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ハードウェアとしての脳神経
特殊な脳のアイデンティティー

新しい脳・古い脳
脳は鉄壁
間質液 | 脳脊髄液
血管周囲腔 | 血液脳関門
大脳皮質
自律神経系
ホルモン
脳(にんげん)の未来像

(1)脳研究21世紀:方法と歴史
(2)新しい脳・古い脳:脳は鉄壁
(3)神経細胞のつながり:脳の可塑性
(4)気づきこころ

動的平衡(福岡伸一)

新しい脳・古い脳

三上章充『脳の教科書』ブルーバックス
+ 講談社 2022年

p52
//爬虫類では大脳皮質はほとんど存在せず、大脳基底核〔A〕が大脳のほとんどを占めます。//

(参考)爬虫類ではなく、両生類から哺乳類は現れた

p52
//大脳基底核と脳幹の支配を受ける爬虫類では、生まれつき決まっている紋切り型の行動をしめします。敵に対する恐怖や威嚇・攻撃などの情動行動も「知的」な判断に基づくというよりは、反射的なものです。//
※ここでいう「大脳皮質」はBのことかもしれない。Cの「新皮質」から「新」を除き、Bを「大脳皮質」という場合も多い。

p79 毛内拡『脳を司る「脳」』
//大脳皮質のことを、他の脳部位と比べて進化的に新しいことを強調するために大脳新皮質と呼ぶこともありますが、本書では大脳皮質と記述することにします。//

p82,83 山田規畝子『壊れた脳も学習する』角川ソフィア文庫 2011年
p82
//人間の脳には、進化の過程において古い部分と新しい部分が共存しているのはよく知られていることです。古い脳には自分の身を守る機能として、一度危険な目に遭うと、同じ失敗を繰り返さないよう、怖かったもの、嫌だと思ったものに対して、特にそれを嫌悪する記憶のシステムがあります。
 例えば火を見れば危険を感じて逃げるとか、酸っぱいものは食べないとかいったことですが、これはあまり発達していない脳でも、同じ状況に遭遇すると理屈であれこれ考え込まなくても条件反射的に危険を回避できる、本能的とも言える危険回避機構です。実際に起こったことの記憶には違いないのですが、それはまさに”印象の記憶”であり、「嫌だなあ」という”感情の記憶”です。//
p83 扁桃核
//そんなふうにさせているのは、最も原始的な脳の記憶を焼きつけると言われる「扁桃核(へんとうかく)」という部分の働きであると私は考えています。//
※幼児には怖い体験は禁物で、嫌なことをさせないと私は主張している。
マシュー・リーバーマン『21世紀の脳科学』p174
//扁桃体は、恐怖や不安といったネガティブな情動体験に敏感に反応する。//
※この文のあと、自閉症と扁桃体との関係が記されている。

三上章充『脳の教科書』第1章「脳の全体像」を基に作成

※山鳥重『心は何でできているか』p67
//大脳、間脳、中脳、橋〔きょう〕、小脳、延髄などという名前は、脳をその外形的特徴から区別してつけたもので、実際には、中枢神経系は1つの連続した組織であり、名前のようにぶつぶつと切れているわけではない//
※右の絵(いまきみち)は、山田真『ワハハ先生のからだの話』2003年より。

p27 要約
……大脳から脳幹まで
脳神経……脳から出る神経
脊髄神経……脊髄から出る神経
脊髄神経(2)……脊髄神経は、脊髄から出たあと、いくつかの神経が新しい組み合わせをつくり、名前も変わる

※山鳥重『心は何でできているか』p66
//中枢神経系のうち、頭蓋腔に収まっている部分をまとめてと呼び、脊椎管に収まっている部分を脊髄と呼びます。//
と言い、
//中枢神経系の先端部(頭部とか前方ともいいます)が大きく発達し、それ以外の部分がそれほど発達しないままであることを示しています。//と説明をつけ、脳は”あいまい”なのだとしている。さらに、
//脳は、狭い意味では大脳と間脳を指し、広い意味では、大脳・間脳・小脳・脳幹を指します。//とし、山鳥重は、//脳を後者の意味で用いています。//と結ぶ。
p65 山鳥重
//人間が1つの統合体として存在することを可能にし、1つひとつの行為の主体であり続けることを可能にしているのが中枢神経系です。//
p65 山鳥重 末梢神経系のはたらき 要約
+ 中枢神経系を出ていく…遠心性神経(=運動神経…骨格筋を支配)
+ 中枢神経系へ向かう……求心性神経(=感覚神経…モニター)

