||||| マシュー・リーバーマン『21世紀の脳科学』読書メモ |||

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マシュー・リーバーマン『21世紀の脳科学』
+ 副題:人生を豊かにする3つの「脳力」
+ 講談社 2015年
+ Social : Why Our Brains Are Wired to Connect (c) 2013
+ 専門:社会認知神経科学
+ アメリカ
+ p2 //「社会認知神経科学」という、未来につながる新たなアプローチを用いて、私たちの脳の社会的なメカニズムに光を当て、進化が私たちにもたらした、”つながり脳“の特徴を活かした、もっと幸せでもっと充実した人生を送るための方法について、詳しく探っていこう。//

p20
//〔※1〕「つながる〔※2〕「心を読む〔※3〕「調和するという3つの脳力を通じて、私たちがどのような社会性を獲得してきたのかを探っていく。//

p21
//私たちの脳のなかには、各領域が連係し合って働くいろいろな社会的ネットワークが存在する。それぞれのネットワークは、脊椎動物から哺乳類へ、さらには霊長類を経て人類へと進化する過程で現れた。その進化のステップは、子どもの発育順序と一致する。//
※下の図

(参考)爬虫類ではなく、両生類から哺乳類は現れた

※1. つながる

p13 //別離がもたらす”社会的苦痛“は、人間の生存に大きな影響を及ぼす。//
p14 //身体的苦痛と社会的苦痛とを脳の同じ領域で扱う//
p22 //哺乳類が地球上に初めて誕生した2億5000万年ほど前、進化は私たちの祖先に「社会的苦痛」と「社会的喜び」という、ふたつの基本的な動機を与えた。//
間主観性の理解に相当。
◇ p22 //未熟なままで生まれ、ひとりでは生きていけない乳児は、常に養育者とつながり、世話をしてもらう必要がある。そこで乳幼児の脳は、養育者から放って置かれるという社会的な分離を、「社会的苦痛」として感じるように発達した。養育者がそばを離れ、愛着関係を脅かされると、乳幼児は”不快な痛み“を感じて、苦痛の泣き声をあげ、養育者をそばに呼び戻す。一方の養育者の脳も、我が子の世話を報酬と捉え、「社会的喜び」を感じるように発達した。こうして私たちの祖先は、母子の愛着行動を通して「社会的なつながりを手に入れたのである。しかも、養育者と常につながっていたいという乳幼児期の欲求は、成長後も失われず、生涯にわたって私たちの考えや行動を決定づけるのだ。//

※2. 心を読む

p16 //私たちは、いろいろな方法で周囲や社会の影響を受けている。//
p17 //私たちは、進化の過程で他者の心の状態を読み取る特別な力を獲得した//
◇ p23 //「自分以外の人間も考えを持ち、その考えに基づいて行動する」という現象を理解できる心の理論を獲得した。//
◇ p23 //さらに進化は、私たちが他者の心の状態を読み取るために、「メンタライジング系」と「ミラー系」という、2つのネットワークも与えた。この2つのネットワークはそれぞれ異なる機能を持ち、たいてい相互補完的に働く。私たちが思いやりを発揮したり、相手に共感したりできるのも、他者の心の状態を読み取る脳力のおかげである。実際、共感は「心を読む」脳力の最高の到達点と言えるだろう。//

※3. 調和する

p19 //自己という概念を生み出す脳の同じ領域を使って、進化は、私たちのなかに社会の信念や価値観をうまく取り入れる仕組みをつくり出した。こうして、私たちは自分でも気づかないうちに外部の信念や価値観を自分自身のものと思い込み、社会規範に従い、集団や社会との調和を図ろうとする//
いつから「おとな」で、遊びを考える。
◇ p23 //自己感──「自分とは誰なのか」という概念──を生み出す脳の領域は、私たちが周囲の影響を受け、社会の規範や価値観を取り入れるルートでもあるのだ。脳はその同じ領域を用いて、当の私たちも知らないうちに、外部の信念や価値観を私たちのなかにこっそりと運び込んでいる。こうやって私たちの脳は、社会の規範を内面化し、その上に自分自身の自己感〔第3の”自己” 〈第3の目 サード・アイ〉〕をつくり上げ、私たちが外部の信念や価値観に従って考え、行動し、社会の調和を生み出す仕組みをつくり出したのである。//

