||||| 神経細胞のつながり:脳の可塑性 |||

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ソフトウェアとしての脳神経
そして、メインテナンス

脳の可塑性
化学シナプスと電気シナプス
グリア細胞
脳の「すきま」
神経細胞の外(すきま)の、はたらき

(1)脳研究21世紀:方法と歴史
(2)新しい脳・古い脳:脳は鉄壁
(3)神経細胞のつながり:脳の可塑性
(4)気づきこころ

神経細胞(ニューロン)と、情報の流れ

脳をつくる細胞

細胞体:核のある部分
……細胞としては大きく、数十~百ミクロン × 1000億個
情報の受け手:受容体:樹状突起(スパイン)
情報の流れ→ 細胞体 →軸索 →軸索の末端 →ほかの神経細胞
・神経細胞 内……電気信号
・神経細胞 間……「すきま」があって(化学信号=神経伝達物質)※
※p95 三上章允『脳の教科書』
//細胞の間の接合部であるシナプスには、すき間がなく、お互いの細胞質がつながった電気シナプスもあります。//
「すきま」を「シナプス」と呼ぶ
情報の送り手:軸索末端:軸索……長いもので1ミリ
軸索末端のシナプスから樹状突起のシナプスに神経伝達物質が送られる
グリア細胞
+1: アストロサイト(星状グリア)
+2: オリゴデンドログリア……絶縁性の構造をつくる
+3: ミクログリア

養老孟司『唯脳論』文庫 p69
//神経の〔樹状〕突起のうち、興奮を次に伝達するものは、ほぼ一本と考えてよい。これを軸索と呼ぶ。この一本は、途中で側枝を出すことはあり得るものの、末端近くで多くの分岐を示し、シナプスを形成する。//
同p68
//一個の神経細胞に何個のシナプスがあるか、それはよくわからない。しかし、大きな神経細胞では、その数が数千に達すると言われる。個々のシナプスの大きさはさまざまだが、多くの場合、1ミクロン程度、つまり1ミリの千分の一くらいである。神経細胞は細胞としては大きく、数十~百ミクロンある。それが多数の樹状突起を出すので、シナプスが存在可能な表面積はかなり大きい。//
同p69
//脳は複雑怪奇な構造をしているが、個々の神経細胞の機能からすれば、複雑ではない//……//興奮するか、抑制される。それだけである。//
※//複雑怪奇なのは、//……//記憶や、心理や、計算や、夢が生じる// が、どうしてなのか、である。

同p54
//脳とは、脊髄の頭方の先端部分が膨らんだものとも言える。この膨らみがないのは、ナメクジウオの神経系である。ナメクジウオは無頭類と言うくらいで、そもそも頭がないから、脳と脊髄の区別もない。全部が脊髄と言ってもいい。//
※ナメクジウオ……//約5億4200万年前、地球上に「神経管」とよばれる原始の脳をもつ、脊椎動物の祖先// 『脳 大図鑑』p8

脳の可塑性

OECD教育研究革新センター/編著『脳からみた学習』明石書店
p175
//脳を作り直す作業は、「脳の可塑性」という言葉でまとめられ、ニューロンのシナプスの形成、刈り込み、発達、変異が挙げられる。多数の研究によって、ニューロンとシナプスの数に関する脳の可塑性は一生続くことが解明されている。//

三上章允『脳の教科書』ブルーバックス 2022年
p103
//脳は経験によって変化し、その変化が長くのこる特徴を持っています。このような特徴を「脳の可塑性」と呼んでいます。//
p105
//脳では、よく使われたシナプスの伝達効率が高まります。その結果、活動しやすい神経細胞のネットワークがのこされていきます〔脳の可塑性〕。このように脳の変化がのこされたものが、記憶や学習です。//
p109
//学習や適応による変化はもっぱらシナプスで起きていると考えられます。//
※としながらも、//オトナのサルをはじめとする哺乳類//の海馬で、//神経細胞の新生が見られ//ている、としている。したがって、この//新生神経細胞が学習の役割を担っている可能性がある//としている。