p28
//視床は、感覚情報や運動情報を中継する役割を持っています。いっぽう、視床下部は自律神経系の中枢、本能行動や情動行動の中枢としてはたらくほか、内分泌系もコントロールしています。//
p59
//視床の役割のひとつは、感覚器からの感覚情報を大脳皮質に伝える中継点としての役割です。視床を介さずに直接大脳皮質に送られる嗅覚をのぞき、視覚、聴覚、体性感覚、味覚の感覚情報は視床にいったん立ち寄り、視床の神経細胞が情報を中継して大脳皮質に伝えます。//

p53
//私たちヒトをはじめ、霊長類などの高等な哺乳類では大脳新皮質が発達し、古い皮質と大脳基底核を覆います。ヒトでは、大脳新皮質がよく発達したために古い皮質と大脳基底核は大脳の表面からは見えません。しかし、進化の過程で脳の古い部分は捨てさられることなく、その内部にのこっていて、高等な哺乳類も脳の内部には爬虫類の脳や初期の下等な哺乳類の脳を持っています。//

p57
//大脳基底核の異常については、さまざまな病気が知られており、それらの病気でひきおこされる運動機能の障害もさまざまです。それらの中でよく知られていて、発症率も高い病気はパーキンソン病です。黒質と呼ばれる神経核にあるドーパミンという神経伝達物質を出す神経細胞が死んでいく病気です。//

p78
//脳の重さは全体重の2%程度にすぎませんが、全身の血液量の約15%が流れています。全身の血液量は約5Lです。安静時には、この量の血液が約1分で体を循環しています。安静にしているときは消化器系の臓器や腎臓にたくさんの血液が送られています。いっぽう、運動しているときは心臓からの拍出量が増加し、それにともない1分間の循環血液量が増加します。そして、消化器系の臓器や腎臓への循環血液量が減少し、筋肉や皮膚に多くの血液がまわされます。そのようなときでも、脳の循環血液量は安静時と近い値に維持されます。//
※小さいバケツ(5L)1杯分の血液が1分で体を循環する──の表現でよいか?

脳は鉄壁

毛内拡『脳を司る「脳」』講談社ブルーバックス 2020年

髄膜 ずいまく

p40
//髄膜の表面には血管が縦横無尽に張り巡らされていて、ここで出血が起こると血の出口がないため、頭蓋骨の中に溜まって脳組織を圧迫してしまうことで、重大な症状や後遺症を生じてしまいます。//

硬膜……三上章充『脳の教科書』p71
//いちばん外側の硬膜は、メスがあたってもかんたんには切れないほど、頑丈な結合組織の膜です。硬膜は左右の大脳半球の間や大脳と小脳の間にも入りこんでいます。前者は大脳鎌、後者は小脳テントと呼ばれています。//

p41
//厳密な意味では、脳は、軟膜より下の脳実質と呼ばれる組織のことを指します。//

p41
//脳実質より上の髄膜も脳機能に重要な役割を果たしていることがわかってきています。//

p43
//神経線維の上を信号が伝わる速度、すなわち伝導速度は、毎秒30m以上と言われています。いくつもの神経線維をリレーするとしても、感覚が入ってから動き出すまで、1秒以下という非常に素早い運動を生み出すことが可能となるのです。//

p43
//ボールを避けるという行動をとったとき、あたかも自分の意思で「ボールが飛んできて怖かったから避けた」と思いますが、それは脳の錯覚にすぎないという考え方もあります。実際は、飛んできたものがボールだと認識したり「怖かった」と感じるのは、脳の中の情報処理の順番としては最後です。目に留まった何かを認識する視覚情報、筋肉を動かすという運動情報の処理がなされたあとで、「飛んできたものはボールだった」と認識し、「怖かった」などという情動や、ドキドキする、冷や汗をかくといった生理的な反応が引き起こされます。飛んでくるボールが意識に上ってから避けていたのでは「遅すぎる」わけです。そういう意味で私たちは、脳の中で都合よく行動の意味を組み立て直している、とも言えます。//

