||||| 大脳基底核に関心をもつ理由 |||

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大脳基底核 だいのうきていかく

 サル山に行くと、赤ちゃんのサルが母猿にしがみついている。毛むくじゃらだからママをつかみやすいから、と思うけれど、握力がそれなりにあるのかもしれない。生まれたばかりのヤギの赤ちゃんは15分後には立ち上がっている。それに比べて、ヒトの赤ちゃんは、立ち上がるのに1年かかるし、もみじに喩えられる手はママどころか何もつかめそうにない。ヤギさんは猛獣から逃げるためには早くから足を丈夫にしておかなくてはならない。サルの場合は、ママから離れなければまずは大丈夫。

 チンパンジー、オランウータン、ゴリラらと同じ仲間だったヒトは、彼らより賢くなることを約束されたため、立ち上がることを犠牲にし、ママが育ててくれる絶対信頼関係をもとにこの世に現れた。大きくなることが宿命の脳を優先したからだ。「古い脳」に「新しい脳」が加わって脳は大きくなった。関心をもつまでに気づいたことは、古い脳の、大脳基底核のはたらき。

 前頭葉だとか、大脳皮質は、一度ならず幾度も耳にしたり文字にふれたことと思う。人類の繁栄を約束したのは、前頭葉や大脳皮質という摩訶不思議な働きによる。しかしながら、この部分より”奥深く”にあるのが大脳基底核だ。生まれたばかりから働いている脳の活躍部分はこの大脳基底核らしい。
 「知ることは感じることの半分も重要でない」と言ったのはレイチェル・カーソン。彼女の言う「感じる」は大脳皮質に及ぶ感性と思うが、これを支えているのは大脳基底核の働きが先にあるからだ。
 育ちに個人差があるのは当然だが、順序は同じ。寝返りを打ち、這い這いし、立ち上がる。デズモンド・モリス『裸のサル』に「なぐり書き」の記述があり驚いた。
//約1歳半で現われる。しかし、大胆で、自信にあふれた多量のなぐり書きがさかんになるのは、満2歳の誕生日以後である。//文庫版p158
 将来の画家も初めは「なぐり書き」だろう。「なぐり書き」の機序、芸術家への道をモリスが触れている。着目におそれいる。「なぐり書き」を「遊び」の範疇にいれ、「遊び」が大脳皮質のダイナミズムを実現する。

 知能指数で評価の対象になりそうなところはAIは味方にも敵にもなりそうだが、大脳基底核のはたらきはAIを寄せつけないだろう。そうあって欲しいと願う自分がいる。大脳基底核の成り立ちは、AIなんかに負けない、寄せつけない。

 脳の研究は日々進歩している。脳の本を読むとき、今世紀になってからの本か、1990年以降か、見極めて読む。古いからこそ役立つ知識もある。かつては、脳のはたらきにおいて「脳機能局在」が発見されるに従って、それらが強調されてきた。服用するクスリが効くような説明がされたりもする。しかし、ここは要注意で、実際の働きは単純(局在)に説明がつくようなものでなく、脳全体がネットワークを形成している。解明はまだまだこれからのようで今後に新説が飛び出すかもしれない。※「神経神話」

 ヒトの脳は哺乳類発生に起原がある「古い脳」からホモ・サピエンスを象徴する「新しい脳」があり、この新旧間にもネットワークが存在している。脳機能局在論を支持する局在箇所の名称は、シロートにはなかなか難しい。「扁桃核へんとうかく」は上述した大脳基底核に似たはたらきがあり、扁桃核ではなく扁桃体という名で説明されたり理解の壁になったりする。さらに、扁桃核は、大脳基底核より新しい部位で説明されたり、理解しようとする側としては迷路に入りこんでしまう。
 これを整理するために、「新しい脳/古い脳」の流れで把握しておくことが望ましいと思い、そのようにまとめた(上図)。

 学生に対する試験で「遊びはなぜ重要か?」を課題にしているが、わたし自身は「大脳基底核のはたらき」に関心が向いてしまっている。
 母と父の愛を受け、「遊び」に夢中になることで、大脳基底核が十分に活躍し、扁桃核に脳内メッセージを送る。生を受け少なくとも7歳までは、こうして子どもは育つとわたしは確信に似た心証を得る。

2023.7.1記す

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