p218
//生物は一般に障害からの修復能力を持っています。たとえば、ヒトの指の表面の傷、真皮に達しない傷は数週間の間にあとかたもなく修復されます。真皮に達する深い傷でも瘢痕(=傷跡)はのこりますが修復できます。脳の場合も損傷からの回復能力をあるていど備えています。多細胞生物の修復の過程では、多くの場合新しい細胞が新生することにより修復がおこなわれます。しかし、脳、とくに高次機能を担う大脳新皮質では、成人になってからは神経細胞の新生はほとんどありません。神経細胞の新生は嗅球や海馬などに限られています。脳の機能の修復過程には細胞ではなく、神経細胞の突起である軸索の伸長、シナプスの形成が重要な役割を担っています。//
p219
//末梢の障害によって大脳皮質の神経細胞にシナプスを介してつながっていた情報が消失すると、//
p220
//空白部分〔消失したのは末梢部分から情報を受けとっていた大脳皮質領域が空白部分になるの意〕の周囲に入っていた軸索の枝が空白領域の神経細胞に新しいシナプスをつくってつながり、空白を埋めます。//
※これが「リハビリテーションの機序」。さらに……
p221
//いっぽう、大脳皮質そのものが脳梗塞や脳出血などによって損傷したときも、大脳皮質の場所と体の位置との対応の再配置が起こります。この場合は、損傷前には末梢からの信号を受けとっていた大脳皮質の領域の一部が消失するので、行き先を失った末梢からの信号が周囲の残った大脳皮質に入りこむことによって大脳皮質の地図の再配置が起こります。

養老孟司『唯脳論』文庫 p182
//よく脳の可塑性と言うが、極端に可塑性なものは、要するに形がないと同じことである。解剖学的考察の対象にはならない。//

化学シナプスと電気シナプス

 三上章允『脳の教科書』ブルーバックス 2022年。
 この本では、「シナプス」に「化学」または「電気」を冠し、化学シナプスまたは電気シナプスとしている。類書では「化学シナプス」という表記を見ない。「化学シナプス=シナプス」である。そして、化学シナプスにおいては「すき間」があり、伝達物質のはたらきがある。
p96
//電気シナプスは、はじめは甲殻類などの無脊椎動物や、鳥や魚などの比較的下等な脊椎動物で発見されたので、哺乳類では主要な役割を果たしていないと考えられた時期もありました。しかし、最近は哺乳類でも見つかっており、その役割が注目されています。//
p202
//隣接する心筋細胞は、介在板と呼ばれる細胞間結合組織で結合しています。介在板は細胞同士が小さい無数の孔で接続する、ギャップ結合と呼ばれる細胞間接着装置の一種で、電気シナプスと同じしくみです。細胞質がつながっているため、接続する隣の細胞が興奮すると、その興奮が接続する細胞にほとんど遅れなく伝わります。心臓が一度に収縮し血液を押し出すためには、こうしたしくみが必要です。//

毛内拡『脳を司る「脳」』ブルーバックス 2020年。
 この本の第5章「脳はシナプス以外でも”会話”している?」(p165~201)の冒頭
p166
//じつは脳の中にも、細胞外スペースを電気が拡がって伝わるワイヤレス伝送のようなしくみがあるかもしれないのです。まさか!と思いますか、それともあって当然だと思うでしょうか。脳は、シナプスを介したニューロンの回路によって情報伝達をしていると勉強してきた私にとって、これは結構衝撃的なアイディアでした。//
※本書では、(化学)シナプスを「細胞外スペース」としている。「ワイヤレス伝送」としているので「すき間」の存在を否定していないようだが、これと「電気シナプス」(三上章允)との関係はあるのだろうか?
p201 第5章の「まとめ」(5項目あり)として、その第1番目
//脳の中には、隣接する細胞同士が細胞外電場を利用して”ワイヤレス伝送”をおこなっている可能性がある。このような相互作用は、エファプティック・コミュニケーションと呼ばれている//