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《デフォルト・ネットワーク》表現いろいろ
p25 //脳は休憩時間に社会化する//
p25 //初期設定として脳に備わっている//
p25 //脳の自由時間こそが”デフォルト設定”の状態//
p26 //休んでいる時に活性化する領域//
p27 //何もしていない時に活性化するネットワーク//
p27 //何もしていない時にオンになる領域//

p27 「デフォルト・ネットワーク」命名前の嚆矢 1977年
//シュリマンが発見した、人が何もしていない時に活性化するネットワークは今日、「デフォルト・ネットワーク」と呼ばれる(「デフォルト・モード・ネットワーク」という呼び方もある)。何かの課題が終わった時に”デフォルト(初期)設定として現れるネットワーク”という意味だ。//
p26 遡って……
//1977年、神経学者のゴードン・シュリマンは『認知神経科学ジャーナル』誌に2本の論文を発表した。//……//シュルマンの2本目の論文は、「認知、運動、視覚弁別課題を行っていない時に活性化する領域はどこか」と問いかけていた。これは少々変わった質問だろう。いずれにしろシュルマンは、人が何もせずに休んでいる時に活性化する領域を発見したのである。//

p26
//運動能力に関係のある領域が、運動能力を試す課題が終わったとたんにオフになるのは納得がいく。だが運動能力を試す課題を終えた時に、なぜ一部の領域がより活発に反応するのだろうか? しかもその同じ領域は、視覚弁別課題や数学の問題を解き終えた後でも、やはり活性化するのである。//

p27
//特定の課題を与えられていないからと言って、実際に脳が何もしていないわけではないのだ。//

p28
//デフォルト・ネットワークと、脳の社会的認知ネットワークとがほぼ一致するという事実が、実験の結果からもわかっている。つまり、デフォルト設定で現れるネットワークは、社会的認知──自分自身や他者の理解──に一役買っているのである。//

p28
//「他に何もしていない時に、誰かのことを考えるのは当たり前じゃないのか?」「それのいったいどこが重要なんだ?」と。最初は私もまったく同じ理由から、ふたつのネットワークの重なりをたいして重要とは思わなかった。
 ところがそのうち、デフォルト・ネットワークと社会的認知ネットワークとの関係を、”逆に”考えるようになった。//
p29
//当初、私は「人間は社会に関心があるから、空いた時間にデフォルト・ネットワークが活性化する」と考えていた。もちろんそれは正しい。だが、「逆もまた真なり」で、さらに興味深いことが言えるのではないか。すなわち、「空いた時間にデフォルト・ネットワークが活性化するからこそ、人間は社会に関心を持つ」。//
※友人と約束した待ち合わせ時刻より早めに目的の場所に到着しておき、空き時間を敢えて設定することは無駄ではなく、むしろ得策というわけだ。

p30 ※デフォルト・ネットワークは、結果ではなく原因だとする1つめの根拠
//人間はこの世に生まれるとすぐに、デフォルト・ネットワークが活性化する。生後2週間の乳児の脳を調べたところ、このネットワークが活性化していた。それどころか生後2日の新生児でも、デフォルト・ネットワークの活動が確認されたのだ。この事実はいったい何を意味するのか? 新生児は社会どころか、おもちゃの電車にもクマのぬいぐるみにも興味を持っていない。生後2日では、目の焦点さえ合わせられないのだ。社会に興味を持つようになる前に、乳児のデフォルト・ネットワークがすでに活動を開始しているとなると、デフォルト・ネットワークは原因であり、人が社会に興味を持つために重要な役割を担っていると考えてもいいだろう。//
p31 ※デフォルト・ネットワークは、結果ではなく原因だとする2つめの根拠
//私の研究室は、被験者に数学の問題を解いてもらう実験を行った。被験者には1問解き終わるたびに数秒だけ休憩を与え、またすぐに次の問題に取りかかってもらった。するとその場合にも、デフォルト・ネットワークが活発に反応していたのである。それどころか、1問解き終わるごとすぐに活性化していたほどだ。デフォルト・ネットワークはほとんど反射的に活動を開始する。それこそが脳の初期設定の状態であり、ほんの少しでもチャンスがあれば、脳は即座にその状態に戻ろうとするのだ。//
※座りっぱなしはよくない! 頻繁に席を立つのがよい、ということだろう。