 このことについては、私には体験があります。小学生のときでした。父に連れられ、映画館で植木等の喜劇映画を観たときです。上映幕にけっこう近づいて観ました。映写が始まってまもなくのこと、なぜか下をむいていて、うつむいていて、ふと顔をあげて映写幕を観たとき、上から、頭上から、私をめがけて何やら落ちてきました。必死というか、ものすごい勢いで椅子に座っていたにもかかわらず身をかがめました。あまりにも突然で強い衝撃だったので、その瞬間をおそらく60年近く経っても覚えています。自分にぶつからず何事もなかったことがとても不思議でした。あとでわかったことは、建設中のビルの上方から鉄骨のようなものが落下してきたのでした。植木等はこれにぶつかり、おかしな人間になったというイントロでした。

間質液 | 脳脊髄液

毛内拡『脳を司る「脳」』講談社ブルーバックス 2020年 p136~164

+ 間質液(細胞間質液、細胞外液とも)
+ 脳脊髄液(髄液とも)

p136 脳の間質液は、
//それ自体が特別なはたらきを持ち、生きている脳の中で重要なプレーヤーとしての役割を果たしている。//
//頭蓋骨の下を流れている無色透明な液体、脳脊髄液が脳組織に染み込んでできています。たとえば間質液が海であるとすると、脳脊髄液は海に注ぐ川の上流に当たります。//

p37
//頭蓋骨という硬い容れ物によって守られていて、文字通り”箱入り”//

p34 「脳の特殊性
//脳というのは、他の臓器と比べても非常にユニークな性質を持っているのです。
 脳という臓器ほど堅牢に守られているものはないでしょう。過剰とも言えるほどの好待遇で、二重三重に外部から守られています。健康な状態では、外部環境とほぼ隔絶していると考えても良いでしょう。//

p100 脳の「すきま」=細胞外スペース脳の間質
//細胞間隙(さいぼうかんげき)と呼ばれ、単なる空間だと思われていたものが、じつは重要なはたらきをになっていた//
p108
//シナプス間隙も細胞外スペース//

p137
//生物の体の環境を一定に保つしくみのことを恒常性といいますが、ヒトも含めて生物にとって体内環境は、「変わらないこと」が重要です。//

p141
//脳細胞をはじめとして、体細胞が活動すると代謝老廃物が発生します。//

p141 体組織
//毛細血管から染み出してきた血漿成分が間質液となり、不要なタンパク質や老廃物を運び、リンバ管へと排泄します。//
p141 間質液
//消化吸収された脂質を運搬するはたらきや、体内に入ってきた病原体からの防御を担う免疫細胞を産出し全身に送り出すなどの重要な役割を担っています。//

p141 既知のリンパ系に対して
//ところが、これまで脳にはいわゆるリンバ管が見つかっておらず、脳にはリンパ排泄のしくみはないと考えられていました。しかし、脳細胞が活動すれば、代謝老廃物は必ず発生します。それをどのように排泄しているのかについては、長年わかっていなかったのです。//

p142 2015年アメリカで、髄膜にリンパ管の実在が実証された。
//厳密な意味では、脳は、軟膜より下の脳実質と呼ばれる組織//(p41)なので、髄膜は脳実質に含まれない。
p142
//依然として、脳内ではどのように老廃物の排泄をおこなっているかの全貌は明らかになっていません。//
p142
//脳脊髄液と間質液が入れ替わることで、脳に溜まった老廃物を排泄しているのではないか──すなわち、脳脊髄液が脳のリンバ排泄とも言うべきメカニズムに関与しているのではないか、という考え方が注目を集めているのです。//

血管周囲腔

p35 血液脳関門 脳を守るもっとも重要なしくみ
//運ばれてくる血液に対するバリア//
p145
//血液脳関門の形成には、脳細胞であるグリア細胞の一種、アストロサイトと呼ばれる細胞が中心的な役割を果たしています。//