細胞外電場

p187
//1980年代におこなわれた実験では、イヌの骨格筋の誘電率を調べた結果、筋繊維の並びに平行に測定した場合と、筋繊維の並びに垂直にした場合では、10倍程度の差があり、平行に測定した場合、低周波領域では、細胞懸濁液の結果と比べて10倍程度大きな値を示すことがわかりました。//

p187
//線維などの方向性によって性質が異なることを異方性と言いますが、異方性があることが、ひょっとしたら私たちが底知れぬ馬鹿力を発揮することができる秘密なのかもしれませんね。//
火事場の馬鹿力

p178 低周波領域
//ラットの海馬のニューロンで得られたパラメータを用いて刺激を与えると、およそ10Hzで応答が最大になりました。//

p179
//たとえるならば、ラジオのように特定の周波数にチューニングして、感受性を高めているのかもしれません。//

p191
//誘電率を高めるには単に長い突起が存在しているだけではなく、十分に隣接していることが必要だということです。//
p192
//細胞外スペースが小さければ電気を蓄えやすい性質を持つということなのです。//
p193
//起きているときは、細胞外スペースを狭くすることで、低周波の細胞外電場に対する応答性を変化させている可能性が考えられます。//

p196
//ニューロンは、10Hz程度の細胞外電場の電気刺激にもっとも強く応答できるようチューニングされている可能性があります。そんなケーブルが密に存在することで、10Hz程度の細胞外電場に対してもっとも電気を蓄えやすい性質を示すようになります。//

p174 アルヴァニタキ 1901年、エジプト生まれのギリシャ人
//アルヴァニタキは1941年に、2本の神経線維が近接している場合、1本の神経線維が活動すると、その影響で近くの神経線維も活動することを発見し、エファプティック・カップリングという現象を提唱しました。//
p175
//現在では、エファプティック・カップリングは、隣接する神経線維同士の電気的な相互作用だけでなく、より一般的に、あらゆる場(環境)の変化によって誘惑されるシナプスを介さない情報伝達全般のことを指すようになってきています。細胞外電場もその1つです。本書ではそれを、エファプティック・コミュニケーションと呼ぶことにします。//
p181
//ここまでは、ニューロンの周囲の環境にある電気刺激(細胞外電場)が、脳にとって無視できないほどのはたらきをしているというエファプティック・コミュニケーションの例を見てきました。//

p185
//電気の通しやすさ電気を蓄える性質は、金属や有機化合物や水と異なり、周波数によってさらに大きく変動するということが示されたのです。
 とくに生体組織が他の物質と比べてユニークな点は、1Hzよりも低い周波数領域において、電気を蓄える性質である誘電率が非常に高い点にあります。//〈中略〉//これはつまり、「生物はどんな金属よりも電気を蓄える性質を持ちうる」ということを意味しています。//

脳の「水」は、生理食塩水か?

p194
//研究者の間では、今でも脳組織を単なる生理食塩水とみなすことが暗黙の了解となっています。おかしいと思いながらも、それを認めざるを得ないというような状況なのです。なぜならば、すでにその前提で書かれた論文がたくさんあるからなのです。//

p182
//一般的には、体の60%以上は水分であると言われています。脳も同様で、おおざっぱに見るとほぼ水分であると考えられます。実際、脳組織を単なる生理食塩水(0.9%の食塩水)だとみなして、モデル化しています。//

p183
//脳波はいろいろな周波数をとることができるため、周波数に応じて電気の通りやすさなどが変化するという性質を脳も持っているとしたら、やはり脳を単なる生理食塩水とみなすことは誤りということになります。//

p188
//もはや脳組織を生理食塩水とみなすのはさすがに無理があります。これは何かの間違いなのでしょうか。いったいどうして脳組織は、低周波領域においてこれほどまでに大きく電気を蓄える性質を示すのでしょうか。//

グリア細胞

毛内拡『脳を司る「脳」』
講談社ブルーバックス 2020年 p30~69

p206 //脳の半分はグリア細胞//

グリア細胞
+ p206 //さまざまな研究成果から、グリア細胞が知性を生み出している可能性//
+ 神経膠(こう)細胞の一種:膠=にかわ
++ p207 //レンガとレンガのすきまに塗るパテのこと//

