||||| 福岡伸一 × 養老孟司 |||

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 養老孟司『唯脳論』と福岡伸一『動的平衡』を前後して読んだ。どちらも学ぶことが多く貴重な時間だった。脳生理や脳神経科学、健康について示唆に富んだ内容だった。この2人(冊)を並記するのは、同じまたは似たテーマが採用されていたことによる。養老孟司は解剖学・形態学、福岡伸一は生化学・分子生物学、この立場の違いは大いにあったように思う。
 この2人を並記してタイトルにしたのは、養老孟司の場合は”読み方注意”と思うところがあり、福岡伸一は”安心して読める”ということをメモしておきたいと思ったからだ。以下、事例をあげて述べる。

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福岡伸一『動的平衡』p216
//やがて彼女は生物学のヒーロー(あえてヒロインと呼ばない)となった。//

養老孟司『唯脳論』p64
//神経細胞は「興奮」する。つまり、女性の場合もそうであるように、個々の神経細胞は、興奮するかしないか、そのいずれかの状態にある。//

 福岡は注釈をほどこすが、養老は読み手の想像にまかせている。「女性の場合もそうであるように」とは如何に。

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福岡 p251
//効率よりも質感が求められ、加速は等身大の速度まで減速され、直線性は循環性に置き換えられる。そういう流れこそがロハスの思考なのだ。//
等身大はこの1箇所に登場していたが、見逃しはあるかもしれない。

養老 ものさし「等身大」(養老孟司)

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福岡 p59
//私たちが今、この目で見ている世界はありのままの自然ではなく、加工され、デフォルメしているのは脳の特殊な操作である。
 実は、これはなにも視覚だけに限ったことではない。私たちは、本当は無関係なことがらの多くに因果関係を付与しがちである。//……//かつて私たちが身につけた知覚と思考の癖はしっかりと残っている。//

養老 p194
//形は一目でわかるからこそ、ダマされる。だから擬態がある。ふつうの人は擬態そのものに気づく機会がない。そのこと自体が、視覚がダマされやすいことをむしろ証明している。元来形に証明はない。自明があるだけである。//

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福岡 p231
//生体を構成している分子は、すべて高速で分解され、食物として摂取した分子と置き換えられている。身体のあらゆる組織や細胞の中身はこうして常に作り替えられ、更新され続けているのである。
※「動的な平衡」を説明する一例。本書のテーマであり、あまたある文脈の一つにすぎない。

養老 p32
//脳と心の関係とは、心臓と循環、腎臓と排泄、肺と呼吸の関係と、つまりは似たようなものである。いわゆる心身問題は、それを素直に認めないところから生じる。//
※「構造」と「機能」の対照をいっている。脳という構造が、心という機能を作用させているということ。これも「唯脳論」を説明する一例であり、あまたある文脈の一つにすぎない。

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福岡 p36
//つまり過去とは現在のことであり、懐かしいものがあるとすれば、それは過去が懐かしいのではなく、今、懐かしいという状態にあるにすぎない。
 ビビッドなものがあるとすれば、それは過去がビビッドなのではなく、たった今、ビビッドな感覚の中にいるということである。//
※まさに幼児の行動は、これだ!

養老 p202
//現在が過去を消し、現在が未来を定める。現在は時の一点ではない。「永遠の現在」なのである。//
※養老版、動的平衡! こちらにも、動的平衡!

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福岡 p236
//デカルト主義者は言う。たとえば、イヌは時計と同じだ。打ちすえると声を発するのは身体の中のバネが軋(きし)む音にすぎない。イヌ自身は何も感じてはいないのだ。イヌには魂も意識もない。あるのは機械論的なメカニズムだけだ──。//……//デカルト本人は人間と動物との間に一線を画したが、カルティジアンの中には、やがてそれを乗り超える者たちが現れた。
 18世紀前半を生きたフランスの医師ラ・メトリー(唯物論の哲学者として知られている)は、人間を特別扱いする必然は何もなく、人間もまた機械論的に理解すべきものだとした。
 現在の私たちもまた紛れもなく、この延長線上にある。生命を解体し、部品を交換し、発生を操作し、場合によっては商品化さえ行う。遺伝子に特許をとり、臓器を売買し、細胞を操作する。これらの営みにデカルト的な、生命への機械論的な理解がある。//

養老 p32
//ヒトは、意識つまり心をいつでも特別扱いしてきたのである。デカルトの出発点も、ここにある。// ※デカルトの心身二元論
p49 //ただし私〔養老〕は、心身二元論を採らない。//

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2023.4.30記す

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