毛内拡『脳を司る「脳」』p144

p145 アストロサイト……グリア細胞の一つ
//アストロサイトは、ニューロンとは異なり電気的な活動はせず、シスプスも形成しません。アストロサイトが持つ足突起と呼ばれる微細な突起が、脳血管をくまなく取り囲み、バリアを形成しています。//

p145 アクアポリン4……タンパク質の一つ
//脳の中で脳脊髄液の動きに関与しているとされているのはアクアポリン4というタンパク質です。アクアポリンは、水分子だけを選択的に通過させることができる通り道で、水チャンネルとも呼ばれています。現在までにアクアポリンは13種類が発見されていて、ヒトでもたとえば腎臓における水の交換に重要な役割を果たしていることが知られています。アクアポリンを発見したアメリカのピーター・アグレは、2003年にノーベル化学賞を受賞しました。
 脳の中の主要な水チャンネルはこのアクアポリン4で、腎臓ではたらいていることが知られているのと同じ種類です。//

p145 アクアポリン4と、アストロサイトの足突起
//アクアポリン4がおもしろいのは、脳の中で、ニューロンではなくアストロサイトの、しかも足突起に集中して存在していることです。アストロサイトの足突起は、脳血管をくまなく取り巻いていますから、脳血管のまわりにはびっしりとアクアポリンが整列することになります。//

p147 グリンファティック・システム
//アクアポリン4は、血管周囲腔で水の通り道としてはたらいており、脳脊髄液を動脈側の血管周囲腔から脳の中に送り込み、脳の中から静脈側の血管周囲腔に間質液を送り出すための駆動力を生み出していると考えられています。アクアポリン4は、血管を取り巻いているグリア細胞のアストロサイトの突起にだけ存在していますから、アストロサイトがそのはたらきに関与している可能性が高まったのです。//
p147
//脳のリンパ排泄を裏付ける大発見を、イリフネーダーガードは、リンパ系的機能(リンファティック)ということで、グリンファティック・システムと名付けました。この機構は、まだ検証中であり、評価が定まっていないことに注意してください。//
※ジェフェリー・イリフとマイケン・ネーダーガード(アメリカ)……2012年、//脳脊髄液が血管周囲腔から徐々に脳の内部に浸透していく現象を初めて観測することに成功//p143

脳の中を(動脈側から静脈側へ)水が流れていることから……

p149
//こうしたことから、私たちの脳の中では、寝ている間に、脳脊髄液がアミロイドβなどの認知症に関連する老廃物を洗い流してくれているのかもしれません。これまでただ脳の中を満たしているだけと思われていた「水」が、脳の掃除をするという大きな役割を担っている可能性があるのです。//

なぜ、寝ている間なのか?

p148
//睡眠時には覚醒時に比べて細胞外スペースが広がっているということが明らかになったのです。たとえ覚醒していても、ノルアドレナリン受容体を阻害することで、細胞外スペースが広がるということがわかりました。つまり、細胞外スペースが広がることで水の通り道が拡がり、脳脊髄液の流れが良くなったと解釈することができます。したがって、細胞外スペースは、脳のノルアドレナリン濃度によって伸び縮みしている可能性があります。//

ただし、混同が…… p149

//単に脳脊髄液がクモ膜下腔を流れてクモ膜顆粒から静脈系に吸収されるという古典的な脳脊髄液の循環を、アストロサイトによる脳脊髄液と間質液の交換のメカニズムである「グリンファティック・システム」と呼んでしまっている事例が多く、研究者の中でも混同している人が多々見受けられる点です。//

グリンファティック・システム」と呼んでいい現象、次の3条件を満たす必要がある。
//(1) グリア細胞のアストロサイトに発現しているアクアポリン4が関与していること//
//(2) 単なる拡散ではなく、動脈側から静脈側への積極的な流れであること//
//(3) ノルアドレナリンに依存していること//

p150
//グリンファティック・システムは、非常にセンセーショナルでわかりやすいので世界的に流行しており、研究業界でも、猫も杓子も二言目にはグリンファティック・システムという状況です。みなさんが情報収集する際には、ぜひ注意していただき、正しい情報を得て、正しい理解を心がけてほしいと思います。//