p30 //「1万時間の法則」//
//ヴァイオリニストであれ、プロのアスリートであれ、Xboxの達人であれ、その分野のエキスパートになるためには1万時間の練習を積み重ねる必要があるという法則だ。//
※p30 //『ニューヨーカー』誌の専属ライターであり、現代アメリカで最も影響力のあるコラムニストのひとりとして評価の高いマルコム・グラッドウェルが『天才! 成功する人々の法則』で紹介した「1万時間の法則」//
p30
//ある調査によれば、私たちの会話の70%は他者や自分自身の話題だという。私たちが1日の20%を使って、誰かのことや自分と彼らとの関係について考えるとすれば、デフォルト・ネットワークは少なくとも毎日3時間は活性化している計算になる。そうであれば10歳になる前に、脳は1万時間の”練習”をクリアできる。反射的に社会的認知モードに戻る脳のおかげで、私たちは知らず知らずのうちに、複雑な社会生活を送るエキスパートになる練習をしているのだ。//
※どんな計算過程になるのだろう?
「3時間」を「20%」相当とすれば、100%は(3÷0.2)15時間になる。「70%」は(15-3)時間に含まれるということか。3時間×365日/年×9年=9855時間。
※「こども」と「おとな」の区分を「10歳」にしている手前、興味あるデータだ。
※新生児からの経過時間だ。これを経過時間に含める根拠は上述のとおり。

p32
//まだほんの乳幼児の頃から、社会について考え、複雑な社会を泳ぎ渡っていくエキスパートになる練習を絶えず積み重ねてきた。//

p32
//霊長類と他の動物とを、そして人間と他の霊長類とを分ける特徴のひとつとして、脳のサイズの違いがあげられる。とりわけ私たち人間は、前頭前皮質〔前頭前野のこと〕と呼ばれる、目のすぐ後ろに当たる前頭葉の前側の領域が大きい。そして、そのおかげでいろいろな知的活動をこなせる。//

p34
//私たちはいろいろな理由で他者を助ける。だがその理由のひとつは、私たちの脳が共感や思いやりを持つようにつくられたからだ。//

p34-36 要約
社会的思考(デフォルト・ネットワーク)と「社会的思考」は同時に活性しない。一方が活性化すると、もう片方は不活発になる。
※「社会的思考(デフォルト・ネットワーク)」の対比となっている「社会的思考」は「セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク」に対応すると思われる。
p36
//「勉強ができる」と「人づきあいがうまい」とが、両立しにくい知性だと〔たいていの人は〕わかっている。このふたつには別々の能力が必要だと思えるうえに、それぞれの能力を支えるネットワークも異なる。//

p114
//演繹法か帰納法を用いて論理的な思考を巡らせている時には、脳の外側前頭皮質と外側頭頂皮質が活性化する。外側頭頂皮質は、「ワーキングメモリ(作業領域)」と深い関係がある領域だ。//
※上の図(下図p35)とp114の参照図は同じである。が、「外側前頭皮質」の表記は異なる。「前頭皮質」は前頭前野のこと。
p116
//心の理論も外側前頭皮質や外側頭頂皮質と関係があるのではないか?//……//外側前頭皮質は//……//”汎用の抽象的思考装置”なのである。論理的な思考全般を支えているこの領域が、他者の心にまつわる論理的思考と関係があったとしてもおかしくはない。、しかも、社会的思考も演繹法や帰納法である場合が多い。//