  • アストロサイト astrocyte 以下、同義語
    • 星状膠細胞 せいじょうこうさいぼう
    • 星状グリア
    • 星状astro
    • アストログリア astroglia
    • マクログリア macroglia
    • 大膠細胞
  • オリゴデンドロサイト oligodendrocyte 以下、同義語
    • オリゴデンドログリア
    • 希突起膠細胞
    • 希突起神経膠細胞
    • 希突起グリア細胞
    • 稀突起膠細胞
    • 稀突起神経膠細胞
    • 稀突起グリア細胞
    • 乏突起膠細胞
    • 乏突起神経膠細胞
    • 乏突起グリア細胞
  • ミクログリア microglia 以下、同義語
    • マイクログリア
    • 小膠細胞
    • Hortega細胞

p51
//シナプス間隙に放出された神経伝達物質は、拡散して隣のニューロンまで届きますが、不要になった伝達物質をシナプス間隙から取り除かないと次の伝達がおこなえません。シナプス間隙に放出された神経伝達物質は、すみやかに分解または取り込まれて排出あるいはリサイクルされます。もし、分解や取り込みがうまくいかないと、いつまでも興奮が持続してしまうことになり、てんかんなどを引き起こしてしまいます。
 このように、たった20~40nmしかないシナプス間隙においてもドラマチックな現象が展開されています。速くて精密なシナプス伝達を担う重要な場所として、非常に多くの研究がなされています。//

p55 伝達物質放出のしくみ解説の中で……
//この状態で放出の瞬間を今か今かと待ち構えているわけです。このしくみのおかげで、活動電位が到達してから信号が伝達されるまでにかかる時間は1~2ミリ秒と、最小限のロスで、速い伝達を実現しています。
 放出が完了して空になったシナプス小胞は、リサイクルされると考えられており//

p56
//電気信号から化学信号に情報の「質」を変化させるシナプス伝達を担う神経伝達物質は、じつに100種類以上が報告されています。いつどんな伝達物質をどのように使い分けているのかは、まだわかっていません。//

p57
//一説によると、怒りっぽい、楽天的などといった性格も、どの神経伝達物質がどれくらいの割合で放出されるか、というバランスで決まっているとも言われますが、その真偽は不明です。//

p60~69要旨
シナプス伝達の効率の変化(つまり、シナプス可塑性)が、学習や記憶の基礎になっている

グリア細胞の 怪:快

脳の「すきま」

毛内拡『面白くて眠れなくなる脳科学』2022年
p154 //大事なのは「隙間」だった//
//脳が柔軟に変化するためには、シナプスが大きくなるための隙間が重要であるというお話をしました。
 シナプスにはシナプス間隙と呼ばれる隙間が存在していることが知られています。電子顕微鏡の脳画像を見ると、どこに隙間があるのかというくらい、びっしりと細胞で埋め尽くされていますが、実際、生きたマウスの脳で測定してみると、脳の20%くらいは隙間であることがわかっています。
 以前の電子顕微鏡で観察する際には、真空で観察する必要があるため、脱水と呼ばれる処理を行ないます。この過程で隙間のスペースが失われてしまっていたと考えられています。
 2017年にヨアヒム・フランクらがノーベル化学賞を受賞した、低温(クライオ)電子顕微鏡技術では、脱水する必要がないため、より生体に近い条件で観察できるため、この方法で、脳細胞の隙間の空間の姿が浮き彫りになってきました。
 脳細胞の隙間の空間は、「細胞外スペース」と呼ばれています。
 観察の結果この細胞外スペースは脳の20%を占めることがわかったのです。
 脳組織の5分の1も空洞があると思うと、結構スカスカなのかもしれないと思いますが、では細胞外スペースは何のためにあるのでしょうか。
 脳の情報伝達には、シナプスを利用した電話線のような一対一の素早い方法があることはすでに見てきたとおりですが、それ以外にも、放出された脳内物質が拡散によって広い範囲を同時に活性化する方法があります。このような物質は、神経修飾物質と呼ばれており、これまでご紹介してきたノルアドレナリンやセロトニン、ドーパミン、アセチルコリンなどがあります。これらの物質は、拡散によって比較的長い距離を伝達すると考えられており、このような伝達方式は、拡散性伝達と呼ばれています。//