//「グリンファティック・システム」をめぐる論争// p151~155

 反論が出るのは以下のとおり、//注入に使用するトレーサーや注入の方法、麻酔が統一されておらず、実験結果を一意に解釈するのは容易でないためです。//p155
 ほか、//技術的な制約に由来するところが大きい//とし、//脳の水の動きを直接可視化する方法があれば//と課題をあげている。p151
p151
//残念ながらそのような技術を、今のところ人類は持ちあわせていません。今ある限られた技術の中でアイディアを実証する、あるいは、共同研究によってこれまで誰も思いつかなかった新技術を開発・検証するのが研究の醍醐味でもあります。脳の中の水の流れを直接「視る」のは、もう少し先の話になるかもしれません。//
(0)//グリンファティック・システムに対する懐疑的な意見の根拠となっている事例//
(1)//分子量の大きなトレーサーで本来の脳脊髄液の流れがわかるのか?//
── トレーサーの
//蛍光分子は、水分子と比べて非常に大きいため、溶質であるトレーサーの動きが直接、溶媒である水の動きを反映しているとは限りません。//
(2)//生体膜に穴を開けて実験することで、脳脊髄液の流れが変化するのでは?//
── //本来は完全に密封されている生体膜に直径0.4mm程度の穴を開けると、たとえば覚醒状態で自由に動き回る際にすきまや漏れが生じるのではないかという懸念があります。//
── //毎分1~2µLのトレーサーを外部から注入することによって、自然な脳脊髄液の流れや脳の中の圧力が急激に変化する可能性があります。//
(3)//実験時に使う麻酔薬が脳に影響をおよぼすのでは?//
── //ほとんどの全身麻酔薬はどうして効くのかわかっておらず、全身麻酔の作用機序を解明したらノーベル賞間違いなしとも言われています。詳しいメカニズムは解明されていませんが、麻酔薬は当然、脳の活動に影響を与えますし、脳脊髄液の動きも麻酔によって影響を強く受けることが報告されています(作用のメカニズムはわかっていないのに、人間の手術などでも実際に使用されているのは驚きです)。//
※ということは、麻酔専門医はどのように育成されているのだろう?
(4)//脳脊髄液の「積極的な流れ」は本当にあるのか?//
── //積極的な流れの存在は、アミロイドβのような重量のある物質を排泄し、脳の健康を保っているという魅力的なアイディアの根拠となっているため、さらに慎重な検証が必要となります。//
(5)//アクアポリン4が脳脊髄液の浸透に本当に関わっているのか?//
── 著者も参画した実験チームの結果
//たしかにアクアポリン4欠損マウスでは、脳脊髄液が浸透する割合が低いということを示しました。他のグループも各々、同様の結果を示しています。//

謎多い〈細胞外スペース〉

p155 グリンファティック・システム説が話題になることで
//脳のすきまである細胞外スペースやそこを満たす間質液脳脊髄液など、これまであまり注目されてこなかった脳を構成する要素にスポットが当たった//
p155
//これまで脳神経の研究は、おもにニューロンを対象におこなわれてきましたが、それだけでは真の脳の理解、あるいは脳の病気の理解や治療法は得られないと思います。//

p156 アルツハイマー病との関係において
//良質な睡眠が健康維持に重要であるというのは、当たり前のことのようですが、脳にとってはじつは脳脊髄液の流れも重要な側面なのかもしれません。//

p158 脳卒中との関係において
//虚血状態の脳組織では、さまざまな要因によって細胞外環境が変化するため、結果的にニューロンが異常な興奮状態を示します。あるいは細胞が破壊します。そうすると、間質液には高濃度のカリウムイオンが溶出し、周囲のニューロンに異常興奮の波が伝播します。異常興奮を脱したあとは、高濃度のカリウムイオンを含む間質液が滞留するため、ニューロンは電気的な活動ができなくなり長期間の抑制を受けます。その間もエネルギーを使用してポンプを駆動し続け、イオンのパランスを保とうとしますが、やがてエネルギーが枯渇して壊死してしまいます。//