p118
//メンタライジングの必要がないセンテンスを読むと、言語やワーキングメモリと関係のある外側前頭皮質が活性化する。//

p120
//この15年間、たくさんの専門家が同様の実験を行い、次のように結論づけた。//
//第1に、メンタライジング能力を働かせている時には、ほぼ例外なく背内側前頭前皮質〔はいないそく DMPFC〕と側頭頭頂接合部が活性化する(後帯状皮質と側頭極もかなりの割合で活性化していた)。そのため、私はこの領域を「メンタライジング系」と名づけた。//
//第2に、ワーキングメモリや非社会的思考、流動性知能に関係のある領域は、これらの実験の間、ほとんど活性化していなかった。つまり進化は、社会的思考と非社会的思考とにまったく別のネットワークを与えたのである。//

p120
//他者の心を理解する時に活性化する領域と、脳が安静にしている時に活性化する領域とはほぼ重なる。夢を見ている時に、”オン”になるのもこの領域である。2章で私は、「デフォルト・ネットワークが活性化するからこそ、人間は社会に関心を持つ」と述べた。その同じネットワークを、今度はメンタライジング能力の視点から捉えれば、このネットワークがどれほど重要な役割を担っているのか、さらに明確なイメージが掴めるのではないだろうか。//

p122
//私たちのこの実験は、デフォルト・ネットワークの活性度とメンタライジング能力との関係を示す初めての証拠となった。//

p129
//メンタライジング系は自然にスイッチが入るにしろ、実際はワーキングメモリ系のように意識した時に働く。
 つまり、メンタライジング系は努力しなければうまく働かない。//
p129
//社会的に思考する時にも、私たちはよくヒューリスティック〔経験則〕を用いる。そして他者の心を読む代わりに自分自身の心を読み、自分が見ている光景を他者も見て、自分の信念を相手も信じ、自分の好きな映画を友だちも好きなはずだ、と思い込んでしまうのだ。//

p37
//人間が大きな脳を持つようになったのは、抽象的思考のためだというのが、これまでの通説だった。//……//ところが最近では、人間が大きな脳を持つようになった理由を、社会的認知能力──他者と交流し、うまくつき合っていく能力──を高めるためと考える専門家は多い。長い間、頭のいい人間とは、優れた分析能力の持ち主を指すと思われてきたが、進化的な観点から言えば、本当に頭のいい人間とは、相手の心の状態を読み取り、他者と協調できる社会的能力に優れた人を指すのかもしれない。//

p38
//人間は、脳にエネルギーを送るために生きていると言っても過言ではない。全体重に占める成人の脳の割合は約2%に過ぎないのに、脳はからだ全体の約20%ものエネルギー量を消費する。胎児の脳は、全代謝量の60%ものエネルギーを消費し、生後1年はその状態が続く。ようやく大人と同じ程度の20%に落ち着くのは、生後数年も経ってからである。//

p39,40 進化において、生き延びるために、脳が提供してきた能力。3つの仮説。要約。
(1)//個人の問題解決能力//
(2)//他者の真似をする、個人の社会的学習能力//
(3)//互いにつながり、協力し合う能力//


養老孟司『唯脳論』ちくま学芸文庫 p130
//なぜ脳が大きくなったか、あるいは「大きくなれたか」を考えてみる必要がないか。それはヒトの意識の発生と深く関連しているに違いないからである。//

同上p136
//意識の発生が、なんとなくうなづける。思考というもの、いわゆる「頭を使う」という過程が、一般に自慰的な行為という印象を与えることが多いのは、こうしたことに関連しているのかもしれない。//
※外的必然性ではなく「内的必然性」=頭を使うことによって、ヒトの脳は大きくなったと仮説している。p140