p157
//これまでの細胞外スペースを見るためには、電子顕微鏡などの固定した脳切片で見るしかありませんでしたが、フランスの研究者らが開発した、超解像顕微鏡を利用したシステム(SUSHI法)では、生きた状態の脳切片で、細胞外スペースの様子を見ることができます。超解像顕微鏡は、2014年にノーベル化学賞を受賞した技術で、これまでの限界を超えてさらに微小な構造を観察できる顕微鏡です。
 細胞外スペースは、徐々にその姿を現しつつあり、その重要性が明らかになってきています。//

下の図 //脳細胞の隙間// 毛内拡『脳を司る「脳」』p116

細胞外スペース(脳のすきま)
──脳科学最後のフロンティア──

毛内拡『脳を司る「脳」』講談社ブルーバックス 2020年 p100~134

p108
//脳における間質の存在は、神経科学では古くから知られていて、細々と研究が続けられていました。それが近年の測定方法の進歩によって、新しいはたらきが見えてきて、脳の間質、つまり脳の細胞外スペースが重要な役割を果たしている可能性が出てきたのです。こうした研究は、アメリカのチャールズ・ニコルソンを中心としておこなわれてきました。彼は総説論文の中で、脳の細胞外スペースは「神経科学最後のフロンティア」であると言っています。//

間質 かんしつ

  • 体重比
    • 皮膚…約16%
    • 間質…約20%

p105
//従来、人体最大の器官は「皮膚」であると考えられてきました。ところが、これまでの常識を覆す驚くべき報告がありました。これだけ医学が発展したというのにもかかわらず、アメリカの研究者〔※上記〕が、最近になってようやく「人体最大の器官」を発見したというのです。それは間質と呼ばれる、体組織と体組織の「すきま」です。//

p105
//間質は、皮膚の下や臓器、筋肉など、体のあらゆる部分の「すきま」に存在しています。//

p106
//今回の研究では、間質は「すきま」といっても何もない乾いたスペースなのではなく、間質液と呼ばれる無色透明の体液で満たされていることがわかりました。この液体が流動し、老廃物を排泄したり、体の免疫機能を支えるリンパ系へと液体を運んでいて、間質はその通り道になっていると考えられます。したがって、間質の存在は不可欠であり、もはや「器官」と呼んでも良いのではないかと、研究者らは主張しています。//
※→ 脳の間質(すきま | 細胞外スペース)

細胞外スペースの「スペース」

p112
//テトラメチルアンモニウムを使用して、さまざまな状態のマウスやラットの脳組織の細胞外スペースが測定されました。その結果、脳の細胞外スペースの体積は一定ではなく、脳の状態に応じて、あるいはライフステージによって、伸び縮みすることがわかってきたのです。//

  • たとえば……(マウスやラットの場合)p113
    • 寝ているとき、麻酔下……(脳全体の;以下同じ)約23%
    • 覚醒下……14%
    • 脳梗塞などの理由で虚血状態……5%
    • 若い未成熟の発達期……約40%
    • 老齢動物……13~16%
  • //細胞外スペースが減少するということは、逆に脳の中の細胞が膨らんだ状態になっているという可能性が考えられます。しかしながら、脳の中のニューロンなのか、グリア細胞なのか、どの細胞が膨らんでいるのかについてはまだ完全にはわかっていません。//

p121
//細胞外スペースの体積の制御にもノルアドレナリンが関与していることが報告されていますが、細胞外スペースの減少が何に起因するかはまだ完全には理解されていません。近隣のニューロンが膨らむという説と、アストロサイトが膨らむという説と、その両方という説があり、決着はついていません。//