p162
//脳は頭蓋骨や髄膜などで覆われ、さらに血液脳関門によって外部環境からは完全に隔絶されています。多くの薬学研究者にとって、開発した薬が血液脳関門を通過できるかどうかというのは重大な問題ですが、残念ながらその多くは通過することができません。//〈中略〉//このように、脳脊髄液を使って血液脳関門を通過できない重要な薬物を脳に届けるということは魅力的なアイディアに思えます。脳への薬物送達の観点からも、脳脊髄液の動きというのは注目を集めているのです。//

p163
//人体の6割以上が水からできているにもかかわらず、私たちは水そのものの動きを標識なしで可視化するツールをまだ持っていません。//

p163
//脳脊髄液は、常に流れて入れ替わることで脳の健康を維持しています。変わり続けることこそが「生きている」ということの実体と言えるのかもしれません。//
福岡伸一『動的平衡』木楽舎 2009年 の主張と重なる思いがする。
(参考)動的平衡と渚と紙飛行機

大脳皮質

三上章充『脳の教科書』講談社 2022年 p143
//大脳皮質は、大脳の表面に広がる厚さ2~3mm程度の神経細胞の層です。大脳皮質の神経細胞はその中で均一に無秩序に分布するのではなく、規則的に配列しています。その規則性の一つは、表面に平行な層構造です。もう一つの規則性は、表面に垂直な構造です。//

p109
//嗅覚に関係した嗅球や進化的に古い大脳皮質にあたる海馬では、オトナのサルをはじめとする哺乳類でも、神経細胞の新生が見られます。これらの領域では新生神経細胞が学習の役割を担っている可能性があります。//
※このことは、「大脳新皮質の神経細胞は新生しない」という否定的なデータの存在を示した上での可能性である。
(参考)山田規畝子『壊れた脳 生存する知』p216 新生血管
//脳は出血や梗塞で血が足りない状態になると、自然に新しい血管が生えてきて血流をまかなっていることが多い。脳を使おうという刺激で血液の需要が高まると、血管は先へ先へと伸びようとするらしい。同じように脳細胞もまた、使えば使うほど、それが刺激となって新たな細胞を形成し、故障部分を修復してくれるのである。//

脳の可塑性

前頭前野

自律神経系

三上章充『脳の教科書』講談社 2022年
p194
//体の中へのはたらきかけは、その多くが無意識におこなわれる調節機能ですが、体の外へのはたらきかけは意思にもとづきます。//
p196
//手足の運動、体幹の運動、顔や頭の運動などは、自律神経系ではなく体性神経系によってコントロールされています。体性神経系は意識的にコントロールが可能です。//

ホルモン

三上章充『脳の教科書』講談社 2022年
p197
//ふつうの神経細胞では、軸索の先端から分泌した伝達物質はシナプスを形成する相手の神経細胞に伝わり、相手の神経細胞に電気的変化を起こします。しかし、下垂体を支配する視床下部の神経細胞の軸索は下垂体のちかくの血管に分布していて、軸索先端から分泌される化学物質は直接血中に放出されます。//

脳(にんげん)の未来像

ミヒャエル・ベントン『生命の歴史』評論社 p84 ※見出し「未来の人類」
//将来、進化が現状のまま進むとすれば、人類の顔はより扁平になり、脳はより大きくなるだろう。身長も、さらに高くなるだろう。わたしたちでさえ、初期の人類の、2倍くらいの身長になっているのである。
 一部の科学者は、わたしたちの現代生活がその進化に影響するだろうとみている。ヨーロッパや北アメリカのほとんどの人が運動不足で、家庭や会社、車内では、すわっている時間が多い。そこで、脚が退化し、消滅するという人がいる! また、すわり続けで、お尻が大きくなるとみる人もいる!
 反面、そうはならないかもしれない。人類の生活様式はさまざまである。中国の農夫とニューヨークの銀行家を、エスキモーとアフリカの狩猟民をくらべてみよう。人類は特殊化していないし、ちがう生活様式に対応してもいる。とすれば、人類は現状のままかもしれない。さて、どうだろう?
 1000年後、100万年後の地球はどうだろうか。過去を研究することで、未来も予測できる。大陸は移動し続けているだろうし、氷河時代もくるだろう。最終的には、太陽が死滅するとともに、地球は凍ってしまうことになるだろう。//

2023.4.16記す

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