p48
//新生児の脳の大きさは、成人の脳の4分の1しかない。そのため、生まれた後で大きく発達する必要がある。脳が完全に発達していない新生児は、とてもひとりでは生きていけず、無力な状態がその後何年も続く。それどころか、人類ほど未熟な期間が長い哺乳類もいないのだ。実際、人間の前頭前皮質がようやく発達し終えるのは、20代になってからなのだ(未熟な状態が20年以上も続くと知って、喜ぶ親も多いのではないだろうか!)。程度の差はあれ、他の哺乳類もやはり未熟なままで生まれる。この特徴は、最初の哺乳類が登場した2億5000万年前にまでさかのぼる。そしてそれこそが、私たちを今日のような社会的な動物にした、そもそもの始まりなのである。//
p59
//前帯状皮質は、母子の愛着行動にも大きな役割を果たす。哺乳類の子どもは養育者を呼び戻すために、苦痛の鳴き声をあげる。ところが爬虫類は分離苦痛の鳴き声を──それを言うならどんな声も──あげない。親の注意を惹こうとして鳴き声をあげれば、爬虫類の子どもは親に食べられてしまうかもしれないからだ。それに対して、哺乳類の鳴き声は養育者の世話を求める”ディナーベル”である。//

p54
//人間は生涯を通して、つながりを求める。養育者とのつながりは、乳児にとって生き残りをかけた欲求である。だがその代償として、私たちは「愛されたい」という欲求を命尽きるその日まで持ち続ける。私たちが生涯を通して味わう社会的苦痛は、すべて乳児の頃の生き残りをかけた欲求から生まれたものなのだ。//
p73
//哺乳類は、それも特に人間の乳児は養育者に世話をしてもらうために、社会的な分離を苦痛に感じる必要がある。それこそが、進化が人間に社会的苦痛を与えた理由だったにせよ、私たちはその苦痛からは一生逃れられない。社会的苦痛は、生涯にわたって私たちのあらゆる社会的体験を染めてしまう。それでいて、私たちはその影響力をよく理解しているとは言えないのだ。//

p56
//社会的苦痛と身体的苦痛との関係を調べるために、私たち〔※〕が注目したのは背側前帯状皮質(はいそくぜんたいじょうひしつ dACC)と、前部島(とう)皮質である。//
※私たち……著者とその妻ナオミ
p57
//私たちが前帯状皮質(ACC)に、それも背側前帯状皮質に焦点を絞った理由は4つある。//
+1……//前帯状皮質が哺乳類と爬虫類とを分ける領域だからだ。哺乳類にしか見られない愛着行動や社会的苦痛が、爬虫類にはないこの領域と関係があると考えるのは理にかなっているだろう。//
+2……//脳のなかでオピオイド受容体の密度が最も高いのも、この領域である。//
+3……//背側前帯状皮質が身体的苦痛に重要な役割を果たしているという事実が、すでに実験で確認されていたからである。//
+4……//ここが人間以外の哺乳類においても、母子の愛着行動と関係のある領域だからだ。//

p58
//私たちは普段、痛みをひとつの感覚として体験する。だが実際、痛みはいろいろな要素で成り立っている。それは脳が生み出す巧妙な錯覚だ。たとえば道路を横切る人を目で追うといった比較的単純な体験も、複数の脳の働きから成り立っている。ところが、それが意識に届く時には統合され、ひとつのまとまったできごととして知覚されるのだ。//

p59
//体性感覚皮質と背側前帯状皮質との違いは、読書に喩えるとわかりやすいかもしれない。体性感覚皮質は本の種類(SFなのかミステリーなのか)とあらすじの理解を助けるが、背側前帯状皮質は読後に抱く感想と関係がある。このふたつがまったく別の体験だと実感できるのは、時が経ち、話のあらすじを忘れてしまった後でも、その本に感動した体験自体はよく覚えているからである。//
※何が良かったかの内容については覚えていなくても、「おもしろかった」という心象とか主人公が気に入ったなどが思い出せたりする。

p64
//身体的苦痛と社会的苦痛というまったく違う種類に思えるふたつの苦痛が、実は同じ脳神経メカニズムを共有し、私たちが考える以上に心理的要素と結びついている。//

p74
//いじめの85%は身体的な暴力を含まず、心ない言葉を投げつけたり、噂話の標的にしたりという陰湿ないじめだ。//
※八ツ塚実は「いじめは、からかいから始まる」と言っていた。