p119
//ニューロンの電気的な活動以外のはたらきが私たちの「気分」を決める、つまり“脳のモード”を調整しているとも言えると私は考えています。//

脳の「すきま」……旧来の表記

//中枢神経系は、頭蓋骨および脊椎で囲まれた上下に長い中空の領域に収まっています。頭蓋骨の作る腔(くう)(頭蓋腔といいます)は丸く大きく、脊椎骨が作る腔(脊椎管とよびます)は狭く長くなっています。これは中枢神経系の先端部(頭側とか前方ともいいます)が大きく発達し、それ以外の部分はそれほど発達しないままであることを示しています。中枢神経系のうち、頭蓋腔に収まっている部分をまとめて脳と呼び、脊椎管に収まっている部分を脊髄と呼びます。脊髄は第1頸椎からだいたい第1腰椎のあたりまで長く伸びています。//山鳥重『心は何でできているのか』2011年 ♠p66

♠p106
//では、どうしてこれまで間質は見逃されてきたのでしょうか? 顕微鏡を使った従来の観察法では、組織標本の腐敗を防ぐためにホルムアルデヒドなどの化学物質で処理する必要がありました。この過程で、間質液は流出してしまいます。間質液が流出すると、コラーゲンとエラスチンで構成される編目構造が破壊され、結果として、ただの厚いかたまりのように見えていました。//

ヨーロッパ古代、精気(たましい)は空気に由来していた

♠p38 1000年にわたり欧州で席捲した医師ガレノス(129年頃~199年頃)の言説
//たましいについては、そのもっとも重要なエッセンスは空気に由来し、空気が脳室で生命精気と混ぜられて、精神精気になるというのですから、ギリシア時代とあまり変わりません。
 先のアリストテレスの、脳中央部には空洞がある、という記載が脳室についての最初の記載だそうですが、ガレノスの時代には(ガレノスが言いだしっぺかどうかははっきりしません)、この脳室をたましいの住み処と考えるのが医学の常識になっていたようです。たましいのもっとも重要な部分は空中に瀰漫〔びまん〕していると考えられていたのですから、大脳中央の空所である脳室は、たましいの収まる場所としてはまさにうってつけでした。//

♠p38
//ヨーロッパの医学的停滞時代に、一貫して信じられ続けたのが、こころの働きは脳室にあるという考えです。脳には3つの脳室があるとし、これら3つの脳室がこころの働きを分担するという、いわゆる3脳室説です。脳室ドクトリンと呼ばれています。//
♠p39
//この空洞に空気は存在せず、脳脊髄液がゆっくり流れています。//

♠p77
//この網状の構造が、頭側から順番に、側脳室、第3脳室、中脳水道、第4脳室と呼ばれる中空部のまわりをびっしりと取り巻いています。//


//脳脊髄液は、脈絡叢によって血液が濾過されてできます。この液は脊髄から脳表面まで脳室を循環し、髄膜で再吸収され、脳の静脈に排出されます。この脳脊髄液が脳室に満たされることにより、柔軟な衝撃吸収空間ができます。よって、頭蓋骨や脊柱と脳が接触することなく、神経系を支えることができるのです。//フロイド・E・ブルーム他『新脳の探検 上』講談社ブルーバックス 2004年 ♣p120

♣p119
//脳脊髄液の循環がもつ機能はよくわかっていませんが、//

♣p113
//研究者たちの大変な努力にもかかわらず、大部分のグリアの機能はわかっていません。科学者たちは漠然と、ニューロンを助ける仕事をすると考えています。//
♣p113
//星状グリアは、シナプス機能の調節に非常に重要なある種の信号をつくり出す役割もはたしているのかもしれません。//

神経細胞の外(すきま)の、はたらき

毛内拡『脳を司る「脳」』講談社ブルーバックス 2020年 p100~134

p119
//ニューロンの電気的な活動は、コンピュータのようなデジタル信号処理と捉えることができますが、広範囲調節系は、ゆっくりかつぼんやりとしたアナログ的な伝達です。この点において、脳はコンピュータとは本質的に異なります。ひょっとするとこのアナログ伝達こそが、生き物らしさや「こころのはたらき」を担っているのかもしれません。//

