||||| ゾウは、かしこい!|||

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 象は、インドゾウとアフリカゾウの2種類がいる、ということはよく知られている。しかしながら、これは”いま”であって、地球のこれまでには353種のゾウが現れては消えたという。ライアル・ワトソン『エレファントム』p44//これまでに知られている353種のうち2種類しか残っていない//とある。分類上「長鼻(ちょうび)類」に所属させられている。地面に届くほどの牙をもつ象、牙がない象、牙が4本もあった象、毛深い象、毛がうすい象、想像の産物ではあるが、化石など遺跡から発掘されている。20世紀初めに1000万頭いた象は、50万頭までに激減している。

 先ごろ読み終えた「豚」に加えて「象」も、その超人的いや超象的ドキュメントには驚かされる。思いもしなかった。

 //象の群れというのは、生態系全体の象をすべて含むのかもしれない。//p275 この「生態系全体」というのは、アフリカ象が生息するアフリカ大陸全土をさす。
 p275//あるいは国全体を覆い尽くしている。この自然界のインターネットは、私たちの象社会に対する想定をすべて疑問に付してしまう。//
 なんのことか? ピンとこないかもしれない。インターネットに喩えているように、姿が見えなくても「通信」を駆使してコミュニケーションをとっているということだ。

 p285//さらに驚くべきことが起こった。//……//空気に鼓動が戻ってきた。私はそれを感じ、徐々にその意味を理解した。シロナガスクジラが再び海面に浮かび上がり、じっと岸のほうを向いていた。潮を吹き出す穴までが、はっきりと見えた。
 太母〔象〕は、この鯨に会いに来ていたのだ。海で最も大きな生き物と、陸で最も大きな生き物が、ほんの100ヤードの距離で向かい合っている。そして、間違いなく意思を通じあわせている。超低周波音の声で語り合っている。//
 フィクションではない。事実の切り取りだ。信じるか信じないかは、本書を読むしかない。大いに混乱し、興奮した。胸に迫るものがある。

 ”インターネット”通信や「低周波通信」は別のところでその根拠をあげている。

 ライアル・ワトソンは、1939年アフリカ・モザンビークに生まれ、2008年オーストラリアのクィーンズランドで亡くなった。70歳を迎える前に逝った。『エレファントム』(木楽舎)の巻末にある作品リストには28点があげられている。末筆となる『思考する豚』と『エレファントム』を読んだ。
 『思考する豚』巻末「解説」で福岡伸一
p356//ワトソンは生涯、激しい批判にさらされた人である。オカルティスト。疑似科学。ニューエイジ。あり得ないことを科学の装いを凝らしてほんとうのように書いた人物。
 それはそのままそのとおりである。しかし、//と、続く。このことは、前回も記した。

 ダマされないよう用心して『エレファントム』を読んだ。彼は、コンラート・ローレンツに会い、デズモンド・モリスと職場を同じにしていたときがあった。れっきとした動物行動学者だ。豚に続いて、「象」の概念が崩壊した(「概念」というほどのものは平凡すぎた)。
 キチキチキチと警戒音を鳴らしながらスズメが足元に舞い降りた。スズメの「ことば」に聞こえてきた。チュン、チュンともジュジュともスズメは鳴く。もっと言葉があるかもしれない。フェロモンによる通信は、人間(ヒト)にも備わっているのかもしれない。わたしは、オカルティズムの縁(ふち)にいるのかもしれない。

 かつて、カーラジオで耳にした話題。──インドで、象が走る列車に突進したという。衝突したのかどうか、覚えていない。「子象が列車に跳ねられたから」を、印象深く覚えていた。ワトソンの本を読み、家族を守る母象の強い意志を知ったから合点がいく。
 2021年、中国で象が行進して避難騒ぎがあった。それも、なんとなくわかる。

 さらに2015年1月27日、防災訓練のサイレンに脅える幼児に出会ったことにも説明がつけられそうになった。場所は石巻市の保育園。原発災害を想定した訓練で、サイレンが鳴らされているときに私は園庭にいた。幼児が行き場を失ったようにうろたえている。神戸では見たことのない表情をしている。あきらか、何かに脅えている。津波を体験したとしても記憶を呼び出せるのだろうか。
 母象は子象に危険から身を守るすべを教えているか、または、脳の対応箇所(辺縁系)に学習させるしくみがあるという。これは、人間(ヒト)にも備わっている。

 ゾウがヒントで、再び考える契機になるとは……。

2023.6.15記す

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