p82
//もしそうであるならば、私たちはなぜ、我が子や生徒や従業員のやる気を引き出すために、もっと温かい言葉をかけないのだろう?//

p84
//進化はなぜ私たちを、他者からの好意や敬意を切望するようにつくったのだろう? その理由のひとつは、人間もその他の哺乳類も、協力し合って働き、お互いを思いやれば、集団でより大きな利益を手にできるからだ。自分よりも複雑で危険な敵や獣が存在する時、他者とつながり、互いに好意を持ち合えば、群れで生活する利益をさらに充実したものにできるからである。//

p87
//17世紀の哲学者トマス・ホップスも、18世紀の哲学者デイヴィッド・ヒュームも、人間は自己の利益を優先すると述べた。//
p100
//社会心理学者のデイル・ミラーは、この”偽の利己主義”の根本的原因を突き止めた。「利己主義こそがあらゆる動機の源泉だ」というホップスやヒュームの主張が「自己充足的予言」になってしまったと、彼は言うのだ。自己充足的予言とは、無意識のうちに、周囲や世間の期待に応えるような行動を取ってしまい、結果としてそれが現実のものとなってしまう現象を指す。偉大な哲学者が「人間は利己的だ」と繰り返し述べたせいで、社会全体がその期待に沿うように行動してしまった、つまり、「人間は利己的だ」と教えられてきたために、私たちはその文化規範を遵守しようとし、利己的に見える態度や行動を取ってしまうのだと、ミラーは考えたのである。//
p101
//私たちは、周囲の人間を利己的だと思い込んでいる。だからこそ、自分ひとりが利他的に見える態度や行動を取って目立ちたくない。「うぬぼれている」とか、「優等生ぶったヤツ」と思われたくはないのだ。だから、ついこんなふうに答える。「ボランティアに参加したのは、暇だったからだ。ちょうど時間もつぶせて良かったよ」。いつも利己的に聞こえる理由を言う友だちや同僚に囲まれていれば、どんな行動にも利己的な動機があると思い込み、利他的である自分の動機も認めたくなくなってしまう。この傾向が徐々に強まり、利他的な行為がなおさら本当に利己的な行為に思えてくる。//

p104
//進化は私たちを「周囲の人間の考えや意図を読み取り、お互いに協力し合ってより大きな目標を達成する」ようにつくったのである。//

p109 「心を読む」事例
//あなたはバスを待っている。やがて近づいてきたバスの運転手に向かって、あなたは手をあげる。すると運転手は、それを「バス停で停まって、私を乗せてほしい」という意思表示だと理解する。運転手はバスを停めて扉を開ける。あなたもその行為を、「乗ってくれ」という合図だと理解する。赤の他人どうしの間で交わされるこんな単純なやりとりでさえ、相手の行為の裏に隠れた意図を正確に把握できなければならない。//
p109
//他者の心の状態を読み取り、予測する能力がなかったら、現代社会はたちまち立ち行かなくなってしまう。//

p160
//社会認知神経科学分野において、これまではほとんど見向きもされてこなかったが、今後10年で最も熱い注目を浴びる領域は中隔野だと私はみている。この領域は、哺乳類の進化を通じて不釣り合いなほど大きく発達し、メンタライジング系のCEO(最高経営責任者)とでも呼ぶべき背内側(はいないそく)前頭前皮質ともつながっている。
 中隔野はまた、「報酬プロセス」が初めて確認された領域でもある。脳の報酬系が発見されたのは、1954年に研究者がラットを使って次のような実験を行った時だった。//