『脳 大図鑑』p16要約
 シナプス経由で発生した電気信号を「シナプス電位」と称し、軸索を伝わる電気信号は「活動電位」と言う。活動電位はデジタル信号で一定の大きさだが、シナプス電位はニューロン間を伝わることで定量でないことから、アナログ信号と表現している(一定量を超えたとき「ニューロンの発火」という)。ここまではシナプスが関与しているが、毛内拡の言う指摘はシナプスが関与しない広範囲の活動をさしている。

p117
//細胞外スペースの
広範囲調節系……(脳の)広範囲の活動を同時に活性化させる
神経修飾物質……細胞外スペースの中で(//シナプスを形成せず//p122)拡散し(//拡散性伝達//p122)、(脳の)広範囲の活動を調節する物質
1:ノルアドレナリン
2:セロトニン
3:ドーパミン
4:アセチルコリン

本書では「神経伝達物質」(p51)に対して「神経修飾物質」を区別している。多くの類書では、神経伝達物質=神経修飾物質として扱い、かつ、神経伝達物質に含めている。毛内拡は「神経修飾物質」と特定することに意味があるようだ。

絶妙なモード調節(こころのはたらき)のしくみ
》4つの神経修飾物質《

1: ノルアドレナリン
……脳のアラートシステム(予期しない刺激に対応)

毛内拡『脳を司る「脳」』p120

p119
//ノルアドレナリンを産出するノルアドレナリン作動性ニューロンの核は、脳幹に存在する青班核(せいはんかく)と呼ばれる部位に位置しています。青班核は左右1つずつあって、ヒトでは約1万2000個のニューロンが存在しており、その一つ一つが25万個以上のシナプスと接触しています。このことからも、ノルアドレナリンがいかに広範囲の脳機能を調節しているかがわかるでしょう。//

  • ノルアドレナリンのはたらき
    • //未知の環境に置かれたときにノルアドレナリンの放出が促進される//p120
      • //脳の覚醒水準を高めて注意を集中し、目新しい環境(新奇環境)に置かれたときに生じる不安やストレスなどの気分を制御しています。//p121
    • //環境に適応するために、記憶を活性化し、学習効率を高める作用も持っていると言われています。//p121
    • //脳がフル回転するのに備えて、脳に蓄えられているエネルギーを分解して利用するはたらきもあります。//p121
    • 火事場の馬鹿力
  • はたらきが異常になると──
    • //常にアラートシステムが亢進したような状態になり、ストレス関連障害である外傷性ストレス障害(PTSD)を患うことになります。//p121
    • //ノルアドレナリン作動性ニューロンが活発すぎると注意欠如・多動性障害(ADHD)になり、少なすぎると覚醒レベルが落ち、眠気が生じることになります。//p121
    • //外部環境の変化だけでなく、体の内部環境の危機的な変化にも対応しています。//p121
      • //血管が詰まって酸素の供給が滞る低酸素状態に陥ったり、外傷などによって出血が生じたり、飢餓によって低血糖になると、ノルアドレナリンの放出が促進されることが報告されています。//p121

p120
//ノルアドレナリンは、アミノ酸のチロシンから合成され、さまざまな工程を経てドーパミンとなり、その後、ノルアドレナリンへと変化します。ノルアドレナリンはさらにアドレナリンへと変化します。
 ノルアドレナリンは脳で作用するのに対して、アドレナリンは全身に作用します。//
ドーパミン……//ノルアドレナリンの前駆体//p125という表現も

