワークの研究が進んだ。//
//デフォルト・モード・ネットワークの発見は脳科学の大きなパラダイムシフトをもたらしたといえる。//
※レイクル博士……マーカス・レイクル博士。アメリカ・ワシントン大学。「デフォルト・モード・ネットワーク」の名づけ親。
p132 //散歩中や入浴中のひらめき//
p133
//最新の研究によれば、ひらめきが起こるとき、脳の中では「デフォルト・モード・ネットワーク」とは別の「エグゼクティブ・モード・ネットワーク」と呼ばれるもう1つのネットワークも活性化すると考えられている。//
マシュー・リーバーマン『21世紀の脳科学』p22
デフォルト・ネットワークは、//生後たった2日の新生児の脳でも活動している。//……//私たちが特定の課題が終えた瞬間に、ほとんど反射的に活性化する。そのため、私たちはほんの乳幼児の頃から、知らず知らずのうちに社会的知性を磨いて、”複雑な社会を泳ぎ渡っていくエキスパート”になるための練習を積んでいるのだ。//
※終えた瞬間……たとえば、クイズに返答し終えた瞬間、演算課題をこなした瞬間、次は何だろうと一呼吸している瞬間。
橘玲(たちばな・あきら)『スピリチュアルズ 「わたし」の謎』幻冬舎文庫 2023年
p43
//なにか異常なことを察知するとそのときだけ意識にのぼる。これがいわゆる「第六感」で、「見ていない」ものに気づくだけでなく、意識が聞き取れない音や、意識が感じられない空気の流れなどを瞬時に察知し、「直観知能」によって適切な対応をとるよう身体を操作している。//
p271
//これは、無意識が優れたパターン認知能力=直観をもっているからだ。意識的なこころがトランプの良い山と悪い山のちがいに気づく前に、無意識はA組とB組が危険であることに気づき、そのことを指先の発汗などで伝達する。これが「いやな予感(第六感)」で、意識はそれによって、理由もわからずにA組とB組の山を避けるようになる。//
※トランプの悪い山=A組とB組……詳細は本書参照。
//脳の前頭前野に障害があると、A組やB組のカードを引こうと考えるとき、皮膚伝導反応の増加を示さない。鼻梁の後ろに位置するこの小さな領域は、直観を生み出すのに関係していると考えられる。//
橘玲『スピリチュアルズ 「わたし」の謎』幻冬舎文庫 2023年
p139
//こうして、幻覚剤が脳内の特定のネットワーク機能を低下させることがはじめて示された。それがデフォルトモード・ネットワーク(DMN)だ。//
p139 小見出し //「自己」がなくなっても「意識」は残る//
//DMNは2001年にワシントン大学の神経学者マーカス・レイクルによって偶然に発見された。典型的なfMRI検査は、装置のなかに横たわった被験者の「安静時」の神経活動を標準データとして記録するが、なにか注意を向ける必要がなく、精神的タスクがなにもない、つまり脳の「デフォルトモード」のときに活発化する部位があることにレイクルは気づいた。これは「私たちの心がふらふらとさまよう──白日夢を見る、思いを巡らす、過去を振り返る、反省する、不安を抱く──場所」だ。
デフォルトモード・ネットワークに対応するのが、外界から注意喚起されるたびに活性化するアテンショナル(注意)・ネットワークだ。この2つのネットワークはシーソーのような関係にあり、一方が活性化しているときは他方は沈黙する。
外界からの刺激に対応する知覚から離れて機能するDMNは、大脳のなかの進化的に新しい部位である大脳皮質から生じ、内省など高次の「メタ認知」プロセスでもっとも活発化する。このDMNは、子どもの発達段階でも後期になるまで完成しない。
このことは、脳のシステムがヒエラルキーになっていることを示している。進化の遅い段階で発達した大脳皮質にある「上位」の領域は、感情や記憶に関係する大脳辺縁系の「下位」の領域に対して抑制的に働くのだ。
より重要なことは、DMNが自己の構築に関係しているらしいことだ。そのため一部の神経学者はこれを「ミー・ネットワーク」と呼ぶ。「自伝的記憶」は自己を過去・現在・未来と結びつける一貫した物語だが、それはDMNのなかにあるノード(中継点群)のつながりで構築されるのだという。
カーハート=ハリスの実験でもっとも衝撃的だったのは、DMNの活動が急低下したときと、被験者が「自我の溶解」を経験したと訴えた時点が一致していたことだ。DMNでの血流量と酸素消費量が急落すればするほど、被験者が自我の消失感を訴える傾向が高かった。「DMNの活動を示すデータが急落するときに自我が一時的に消え、ふだん私たちが認識している自己と世界、主観と客観といった区別が消えてしまう」らしいのだ。//
p143
//わたしたちはつねに、過去や未来についてシミュレーションしている。DMNのこの活動が日常の大半を占めていると考える神経科学者もいる。//
酒井邦嘉編著『脳とAI』中央公論新社 2022年
+「第3章 チョムスキーと脳科学」
+ 対談 福井直樹×酒井邦嘉
p168
//〔酒井邦嘉の弁〕神経科学でも、画像データなどがいくらでも取れるようになっています。最近は安静時の脳活動である「デフォルトモード・ネットワーク」が大流行して、あえて脳機能を説明しようとしない時代に戻ってしまいました。脳科学の暗黒時代と言えるでしょう。
〔福井直樹の弁〕そういうことを言うと、叩かれるでしょう(笑)。//
p204
//〔福井直樹の弁〕物理学の直観では、理論に余剰性や冗長性があるときには、どこかが間違っているはずです。//
ジェインズ『神々の沈黙』紀伊國屋書店 2005年
p57
//カルル・フリードリヒ・ガウスは、かつてある数学の定理の証明に取り組み、何年も苦悶した経験があった。その定理に関して、彼は次のように書いている。「不意の稲光のように、謎が解けてしまった。私自身にも、どんなよすがによって、それまでの私の知識とこの成功を可能にしたものとが結びつけられたのかわからない」
卓抜した数学者ジュール・アンリ・ポアンカレは、自分がどのように発見に行き当たるかにとりわけ興味を引かれた。パリの心理学会で行なわれた有名な講演の中で、彼は地質学の研究旅行に出かけたときのことを話している。「旅の出来事に気を取られて、数学の仕事を忘れていた。クータンスに着くと、あちこち見て回ろうと乗合馬車に乗ることにした。ステップに足をかけた瞬間、その考えがひらめいたのだ。それまでの思考がそこへ至る道を切り開いたとは思えない。フックス関数の定義に私が用いた変換は、非ユークリッド幾何学の変換と同一のものだったのだ!」
このように突然洞察を得るという現象が最も顕著に見られるのは、研究題材に日常の経験が干渉する余地のごく少ない、より観念的な学問においてではないだろうか。アルベルト・アインシュタインの親しい友人から聞いた話では、かの物理学者の偉大な思いつきの多くは、髭を剃っている最中に不意にひらめいたそうだ。そのため、彼は毎朝それは慎重にかみそりの刃を動かしていた。でなければ、〔※〕驚いたはずみに顔を切ってしまいかねないからだ。イギリスのある高名な物理学者はかつて、ウォルフガング・ケーラーに次のように語った。「我々の間では、よく三つのBと言います。バス(Bus)、風呂(Bath)、ベッド(Bed)です。我々の科学における偉大な発見は、これらの場所でなされるのです」//
※「驚いたはずみに」ということは意識しているのでは? 出来すぎた話のように思える。
p59
//それどころか、ときとして、問題は忘れてしまわなければ解決できないかのように思われるほどだ。//
2024.8.1Rewrite
2023.5.23記す