内側前頭前皮質MPFC
……前頭前野の一部。プロードマン10野

p183
//MPFCが特別な領域//

p184
//あなたが額の”第3の目(サード・アイ)”と呼ばれるあたりを指で差す時、そこが”自己”という感覚をつくり出すMPFCである。//
//第3の”自己” サード・アイ//

p184
//他の霊長類の脳と比べてこれほど大きな割合を占める人間の脳の領域は、MPFCを除いてあまり見当たらない。//
p184
//MPFCは、人間と他の霊長類とを分ける特別な領域である。//

p182 //からだは永遠に分断されたままなのである//

p184
//西洋人は、その人独自の考えや目的や価値観が自己を構成し、自分の夢や望みは誰にもアクセスできない自分だけのものと考える。ところがやはり、ものごとはそれほど単純ではないのである。//

p185 小見出し //他人のものだった”自己//
//私たちの考える自己感──自分とは誰なのかという感覚──もトロイの木馬と同じではないかと、私は思うのだ。//

p186
//ニーチェは自己感を、私たちの人生に関わりのある人間によって組み立てられ、私たちのためにではなく、彼らのために働く”秘密諜報部員”だと論じたのである。//
※「何のために学ぶのか?」の問いを立てると、たいていの学生は(考えたあげくに)「自分のために」と返してくることが多い。私は「(人に)使われるために」と返す。なぜなら、”優秀な人間”を社会では望まれていると思い込み、それに適うように学んでいるからだ。

p189
//13歳の被験者について思わぬ発見があった。思春期の子どもの場合、「直接的評価を考える時には、内側前頭前皮質だけでなくメンタライジング系も」、また「反映的評価を考える時にも、メンタライジング系だけでなく内側前頭前皮質も」活発に反応していたのである──すなわち、思春期の子どもは、直接的評価と反映的評価のどちらを考える時でも、内側前頭前皮質とメンタライジング系の両方が活性化していたのだ。//
//思春期の子どもは「自分が自分をどう思うか」を考える時でさえ、自己の内面を探るよりも他者の心に焦点を当てて、「自分とは誰なのか」という問いに答えているのかもしれない。//
※つまりは、自分は周囲にどう見られているかに敏感ということだ。自己は”内”にだけでなく”外”に存在する。

p196 小見出し //自己はそれほど”自己的”ではない//
//内側前頭前皮質の働きによって、私たちは自分でも気づかないうちに、脳のなかに社会の価値観や文化規範を取り込み、その”共通基盤の上に”自分自身のアイデンティティーを築き、信念を持つようになったのだ。//

p196
//アインシュタインは言った。「他者のために生きてこそ、価値ある人生だ」。//

p197
//人生とは、世話をするかされるかのどちらかだったのだ。//

p197
//スティーブ・ジョブズは次のような名台詞を残した──「他人の意見という雑音(ノイズ)で、心の声を掻き消してはならない……勇気を持って自分の心と直観に従ってほしい」。
 だが内側前頭前皮質の働きを考えれば、ジョブズは間違っている。自己感──彼の言う心と直観──とは実のところ、私たちが集団の規範に合わせ、社会の調和を生み出すための”仕掛け”なのである。//
p197
//ジョブズが考えたように自分対社会ではなく、自分対自分の闘いなのだ。そして進化は、私たちの利己的な衝動を抑制する秘策をもうひとつ用意していたのである。//
※秘策とは──自制心。がまんする忍耐のこと。

p202
//前頭前皮質のなかで、左半球よりも右半球のほうが大きいのはこの領域だけだ。右側が大きく発達するのは、自制心をうまく働かせられるようになる10代後半〔思春期後半ということになるだろう〕である。右腹外側前頭前皮質は、抑制系のハブ領域と言っていいだろう。//
p203
//4歳の時に目先のお楽しみを先送りできた子どもは、成人後もこの領域が強く活性化していた。//
※果たして、4歳当時の子どもにとって良いことだろうか? 疑問あり。
※この抑制系の発達は「アンガーマネジメント」と関係があるのかもしれない。

p204
//自分の知っている事実や常識、信念に”反する”結論を、間違っていると判断してしまう傾向を「信念バイアス」と呼ぶ。だが知識に惑わされずに、前提が正しい世界を想像するためには、頭の働きをうまく自制できなければならない。このように認知プロセスを自制する場合にも、腹外側前頭前皮質が深く関わっているのだ。//
※「リテラシー」についても、この流れで理解できそうだ。