2: セロトニン
……うつ病(気分や不安)とも関係

毛内拡『脳を司る「脳」』p123
  • セロトニンのはたらき
    • //本能的な行動を制御//p122
      • //血圧調節体温調節摂食行動性行動睡眠覚醒のサイクル概日リズム攻撃性や不安などの情動活動をはじめとする、生存に必須の機能をいくつも制御しています。//p122
  • うつ病との関連
    • //多くの抗うつ剤はセロトニン量の制御をターゲットとしています。//p122
      • //一般的にうつ病と呼ばれる気分障害や不安障害では、脳内のセロトニン代謝物が減少している//p124
      • //ある種の麻薬もセロトニンの放出を過剰にするはたらき//p122
  • セロトニン×ノルアドレナリン p122
    • ノルアドレナリン……//痛みや騒音、恐怖などの情動刺激や、低酸素、低血糖になると//急上昇
    • セロトニン……痛みなどの刺激に対して、//ビクともせずに淡々と規則的な活動を続けます。//
      • しかし……//歩行や咀嚼、呼吸、マウスなどの動物で見られるグルーミング(毛づくろい)のような規則正しいリズミカルな行動をすると、//活動が増強する。
    • 睡眠の場合……覚醒サイクルに重要な役割
      • ノンレム睡眠……ノルアドレナリン、セロトニンとも減弱
      • レム睡眠……両方とも完全に消失
      • 覚醒時……セロトニンは、//きわめて規則的な活動をしていて//p122

3: ドーパミン
……やる気やモチベーション、感情を左右。高度な知性。

毛内拡『脳を司る「脳」』p126

p127
//ドーパミンが作用する淡蒼球(たんそうきゅう)と呼ばれる部分は、報酬の量を予測し、やる気をコントロールすることから、脳の「やる気スイッチ」とも呼ばれています。意欲やモチベーションというのは、のちに来るであろう報酬を予測できるからこそ持続できるのであり、高度な「知性」だと言えます。//

  • ドーパミンのはたらき
    • 運動機能……//自分の意思で体を動かす随意運動開始に関わっている//p125
      • //パーキンソン病との関連//p125
      • //姿勢の維持や、適切な行動を選択するなどの細やかな運動の制御//p125
    • 情動機能……感情(快不快、嫌悪や恐怖、喜怒哀楽など)

//腹側被骸野(ふくそくひがいや)に存在するドーパミン作動性ニューロンは、大脳皮質を含む広範囲に投射しています。//(上図)
//情動や報酬行動に関与していて、統合失調症との関連が報告されています。//127 (※//ドーパミン仮説//p128)

p127 報酬系
//報酬行動とは、空腹時に食事をすることや性行動など、本能が満たされる際の快感や、これらの快感をより多く得ようとするために将来を予測した結果生じるやる気などと関連する行動のことです。また記憶とも密接に関与していて、受けた感覚情報を過去のものと参照して、評価することにも関わっています。//

p127
//たとえば、ある食べ物がとても美味しくて良い気持ちになったとします。脳は素早くそれを学習し、次に同じ「報酬」を得ようとして、報酬が最大になるように適切な行動をとる、すなわち好きなものばかりを食べるようになるというわけです。//

4: アセチルコリン
……記憶や学習、モードチェンジも!

毛内拡『脳を司る「脳」』p129

p130 アセチルコリンは、
//シータ波のリズムの発生に重要であることが報告されています。//
……//作業記憶のような短期記憶は、睡眠中に長期記憶として変換されているという考え方があるため、一時的な記憶が長期記憶として定着するのに、シータ波が何らかの役割を果たしていると考えられているのです。

  • アセチルコリンのはたらき
    • //筋肉を動かす末梢神経と筋肉の接合部ではたらく//p129
      • //1921年に最初に同定された神経伝達物質//ブルーム『新脳の探検 上』p96
    • //筋肉だけでなく、脳の中でもはたらきを持っていて、とくに大脳皮質や海馬と呼ばれる脳部位の情報伝達に関与している//p129
      • //すなわち、学習や記憶に重要なはたらきをしている//p129

p129
//マイネルト基底核は、アルツハイマー病との関連がよく知られています。大半のアルツハイマー病の患者では、マイネルト基底核のアセチルコリン作動性ニューロンの数が少なくなっている「脱落」と呼ばれる現象が報告されています。//

p130
//麻酔下のノンレム睡眠中の動物(マウス・ラット)に痛み刺激を与えると、脳波が徐波から一時的に速波へとシフトします。このとき、前脳基底部のアセチルコリン作動性ニューロンの活動頻度が上昇することが報告されていて、アセチルコリンのはたらきが脳全体のモードチェンジを担っていると考えられます。//

2023.2.11記す

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