p210
//私たちは直観でものごとを決めつけてしまいがちだ。その思い込みを棄てて世の中を見るためには、自制能力を働かせなければならない//
※ここでいう「直観」とは「偽の合意効果」のこと。「偽の合意効果」……//「他者も自分と同じように考えているに違いない」「相手は自分の考えに同意しているはずだ」などと思い込む。// こと。p209

p210 抑制と再評価
//手足が震えるほど緊張しているが、そんな様子はおくびにも出さず、平静を装っている。このような感情の制御を心理学者は「抑制」と呼ぶ。//
p211
//再評価とは、私たちを悩ませ、苦しめる状況をどう捉え直すかというプロセスだ。//

p212
//「抑制」と「再評価」はいろいろな点で異なる。抑制は、内心の動揺を隠す効果がある。一方の再評価は、動揺を鎮めるために役に立つ。

p211
//心理学的に言えば、私たちの現実は私たちが語る物語から生まれる。//

p214
//再評価と同じように、情動のラベリングにも暗黙の自制効果があるらしい。情動を言葉で言い表すと、右腹外側前頭前皮質が活性化して扁桃体の活動が弱まるのだ。//
※泣いている幼児に「お話しできる?」と問うことがラベリングだ。

p223
//9歳以上の子どもを対象にした実験では、鏡のない場合には半数以上の子どもがお菓子を2個以上取った。ところが鏡がある場合には、お菓子を2個以上取った子どもは10%にも満たなかったのである。//

p224
//自制心とは社会に利益をもたらすメカニズムなのだ。自分が社会の一員だという事実を思い出すと、自制心が働く。自制心は社会とのつながりを深め、集団のなかでの自己の価値を高めてくれる。集団的アイデンティティーも確認できる。そしてそこに「調和」が生まれる。//

p226
//自制心とは、個人と集団との間で目的や価値観が衝突する時、集団の目的や価値観を優先させて、私たちを社会規範に従わせるメカニズムである。アメリカ人は、同調する人を見るとつい、「群れに従う意志の弱い人間」と判断しがちだ。ところが最近の調査によれば、ある状況では、自制心の強い人のほうが同調しやすいという。集団から制裁を受ける可能性がある時、同調は実に賢明な選択なのである。//
※「同調圧力」というテーマが気になる。

p226
//私たちのトロイの木馬の自己は、物心ついた頃から、外界の情報をスポンジのように吸収してきた。そうして無意識のうちに内面化した信念や価値観を、私たちは自分自身の考えや価値観だと思い込んで、必死に守ろうとする。だが実のところ、自分の考えを弁護する時、私たちが弁護しているのは社会の考えなのだ。//

p227
//最新の脳神経科学は、自己感と自制心があるからこそ、人は集団に受け入れられるのだと教えてくれる。
 調和を生み出すことは難しい。だが私たちの脳は、社会の規範を内面化し、その上にそれぞれの自己感をつくり上げ、私たちが外部の信念や価値観に従って考え、行動し、社会の調和を生み出す仕組みをうまくつくり出してきたのである。//


p269
//「教室に入る前に”つながり脳”のスイッチを切ってください。学校は勉強をする場所ですから!」。だが、それでは腹を空かした者に、食欲のスイッチを切れと言っているようなものだ。そして、思春期の子どもの社会的欲求をうまく満たしてやらなければ、それこそ勉強に身が入らなくなってしまう。//

p271
//社会的なデータに変換(ソーシャル・エンコーディング)”した場合、記憶力が高まる。//
//メンタライジング系は極めて強力な記憶系としても機能するのだ//
//学校の授業で何かを覚える時、私たちはメンタライジング系のスイッチを切ってしまう。授業中に、周囲の世界について考えたりすれば罰が待っているからである。//

p279
//ワーキングメモリを鍛えると、神経細胞が新しく生まれ、ワーキングメモリと流動性知能の両方が向上するとわかってきた。//

p280
//感情をコントロールする能力が完全に発達するのは20歳になる頃だという。//

2023.3.16記す

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